パスワードを忘れた方はこちら
※各情報を公開しているユーザーの方のみ検索可能です。
メールアドレスをご入力ください。 入力されたメールアドレス宛にパスワードの再設定のお知らせメールが送信されます。
パスワードを再設定いただくためのお知らせメールをお送りしております。
メールをご覧いただきましてパスワードの再設定を行ってください。 本設定は72時間以内にお願い致します。
戻る
公開年:
現在の文字数:0文字
氏名(任意)
この映画に現出する驚くべき2つの空間--それは首都マニラのスラム街、そして警察署の裏オフィスである。スラムではお菓子屋で簡単に麻薬が買える。それにも増して、警察の腐敗ぶりは失笑を禁じ得ない。彼らは、逮捕した人間の保釈金で私腹を肥やすことにしか頭を使わない。主人公のローサは麻薬売買で拘束される。自業自得ではあるが、そんな彼女を同情せずにはいられぬほど、周囲がそれ以上に腐っている。それをひたすら空間性で見せきるメンドーサの演出に舌を巻いた。
撮影カロリーヌ・シャンプティエ、翻案・台詞パスカル・ボニゼール。「北の橋」「地に堕ちた愛」「彼女たちの舞台」--題名を記すだけで興奮するジャック・リヴェット組の旧カイエ派が不意に再集合して、戦後混乱期ポーランドの雪に覆われた修道院にカメラを向ける。修道女たちを襲った悲劇は筆舌に尽くしがたい。だが本作はリヴェット「修道女」におけるアンナ・カリーナの悲劇の二の舞にはなるまいとするがごとく、毅然として楽天的に振る舞う。逆流する教訓に目眩がする。
たとえば村上隆が唱えた〝スーパーフラット〟は現在進行形のフジヤマ=ゲイシャであり、リオ五輪閉幕式で披露されたジャポニスムもその延長線上にある。本作の存在意義は、そんな〝売り〟にまったく無頓着な点にある。西アフリカ・リベリアのゴム採集労働者が環境に嫌気が差して、一旗揚げようとNYに移住する。そこには日本人監督の強みなんぞ当てにせず、個の苦渋、個の叫びへの普遍的なまなざしだけがある。日本映画の業界的脈絡を外れたこの作品は、存在するだけで意義がある。
「アイスバーグ!」「ルンバ!」のアベル&ゴードンは、今はなきフランス映画社が最晩年に紹介した作家だ。同社が弱体化していたため、まったく話題にならなかったが、今回めでたく再登場となった。J・タチ~W・アンダーソンの流れを純化させた道化的な流浪。当世風に〝2・5次元〟と嘲笑して済ますこともできるが、この捨てがたい無手勝流は、もう少し泳がせておきたい気がする。こんな幻視的情緒に耐えうる都市はパリ、京都、NY--もはや稀少な映画的不動産(ロケーション)なのだから。
リアルがゴロンとそこに転がっている感触。手持ちキャメラで人物たちを息をつめて追いかける、その緊張の糸が全篇ピンと張りつめて。まさにこれはデジタル(機材)の時代でなければ作り得なかった映画だろう。その新しい息吹を浴び、官能を刺激されながらも、このコワい現実、どうしようもない腐敗、そこから作り手が何を引き出すかを見つめたのだが。あの「自転車泥棒」の絶望の中の光。それと近いものがちらり匂ったものの、もうひと息という感が。それだけ状況が過酷なんだと溜息。
終戦直後のポーランドの修道院。そこで尼僧たちが集団妊娠のショック。彼女たちを救おうと奮闘の女医。その障害物が修道院長でありカトリックの戒律であるというところが興味深い。戦時中より戦後、暴力より信仰の方がより過酷だったという皮肉。そこにキリスト教批判、というより、神に仕える者、その中にある偏狭さへの抗議が嗅ぎとれる。いくつかある修道院映画の如く、この作品も静謐な筆遣い。そこに人間の血の温もりをさらり通わした演出だが、少し型にはまりすぎの物足りなさも。
ゴムを採取のオッサン労働者たちがストライキを打つ。女房連はそれを理解できずに「怠けるな」とケツを叩く。ボヤキながらブラブラする亭主たち。そのスケッチが面白く、辛さの中にユーモアをにじませた演出に身を乗り出した。後半はガラリ、ニューヨークが舞台になる構成の妙。未来のために働く男、そこに過去が現れてまとわりつく。その奥にリベリア内戦の残酷を匂わせて。怖い。惜しいのは突然の事故の設定。それで結末が舌ったらずになって。88分の力作。この監督、先が楽しみだ。
過酷な現実を描いた作品の後にこういうのに出会うとホッとする。もうもう肩の力を抜いて楽しんだ。この夫婦のニヤニヤクスクスの演出スタイル。これが3回目のお目もじともなると久しぶりと声をかけたくなる親しみが。J・タチ、R・デリーを思わせる笑い。冒頭の事務所の画面には腹を抱えた。が、全体的には、少し上品すぎの物足りなさもあって。ドタバタ喜劇の飛躍とまでは言わないが、もうひとつ弾けたギャグもほしくなる。ちと計算しすぎの感もする。とはいえど、この愉しさは貴重。
マニラのスラム街。雑貨を売る傍ら、家計を支えるため麻薬を売る夫婦が密告され逮捕される。CM監督出身、12年前に45歳で映画監督デビューしたブリランテ・メンドーサは、スラムの構造を俯瞰でとらえると同時に、登場人物の行動に密着しながら幾重にも覆う襞を1枚1枚剝いで内側の光景を見せる。全篇を貫くドキュメンタリー・タッチは、特に後半、高額な保釈金を一家が集めるべく動き出す辺りから威力を増す。言葉を失うクライマックス。それでも人々の澄んだ生命力に救われる。
ポーランドのシスターたちと、フランスの女医。それぞれに使命を持って生きる女たちではあるけれど、基本的に水と油のはずの女たちが、性被害と出産という、戦争中の予期せぬ出来事をきっかけに交流を始める。フランスの才女アンヌ・フォンテーヌが、フェミニズムと宗教的信仰の意外な接点を、硬質な知性だけでなく穏やかな優しさを持って探っているのが新鮮。女医役の若手女優ルー・ドゥ・ラージュがいい。撮影はカロリーヌ・シャンプティエ。女のストイシズムが光る最強タッグだ。
リベリアからNYへ向かった男の物語を、NYを拠点にする日本人監督・福永壮志が長篇デビュー作として製作。経緯も含めてかなり独特だが、丁寧な作りで安定した見応えがある。前半はリベリア、後半はNYを舞台にしており、2部構成、いや、2つの作品が1本になった印象。そもそも撮影監督の村上涼(本作を撮影中に病で若くして死去)がドキュメンタリーとして撮っていたリベリア部分に着想を得てフィクションにしたとのこと。リベリア部分は興味深いので、そちらも観てみたい。
パリに暮らす老叔母にはるばる会いに来たカナダ人女性が、異国で珍道中を繰り広げる。ヒロインと、彼女が出会うホームレスの男性を演じるのは、本作の監督でもある夫婦コンビ、アベル&ゴードン。以前話題を呼んだ「アイスバーグ!」(05)「ルンバ!」(08)よりも、原色溢れるパリを背景にしたこの作品はキュートで面白い。パントマイムを素地にするふたりのユニークな身体(すごくよく似た体つき!)と、身体表現はもうそれだけで映像を支える高度な芸。仄かなお色気感も粋。