パスワードを忘れた方はこちら
※各情報を公開しているユーザーの方のみ検索可能です。
メールアドレスをご入力ください。 入力されたメールアドレス宛にパスワードの再設定のお知らせメールが送信されます。
パスワードを再設定いただくためのお知らせメールをお送りしております。
メールをご覧いただきましてパスワードの再設定を行ってください。 本設定は72時間以内にお願い致します。
戻る
公開年:
現在の文字数:0文字
氏名(任意)
このタイトルでどうなの? と思ったが、いい意味で予想を裏切ってくれた。退職祝いの宴で、草刈正雄が挨拶しても、誰も聞いていない様子など、さもありなんという感じで肯けるし、無遅刻・無欠勤の律儀な男だから、ひとたびラジオ体操を始めると、マニュアル通りの体操を参加者に求めて嫌がられるなんて、この男のキャラの立て方が周到。そんな彼が、絵を描くのが好きということと、その絵の生かし方が、『ごっこ』の千原ジュニアの絵と重ねて、映画における絵の効果を想起する。
吉田羊の母さんが怖い。まあ、それだけ、彼女は、精神的に問題のある母親役を良くやっているということなのだが、にしても、ぽっちゃりと愛嬌のある小山春朋に怒りをぶつけるシーンはきつい。こんな母親のもとに育った子はどうなるんだろうと思うが、それを太賀が演じているのが、映画にとって良かった。防御的な薄笑いに、この青年の屈折した内面を窺わせながら、太賀の地の明るさが、深刻になりがちな物語をからっとさせる。金持ちの友だちをはじめ、良すぎる仲間が、やや物足りないが。
身内に自死された家族は,何故という苦悩に満ちた問いを抱え込む。たとえば娘は、自分の心ない一言が兄を死に追いやったのではないか、と。それは、新体操の練習をしている時にも彼女を襲う。また、父は、生前の息子の想いを探ろうと、その内実も知らずにソープランドを訪れる。その行動は真剣であるがゆえに滑稽でもある。まして、記憶喪失の母に愛する息子は生きていると信じ込ませる演技により、彼らの日常は二重化し、懊悩は深まる。それを台所を中心に描いた野尻克己監督に拍手!
これは、身も蓋もない言い方をすれば、バカ息子の帰還というお話ですな。だって、そうでしょ。田舎がイヤで東京の大学に行ったけど、勉強に興味がないから、バンドをやって、ちょっと認められたら舞い上がって、いっぱしのミュージシャン気取りになり、リンゴ作り一筋の親父をバカにするのだから。むろん、そんなバカ息子も、幼馴染みの一言でやっと、すべてを知りながら自分を受け容れてくれる親父のことを知るというように話は落ち着くのだが、彼のバカぶりに魅力がないのが致命的。
面白い。にも拘わらず星が伸びないのは、若い人の目線で物語が作られ過ぎているせいだ。私のような老人にはチクチク痛いシチュエーション多し。そんなに年寄りいじめて楽しいか、と若者連中に問いたい。そもそも突然「主夫をやれ」と言われても無理に決まってるでしょ。娘さんの態度に怒りがこみ上げる私だが、まあ終わり良ければ全て良し、とするしかない。地域のラジオ体操の世界にも様々な権謀術策が入り乱れて飽きさせないが、主人公の天然さに救われる。草刈さんは正に天使だね。
御法川監督の映画では、主人公が作り、操作する仕掛け、物象に主人公自身めいっぱい翻弄されながら究極的にはそれに救われる。それが世界のこんがらがったシステムを救う方策でもある。「二郎」にとっての「マメシバ一郎」や「泣き虫ピエロ」の「ジャグリング」がそうだ。「人生、いろどり」の「葉っぱ」も。ここでは主人公がたまたま参加することになった舞台ミュージカルの存在がそれに当たる。嫌な話でも鑑賞後ポジティブな印象が得られるのは「泣かせるための」映画じゃないからだ。
嘘がバレる段取りにムチャがあるものの喜劇的なシチュエーション込みで展開される家族の悲劇に圧倒される。オリジナル脚本っていいな、と思わせてくれる一本でもある。特に、長男の自殺直後の現場に、異なる登場人物の主観で何回か時間が戻る構成がスリリング。父親は現場を見ていないが、彼の車の窓ガラスが割れているのがポイント。彼は彼で厳しい役回りを演じていたことがやがて判明する。主人公少女の長い独白もテンション高く、堂々たる主演ぶりは「菊とギロチン」に匹敵する。
鉄拳の原作が十分弱でせっかくいい話にまとめたものを、何でわざわざ八十分の陰険な映画にしなきゃいかんのか。星を付けられないのはそのせいだ。ただし世の中の残酷さをたっぷりと主人公の甘えん坊が味わうという作りは説得的。でも悪辣なレコード会社の担当者に土下座するアーチストを描くよりも、りんご農家の苦労やそれを乗り越える工夫の方を見たかった。少年時代の主人公の純真さが父親の心の支えであったのを途中で観客は知るだけに、そう思う。目の付け所は良かったのだが。
「終わった人」と同じ定年映画と思いきや定番描写は冒頭のみ。草刈を直ぐにラジオ体操と遭遇させて、そこを起点に他者と緩やかに出会わせる。特異なテーマをこれ見よがしに扱うことなく、体操に妙な使命感を持たせずに、妻に先立たれた草刈がそれまで見向きもしなかった娘や暮らす町と交わるきっかけとして用いられるのが良い。融通が利かない草刈によって巻き起こる波風もささやかな小事件であり、さりげなく集まってくる人々の関係性を穏やかなタッチで描いた監督の手腕に魅了。
親の仕打ちで惨死する子どもが後を絶たない時代に何と古めかしい話か。虐待に耐えかねて家を飛び出した息子が母への思い絶ち難く再会し、何を言われようが食らいついていく。子は親を選べないのだから親を理解して大切にしろというカビの生えた修身的な教えでしかなく、つか芝居とまでは言わないがマゾヒスティックな母子物語にもならず、「愛を乞うひと」より遥かに後退している。今年は映画で際立つ吉田羊が引き続き好演し、熱演になりすぎずに嫌な後味を残さないのが唯一の救い。
ベテラン助監督の監督デビュー作だけあって狭い日本の家屋も巧みに活用し、息子の自死を母が発見する冒頭から目を引く。便利屋的な使われ方が多かった原日出子にじっくりと芝居させ、新人も交えた配役の妙が成功している。シリアスな場面は演出の上手さを感じさせるが、喜劇的な場面はもたつく。母のために息子の死を隠す嘘が過剰化していく必然に欠け、やむにやまれず嘘を重ねている必然が薄い。嘘が露呈するくだりもかなり無理があり、段取り的な行動になってしまうのが興醒め。
親への感謝は忘れないようにしましょうという大きなお世話のメッセージに辟易するが、鉄拳原作となると古色蒼然とした何の捻りもない話を見せられるのは「振り子」同様。道徳映画と見まがう説教臭い話かつ退屈な台詞の応酬に、男に奉仕する古い女性像を体現させられる財前や成海をはじめ、これだけのキャストが参加していて気の毒。主人公へのレコード会社の社員の言動も薄っぺらくて観てらんない。鉄拳の漫画が劇中に出てくるが、終盤では均衡を崩すほど長々と見せるのも閉口。