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いきなりイタリア語から始まって、かなり驚かされる。エクソシスト=悪魔祓いというのは韓国映画としては珍しい題材なのかもしれないが、善悪の極端な対立であるとか広い意味での「憑依」というのは、お得意のテーマなのではないだろうか? 話の展開も従来の「エクソシストもの」に則っており、言ってしまえばそれだけなのだが、後半ひたすら延々と続く悪魔祓いシーンの異様な迫力と、主演3人の熱演に見入っていると、ラストにド派手な見せ場が待ち受けている。カルト化必至!
どうして最近の映画って「実話」がこんなにも多いのだろうか。良く出来た話にフィクションもノンフィクションもないとは思うが、なんとなく「事実」に対する「虚構」の持ち得る力が全世界的に弱まっているような気もしてしまい、少し寂しい。92歳の誕生日を迎えたマドレーヌは、病気でもないのに、2カ月後に自らあの世に旅立つと宣言する。そこから起こる悲喜劇。マドレーヌの気持ちがわかる人って結構多いのではないだろうか(自分もです)。娘役のサンドリーヌ・ボネールが良い。
リドリー・スコットの製作、ウィル・スミス主演による、実話を基にした、最近よくある告発的内容の作品。だが申し訳ないのだけど、自分はアメフトにもNFLにも全く関心がない。なので評者としては不適格なのだが、非常にシリアスで地に足の着いた良質な作りの映画だと思う。現在も継続中の問題を扱っていることもあってか、娯楽性は皆無であり、地味と言えば限りなく地味なのだが、社会派ドラマとして正攻法の作りの中でスミスの抑えた演技が光る。しかしこれ、解決出来るのだろうか?
個人的にはソクーロフって結構出来不出来があると思っていて、これも実はあまり期待していなかったのだが、予想をはるかに越えて素晴らしかった。第2次世界大戦中、ドイツ占領時のルーヴル美術館の運命を描いたフィクション仕立てのドキュメンタリー(?)で、劇映画的場面の合間に監督自身(?)が船で美術品を運搬中に嵐に遭遇している友人の船長とスカイプで会話するシーン等が挟み込まれる。ルーヴル美術館長ジョジャールとナチス将校メッテルニヒ伯爵の長い物語には感動した。
アジア映画として、アジア人の登場人物で、悪魔祓いのジャンルに真剣に取り組んだ心意気をまず讃えたい。その上で、かなりよく頑張ったと思う。アジア系のホラーテイストと西洋のオカルト要素を織り交ぜながら、ファンタジーに傾きすぎず、だがいざというときには憑かれた者の振り切れた怪演で理屈を超越し場を圧倒する力もある。クリスチャンの多い韓国だからこそ成立したネタかもしれない。キム・ユンソクのエクソシストっぷりとカン・ドンウォンの司祭コスチュームプレイも悪くない。
超高齢化社会となりつつある現代社会において、命の終わりを決めるのは医師なのか、意志なのか。医学による死のコントロールが認められるならば、それを選択するか否かの個人の意志も尊重される必要がある。高齢者という集合体の象徴ではなく、あくまでも一人の人間のパーソナリティとして、その闘いを描いているのが面白い。冒頭いきなり本題に入る語り方や、同時に起きていることを同じ画面の中で一度に写すのではなく映画ならではの複眼的な視点でつないだ編集も上手い。
米大統領選の演説合戦を見ていると、正義とはどれだけ多くの人を説得できたかどうかで決まるのだと肌身で感じる。何かを訴えたければ真実を検証するよりもスピーチの見せ方や論法を磨いたほうが現実的なのだ。もし本作が娯楽作品ならば、ウィル・スミス演じる医師も奇抜な説法でNFLに対抗しただろう。逆に正攻法で描こうとすれば、シリアス=退屈のリスクをとるしかないのだ。アメフト信仰を脅かしかねないナイジェリア人医師への攻撃は容赦ない。大人のいじめはこわい。
漱石の『夢十夜』に、明治の木に仁王は埋まっていないという話がある。だから鎌倉時代の人間である運慶が生きて彫り続けているのだと。過去に戻ることはできないけれど、当時から残っているものには、やはり当時の文化や人が宿っているはずなのだ。それがルーヴル美術館ともなれば、増改築を重ねた建物自体にもいくつもの時代が刻まれ、収容されている美術品にもそれぞれの時代や背景がある。しかも今なお現役で。ドキュメンタリードラマの舞台としてこれほど贅沢なセットはない。
悪魔祓いの映画は欧米のホラーに親しんでいる者にとっては珍しくないが、意外にも韓国ではこれが初めてだそうだ。明らかに「エクソシスト」韓国版を狙っているが、安直なコピーにするまいとシャーマンなど韓国独自の風俗を取り込み工夫を凝らしており、映像はスタイリッシュ、主演コンビもいいので面白く見られた。既視感を覚えるシーンが多いのはこの種のジャンル映画では仕方がないのかもしれないが、今ひとつオリジナリティが欲しい。話の鍵となる子豚はよく判らなかった。
ヒロインの老女は他人の助けを借りねば生きられなくなったら自らの手で人生に終止符を打つと決意し、家族に死ぬ日を告げる。家族は皆狼狽するが、高校生の孫息子だけが祖母の意図を素直に理解する。自死を決意した老女の話だが、決して暗くなくユーモラスな家庭劇になっている。宗教的、司法的問題もあるだろうが、介護社会に住む我々にとっても切実な問題だ。若い頃は政治運動もし、華やかな恋愛もあったらしい彼女の過去をあえて描かず、全て観客の想像に委ねているのもいい。
アメリカの国技アメフトの最高峰NFLは膨大な資本を動かす巨大産業だ。その選手の多くが試合中の脳震盪で痴呆化、若死にしているという告発を若い黒人医師が行なう。象に挑む蟻の闘いだ。NFL側の圧力、抵抗がいかに大きいかは想像がつく。しかし映画では彼を排除抹殺しようとするNFL側の悪辣な工作は描かれず、告発は予定調和的な解決で収まる。観客の見たいのは圧力に抗し隠蔽を暴露する緊迫した告発劇で、彼が祖国と家族を愛する信仰心の厚い有能な医師だというお話ではない。
フランコフォニアとはフランス贔屓という意味だそうで、メッテルニッヒ将校か美術館長のJ・ジョジャールを指すのだろう。ナチス占領下のパリでの美術品保護をめぐる両者のかけひきが主題となる。美術館がテーマだが、90分1シーン1カットで撮った「エルミタージュ幻想」とは異なり、「モレク神」「太陽」「ファウスト」などに連なる歴史と権力者のドラマと言える。監督のソクーロフ自らが出演し絶えず現在と過去を往還しながら描かれる歴史の暗部はスリリングで刺激的だ。