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原作者ピエール・ルメートルとアルベール・デュポンテル監督が共同脚本にあたり、華麗なる脚色を施すことで、原作ファンも映画ファンも楽しめる、幸せな映画に仕上がった。ラストシーンも秀逸だが、軽やかに戦争の責任者を糾弾するパーティーシーンが白眉。デュポンテル監督の冷徹な眼差しが冴える。美術、衣裳等趣向を凝らした作品世界の中でも、エドゥアールの心を表現する、美しい仮面が印象的だ。最後の青い鳥の仮面は、エドゥアールの涙がちりばめられ、光っているようにも見えて。
11年7月22日、ノルウェー・ウトヤ島で起きた無差別銃乱射事件を、テロ行為発生から終息までに実際にかかった時間と同じ72分間ワンカットで映像化するという、大胆な手法で挑んだ本作。大胆な挑戦を支えるのは、監督の真摯な想いと事件被害者への緻密な配慮だ。ウトヤ島とは別の場所で撮影し、犯人の姿はほとんど映さず、銃撃パニックに陥った若者の姿にフォーカスすることで、突然犯罪に遭遇した人間の圧倒的な恐怖や絶望を観客に体感させる。ある意味フィクションの極地である。
「続・夕陽のガンマン」(66)の伝説のシーンが撮影されたサッドヒル墓地が50年の時を超えて、映画ファンの手で掘り返されるというビッグ・プロジェクトの全貌に迫った本作。世界中からスペインの荒野に集まったファンと、彼らにビデオ・メッセージで、率直に感謝を伝えるエンニオ・モリコーネやクリント・イーストウッド、世界的ファン代表として『メタリカ』のジェイムズ・ヘットフィールドらの心の交流に、映画ひいては芸術の素晴らしさを感じて、観ているだけで胸が熱くなる。
冒頭のシーンで、環境活動家“山女”として荒野に立つ主人公ハットラに、すっかり魅了されてしまった(ジョディ・フォスターがリメイクを熱望したのも納得)。装い変われば、合唱団の講師然とする、女性らしい、軽やかな変化も痛快だ。後半、アイスランドからウクライナへの舞台転換も気持ちいい(過去を洗い流し、恵みをもたらす雨!)。ハットラが少女と出会うシーンでは、彼女の描く絵も、ブラスバンドから一転したピアノの音色も、全てがぴたりと調和して、やさしい時間になった。
ゴンクール賞小説の映画化で、セザール賞5部門受賞という非の打ち所なき栄光。ヌーヴェルヴァーグなんてこの地上に存在しなかったかのごとき「フランス映画の良質な伝統」を地で行く作りだ。顔面を破損した復員兵のために用意されるマスクを担当したのは、仏演劇界の著名な仮面制作者C・クレッチマー。全体として古色蒼然とした映画作法に停頓する本作にあって、最も精彩を放つのが彼女の手になる仮面で、それは仮面の主が死ぬまで脱がれることがない。「赤い靴」のように。
はっきり言うと北欧版「カメラを止めるな!」だ。夥しい数の犠牲者を出した現実の銃乱射事件の映画化だけに、ゾンビ映画に喩えるのは不謹慎の誹りを免れないかもしれない。しかし実話の厳粛さを「ワンカット長回し」という映画的な冒険で相対化したのは、本作の作り手側の方である。アクロバット的手法でテロ体験の恐怖に主観性をまとわせようとするのだが、その果てしなく持続するワンカットを眺める観客は、いつしかゲーム性の只中に置かれている自分を発見する。
浦崎浩實氏のキネ旬連載『映画人、逝く』をまとめた美しい2巻の書『歿』を持ち出すまでもなく、墓参りは映画史にとってきわめて神経過敏な領域である。S・レオーネ監督「続・夕陽のガンマン」(66)ラストの有名な墓場の決闘が撮られたスペイン中部の渓谷をファンが再発見し、墓参りし、聖地として整備する。しかし当時のスペインはファシスト独裁。政権にとって兵士の有効活用が急務だったからこそ、壮観なロケが実現した。この皮肉へのより徹底的な追究こそ肝要ではなかったか。
およそデタラメな通俗性から遠く隔たっているかに見える荘厳な景観の只中にあって、北欧の地で通俗活劇は可能なのか、という問題に監督エルリングソンが自覚的かは疑わしい。さしずめ関心は自然と文明の調和だろう。ところが映画とは不思議なもので、通俗に無自覚な精神に、高貴なる通俗性(これは語義矛盾ではない)が宿ることがある。精錬工場、鉄塔、ドローンなどの垂直物を破壊しながら横へ横へと逃走するヒロインは、「北北西」からどこへでも進路を取り得る活劇的存在だ。
伝奇小説の味。それも絢爛な挿絵で彩られた。顔を半分失った青年。その美しさと醜さが並んだ容貌。仮面が、彼の心の裡を隠し、強調する。人間の魂を呼びこむようなそのデザインに、こちらも魅了されて。この青年の心を理解するのが少女というところに、ちらり「オペラ座の怪人」も匂う。狂言回しを務める戦友、その道化風キャラ。戦後も堂々と生き残る元上官の悪役ぶり。そんな大衆ロマン的装いを絞りに絞りこんだら、父と息子の愛憎譚が残った。青年の痛みと哀しみが胸に刺さった。
孤島に銃を持った男が乱入。キャンプ中の若者を無差別に殺害していく。72分間、ワンカット。逃げ惑う一人の娘にキャメラはぴたり寄り添う。凄い臨場感。限定されたアングルなので、状況がよく見えない。それが怖さを増幅させる。ただし映画自体もどこか窮屈で。犯人の背景とか心理が分からない苛立ちが。男が主張する移民排斥の思想。言うことを聞かぬと、こんな目に遭うぞという脅し。むろん映画はそれに対し抗議しているのだが、逆宣伝の危惧も。これ、少しリアルに溺れてる印象。
「続・夕陽のガンマン」の熱烈ファンが集結して、クライマックスに登場の巨大な墓場を復元する。いやもうマニアがハマると何をしでかすか分からないと、こちらはアキレつつ感嘆! 作品自体はちとファンクラブの会に乱入した異端者の居心地の悪さが。けれど、当時のスタッフやエキストラが語る撮影現場のエピソードはやっぱり面白い。モリコーネとかイーストウッドの証言も貴重。特に橋爆破の話は抱腹。個人的にはあの映画にさほど思い入れがないが、愛好家には感激の一作だろうなあ。
自然破壊の大企業に抗して、ひとり闘いを挑む中年女性。そのあの手この手の奇抜なゲリラ作戦が面白く。本人は必死だけど、演出にどこかトボけた味があるのが嬉しい。特に伴奏音楽のミュージシャンが、随所で画面に登場する趣向が気に入った。「馬々と人間たち」の監督か。なるほど。官憲に追われての逃亡シークエンスも意外にサスペンスフルで。彼女を応援する牧場主の男、双子の姉、不運続きの旅行者など人物設定も愉しい。世の中に闘いの種は尽きまじ――てな幕切れに不屈の精神が。