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説明抜き、出会った瞬間に恋に落ちた二人を、常に動きの中で描いているのがいい。自転車の相乗りもそうだが、町中を流れる浅い川に、小松菜奈扮する夏芽が背中から滑り落ちたりするところ。「黒崎くんの言いなりになんてならない」で魅力を感じなかった彼女が、本作では見事な美少女ぶりを見せているのは監督のせいか。対する、金髪で走り回る菅田将暉は言わずもがな。ただ、その勢いがどこかで削がれた感じがして、★を一つ減らしたのは、二度目の火祭りがやや長過ぎたためか。
なによりもアニメーションの力を感じる。むろんCGでも、昭和十九年当時の呉の街並みを再現することは可能だろうが、本作の手で描かれたそれにはかなわない。つまり、描くという行為の厚みが、この世界を生かしているのだ。それは、北條すずをはじめとする人物造形についてもいえよう。すずに、これ以外ないと思わせる声=語りで生命を吹き込んだのんもエラい! かくして、世界の片隅で生きる一人の平凡な女性の戦中から戦後への暮らしが、普遍的な輝きを帯びて浮かび上がる。
同じ監督の「秘密」よりすっきりしている。話の基本線が、あれほど持って回っていないから。それにしても、殺しのヴィジュアルが厚化粧というか、盛り過ぎ。これは、原作からきているのかもしれないが、それに留まらず最近の日本映画のある種の傾向のように思う。シンプルな骨組みで見せきるのが難しいので、ヴィジュアルやオーバーな表情でカバーするというような。まあ、カエル男のマスクなどは面白いし、〝泣き〟の妻夫木が、顔をあそこまで作り込んでいるのには感心したけれど。
学徒動員先の工場で九死に一生を得た黒木自身の語りから、澤地久枝をはじめ、映画作りを共にした劇作家や美術家、戦時下の日常から戦争を描く四部作を作る契機となったポーランドとの合作TVドキュメンタリー『かよこ桜の咲く日』のプロデューサーや広島の被爆体験者などのインタビューが、黒木和雄の想いを増幅していく。黒木は戦争体験が忘却されることを案じていたが、広島大学の学生たちが、元安川で原爆瓦礫を発掘している姿を見れば、例の微笑を浮かべるのではないか。
漠然とジュニア版「火まつり」か、といぶかしんで見ていたら、全くそうだったのでかえって面食らう。物語が青春で音楽がやかましく画面が美しい。二時間続くプロモーション・ビデオというか、インパクトだけを計算した感じが私には疑問であった。が、後で一緒に見ていた先輩に聞いたら彼女はハマったそうだ。確かにパツキン菅田の美しさは比類なく、いわば生き神さまみたいな少年だからね。面白いのはこの少年がとある出来事を契機に挫折しちゃうところで、それを許せるかが鍵だな。
最初の方に県産業奨励館のぴかぴかな姿が出てくるだけで胸が痛むが、呉がまだ干潟だった頃のお使い風景から始まり、ああそういう映画なんだ、と胸をなでおろす感じもある。実は原作を読んでない。水彩画的な画面のタッチと主人公の絵心がマッチして、極上の効果。日常への妖怪出現がありがちな気がしたが、終わってみると納得、さすがな構成力である。原作からそうなのだろうが、無駄なまでにおっかない義姉の存在がめちゃくちゃ効いていて儲け役、もちろんのんちゃんの声優も大健闘。
この監督の前作もそうだったが、画面が強烈なのに脚本が弱い。原作によりかかっているようだ。捨てるべき細部がいっぱい残ってる感じ。ラストのとんちきジャーナリストとか、少年のトラウマを暗示する液晶画面描写とか、海老殻症の患者がラーメン屋で大暴れしたり(話せば分かるだろうよ)とか。要らないね、どれも。「セブン」のダメなところを全部集約した映画だから、「セブン」ファンなら評価するだろう。その上ミスリーディング(意図的な話の逸脱)は上手く、残虐趣向もばっちり。
黒木のフィルモグラフィ中、特に原爆禍や銃後の人々を描いた数本にスポットを合わせ、かつての彼の助監督後藤幸一が黒木の作品観とその背景を追っていく。正直に言ってしまうと私が黒木に興味を失っていくきっかけがこれらの映画なのだが、この際そういうことは関係なし。こういうピンポイントに特化したアプローチはありだと思う。もちろんそこには突然「戦争OK」の国になってしまった日本への批判が込められており、多彩なコメンテイターの方々もそういう視点で全員語っていた。
小松と菅田が2人でいるシーンは常に周囲が水で満たされ、神話的世界を形成する圧倒的な素晴らしさ。これまで男の描写に難ありだった山戸が菅田を得て身体性を活かした演出も相まり〈特別に見えた〉2人の黄金時代が夾雑物を排して美しく描かれている。だが、後半の退屈な日常や重岡(演技はいい)との関わりが増えると凡庸に。三段式ロケットの如く次々と着火させて飛距離を伸ばす山戸映画の手法は中篇では有効でも2時間の尺では失速も顕著となり、★は相殺せざるを得なかった。
戦中が特別なのではなく、戦前も戦後も継続した時間にすぎないという忘却された自明の理を個人の視点から見事に映しだす。「マイマイ新子と千年の魔法」で草木や川に精気を漲らせた様に、今度は身体から匂い立つ色気や性が豊かに漂う。爆撃にもアニメならではの息吹がもたらされ、柔らかなタッチながら日常の中の戦争を実感させる。元号を省いた数字のみ表記、玉音放送の新録音など固定化したイメージの再考も素晴らしい。のんも予想外に好演。「火垂るの墓」と双璧の秀作が誕生。
また「羊たちの沈黙」+「セブン」かよ! もう20年だよ。韓国ノワールを横目にこんなヌルいサイコサスペンスでいいのか。カエル男も記号でしかなく、不気味な触覚感も皆無。その素顔と言えば特殊メイクで凶悪な外面を作っても狂気を感じさせず、猟奇殺人犯がクラシックを流しながら「これがボクの作品だ!」と叫ぶ紋切り型の描写に終始。舞台を犯人宅に移した後半は、主人公が再会を夢見る家族の幻影に「寂しい思いをさせてゴメン」と土下座したり回想が入ったりとこれまた冗長。
黒木和雄の戦争4部作を軸に、撮影現場の再訪、関係者の証言を丹念に集めた真面目なドキュメンタリーである。晩年の黒木作品の記憶が甦るが、10年前にETVで組まれた特集の同工異曲の感も。これも黒木の一面ではあるが、本作では一言で済ませてしまう岩波映画、TV『天皇の世紀』、ATG、晩年の「スリ」などに愛着がある者としては、黒木の多面性の中にこそ本作が提示する問題があったと思うのだが。観る機会の少ない『かよこ桜の咲く日』の映像とスタッフの証言は貴重。