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朴正熙独裁政権下の拷問を扱った作品としていつも思い出すのは「ペパーミント・キャンディー」だが、あの哀切きわまりない名作と打って変わり、暗い時代をF・キャプラばりのコメディ舞台へ転化してみせるのだから、やはり韓国映画は依然として進化をやめていない。貧乏脱出にしか興味のないソン・ガンホ扮する高卒弁護士が、拷問を受けた思想犯の弁護を引き受けたのをきっかけに、社会正義に目覚めていく。学のない田舎者が正義に目覚め、やがて大事を成す。まさにキャプラだ。
冒頭クレジットに故アレクサンドル・トローネルの名を発見した時、震えた。史上最も偉大な美術監督との時ならぬ邂逅で不意を打たれた。こんな椿事がいまだ起こりうるのだから、映画はやはり素晴らしい。ポーランドのグダニスクでロケし、古き良きロンドンに見立てつつ、アナクロとモダニティを自在に往来する美術・衣裳によって、時空を攪乱する。下水道に隠遁する貴族とがめついルンペンの切々たる友情を、珠玉のイギリス文学のごとく語る。金管によるバロック調の劇伴も絶品だ。
台湾で生まれ育った20万日本人子弟「湾生」の現在を追う。彼らの望郷の念は尋常ではなく、戦前戦中の台湾が極端に桃源郷と化している。名門の台北第一校女に通学した令夫人は自らを「異邦人」と位置付けていた。その自称は、植民地入植者の子弟という加害者としての立場に立脚しつつも、台湾の風土と友たちを慕い、戦後に帰国した日本を異郷と思わずにいられない無念さの表象であろう。作者は多分に親日的。殺伐たる現代極東情勢において、日台の奇妙な相互慰撫は洞察に値する。
セルビア人女性とクロアチア人男性が被る民族対立の苦悩を、3つの時代、3組のカップルで重層的に描き分け、ミクロから普遍的な博愛へと敷衍していく緻密かつ鷹揚なる製作姿勢に好感を持つ。また手持ちのぐらぐらカメラは、かつての「ドグマ」勢の方法論先行から脱し、人間と土地の調和さえ生み出した。ただ、かつては共産圏映画には独特の色と匂いがあったものだが、もはやロシア・東欧の映画も、西欧の「作家映画」と同質の美学体系に組み込まれた感がある。寂しさを禁じ得ない。
つい三十年ほど前まで韓国は軍事政権だったんだよなあ。弁護士時代の盧武鉉(元大統領)が、大学生の冤罪を晴らすために奮闘する裁判劇。演出は山本薩夫を思い起こす政治講談調。韓国映画の情の濃さが、ここでは時代の非情を際立たせている。劣勢だった弁護士が反撃に転じる場面の、躍るようなキャメラ・ワークの昂奮。裁判長、検事、軍人など悪役陣の憎々しさぶりも(型通りとはいえ)当時の政権の怖さと手強さを彷彿させて。ソン・ガンホ巧演。主人公の過去の回想はなくもがな?
地下水道に棲む高等遊民がいて、地面の上下を自由自在に浮遊するコソ泥がいて、小人がいて巨人がいて、娼婦、乞食、偽盲人がいて、祭りがあってサーカスがあって――と出てくるものはこの監督の世界。だけどそれが整然と陳列された趣き。あの「ロレンス」の二人も、もうこの時は脂気が抜け、瑞々しさが薄れ、ならば熟練の演技を発揮かと思ったが、舞台の型からハミ出ぬ味気なさ。大詰めの冒険活劇調も、この監督の肌に合わぬチグハグさを感じて。う~ん、やはり野に置けホドロフスキー。
戦時中、台湾で生まれ育った日本人たちの郷愁のドキュメント。今は年老いた者たちが彼の地が楽園だったと口を揃えて懐かしがる。台湾の人たちも、それを自分たちの喜びとして受け止める。いい話である。けど、日本に統治されていた時代のホンネも聞きたかった。戦後生まれの監督は、いろいろあったけど、もういいじゃないかという。その赦しが逆にこの映画の物足りなさとなって。日台双方から見た〝戦時〟を描いてほしかったのだが。もう十年、二十年前にこれが作られていたらと思う。
クロアチア紛争を背景にした3つのラブ・ストーリー。第1話はもろロミ・ジュリ風の素朴さ。第3話は現代の彼の地の若者たちの生態が興味深いが、中身はシンプルな愛の復活話。紛争終結直後の男女を描いた第2話がいちばん印象的で、互いに惹かれあっていても、敵味方の感情が邪魔して、なかなか結ばれない。その二人の気持ちが繊細に描かれるアドリア海が解放の場として捉えられ、海水浴の映像が官能的な魅力を。これ、クロアチア人監督のセルビア人に対する贖罪の映画だと思ったが。
故・廬武鉉元大統領の弁護士時代を描いた社会派人間ドラマ。学歴もコネもない彼は、やがて身ひとつで税務弁護士にのし上がるが、ある事件をきっかけに人権弁護士へと転身する。1970年代後半から80年代にかけての韓国の空気がとてもよく出ているのではないか。後半は政治色が強まっていくが、当時の風俗史を辿れる点でもなかなか興味深い作品。主演のソン・ガンホは、俗物から硬派な弁護士になっていく変化を力強く体現。ただ、私は彼が持つ俗っぽさを偏愛しているのだよなぁ。
ホドロフスキーが26年前にイギリスで撮った曰く付きの作品がついに日本初公開。作品の方向性を巡ってプロデューサーと揉めたようだが、街や地下道の贅沢なセット、渾身のモブシーンは圧巻だし、ディケンズ風感動作の中に、窮屈ではあってもホドロフスキーの毒は織り込まれていて、そんなバランスの悪さも含めて楽しめる。が、何より、ここ数年で立て続けに亡くなった3人の名優を偲びたい。円熟のオトゥールとシャリフが凛と楽しそうに芝居を交わす一幕を収めているだけでもお宝。
戦前台湾で生まれ育った約20万人の日本人のことを湾生と呼ぶ。戦後、未知の祖国・日本へ強制送還された彼らのいまを取材し、望郷の思いを丁寧に掬いとったドキュメンタリー。湾生の人たちのさまざまな人生。台湾製作だからこそ踏み込め、映し出せたと思われる、それぞれの背景の複雑さと豊饒さに引き込まれる。同時に、教科書ではわからない日本と台湾の関係も新たな角度から見えてくる。湾生の父を持つ娘さんの〝アジアで日本が嫌いじゃない国もあるんだ〟という言葉も印象に残った。
1991年、2001年、2011年。クロアチア人とセルビア人の民族紛争の勃発を皮切りに、3つの時代を舞台にした、3組の若者の愛の物語を描く。面白いのは、どの時代のエピソードも、同じ男優女優がカップルを演じていること。設定は違うし、まったく別人に扮しているのだが、何かがリンクしていて、時代を追うごとに男女の関係性が深まっていくかのよう。さらにその男女の愛憎は、2つの民族の愛憎の擬人化とも見えて重層的。灼熱のような愛と官能描写の訴えかける力が凄い。