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ジュリアン・バーンズの原作小説は読んでいた。ハリウッドやニッポンとは違い、原作厨(笑)も納得の格調高い映画化。英国的情緒に彩られた微温的なイヤミスともいうべき物語を、バトラ監督はあくまでも正攻法で撮っている。ネタバレ厳禁だと思うのでまだるっこしい書き方になってしまうが、あの意外(?)な結末は観客の性別と年齢によって受け取り方が異なるかもしれない。そもそも映画化向きの設定なんだよねこれ。しかしシャーロット・ランプリングの見事な老い方には感動する。
ビグロー監督の過去作品と同様に、今作もさまざまな論議を呼ぶのだろうが、この題材を今、これほどの強度で映画に出来るのは、彼女以外にはいないだろう。徹底してドキュメント・タッチのカメラワークといい、役者陣の異様な緊迫感に満ちた演技といい、観客を「その時、その場」に立ち会わせるためならば何でもするとでも言いたげな迫力が、作品全体に漲っている。ある意味で主役と言っていいレイシストの警官を演じたウィル・ポールターが、極めて難しい役柄を見事にやってのけている。
アルツハイマーで自分の記憶に確信の持てない元連続殺人犯という設定は、今となっては斬新とまでは言えないが、面白いアイデアではある。原作小説は読んでいないが、いかにも映画化向きであることも確か。実際かなり面白いのだが、その面白さはもっぱら主演ソル・ギョングの鬼気迫る(だが繊細なニュアンスに富んだ)演技と、見せ場たっぷりの派手な映像にあり、せっかくの弄り甲斐のあるプロットがあまり活かせていないような。面白いのだが。あとこの幕切れはどうなんでしょうか?
リンチ自身のナレーションが実に素晴らしい。あの声と語りの雰囲気は彼の映画そのものだ。あくまでもクリアで明快なのに、同時にどこか奇妙で謎めいている。「アートライフ」という言葉は一見とても普通だが、その意味するものは深い。これを観るとわかるのは、リンチを造ったのは環境でも経歴でもなく、持って生まれた天賦の感性であったということだ。それは一歩間違っていたら暗黒面に堕ちていたかもしれない天才である。「イレイザーヘッド」完成より以前の、若き芸術家の肖像。
バトラ監督は以前「めぐり逢わせのお弁当」がとても面白かったので楽しみにしていたら、期待を裏切らない面白さだった。男性が安全な場所から過去を振り返るドラマはたいてい都合よく美化されていて虫酸が走るけれど、その甘美なノスタルジアを逆手に取って覆し、さらに未来を見据えた射程距離の長さ。人の記憶の不確かさと業の深さを糾弾しながらも受け入れ、叙述トリックに溺れることなくミステリーに仕立て上げていて見応えがある。この成熟した手腕がまだ38歳とは。
映像としてはほぼ初めて見る事件の光景なのに、妙に既視感があるのは、描かれているのがいじめとほぼ同じ構図だからだろうか。白人警官を演じたウィル・ポールターがクセのある顔つきだけにインパクトは半端じゃない。ただ、彼らが悪者という描き方とはちょっと違う。やっていることは卑劣極まりながら、彼らに罪の意識はなく、行動だけが刻々と記録され、手持ちカメラによる臨場感との温度差が歪な社会認識を炙り出す。いつ自分が加害者の側になるかわからないというのが一番怖い。
さすがに設定に無理がありすぎるのでは。後出しジャンケン的な構成で次々と明かされるタネがことごとくツッコミどころ満載でドラマがまったく頭に入ってこない。ラストのオチも理解できたのかできていないのかいまだに自分でもわからない。唯一オ・ダルスが出てくるときだけは安心して観られるが、果たしてエンドロールまでたどり着けるのか、終いには学芸会の子供を見守る親のような心持ちになってしまった。そしてやっぱりソル・ギョングは悪役があまり似合わない。
リンチ本人の肉声や喋り方といったものに、今まで特に注目したことはなく、これといったイメージもなかったのだが、その発音の美しさとゆったりした優雅な語り口にすっかり耳を奪われてしまった。本作におけるリンチ像は声に属している。キャッチーなビジュアルは広く知られているところだが、キャンバスに向かうリンチの姿は職人のように厳かだ。彼の描く絵や実験映画的な映像も非常に刺激的で楽しめるのだが、個人的にこの映画の一番の魅力は、リンチの声に尽きると思う。
純文学的ミステリとも言えるジュリアン・バーンズの傑作『終わりの感覚』の完璧な映画化である。ディラン・トマスに憧れ詩人を志した学生時代の甘く苦い初恋と静かな晩年が鮮やかな対比で描かれる。一通の手紙から忘れていた初恋の行方が主人公の心を揺さぶる。満を持した如く登場する何十年ぶりに会う初恋の人、橋の上に佇むシャーロット・ランプリングをとらえたショットは、主人公になった如く心を動かされる映画的快感だ。そこから始まる意表をつく展開。監督の手腕は見事だ。
政治的テーマの問題作を撮り続けているキャスリン・ビグローの最新にして最高の作品だ。背景は1967年のデトロイトの黒人暴動。愛国者を自負する白人警官の差別的言動が引き起こした悲劇的な事件を、モーテルの一室という空間に絞り込み、一幕の密室劇のような緊迫したドキュメンタリータッチのドラマに仕立て上げている。半世紀前の出来事だが、世界は旧態依然、各地で差別主義やレイシズムが大衆の支持を受けつつある今日こそ、この映画の持つ意味は限りなく大きい。必見!
殺したのは悪い奴だけ、今は娘と静かな生活を送っている初老の獣医、ふと知り合ったエリート警官に自分と同じ殺人者の匂いを感じ取り、壮絶な死闘へと発展する。暗くウィアードなストーリーを人間の対立関係だけで押してゆくサスペンスの力強さは類を見ない。複雑な要素を混乱なくストレートに描く展開は瞬時も目が離せない。冬の田園を背景とした映像も見事で、ソル・ギョングの鬼気迫る演技と相俟って「セブン」「メメント」「インソムニア」を凌駕する斬新な傑作となっている。
映画監督を取り上げたドキュメンタリー映画は最近多いが、この映画はそれらとは大きく異なる。作品の映像はない。出演者やスタッフも一切出てこない。作品の解説や裏話もない。絵の具を練り、粘土をこね不思議なタブローを黙々と作っている彼の姿にボイスオーヴァーがかかり、映画に関わる以前のアーティストを志す田舎町の青年の心情が語られる。リンチ映画の便利な入門ガイドとは言えないが、この全体像の捕らえにくい複雑な作家を理解する助けになることは間違いない。