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救いようのない不良少年が幾度も暴発をくり返し、ムショ暮らしまで経験しながら、恋をし、赤ん坊ができて少しずつ変容していくさまを、いっさいの感傷を排除して描ききった。C・ドヌーヴ、B・マジメルら保護司スタッフを演じた面々が、第一級の存在感を見せつける。ラストの歳月の経過がもたらす感慨と無常観、冷厳な客観描写はまさにフランス的な「感情教育」であり、「深夜カフェのピエール」など、絶頂期のアンドレ・テシネ監督が絞り出した往年のロマネスクも彷彿とさせる。
失業者の再就職先がブラックな業務だったらどうするか? 暗澹たる世相を映す日本映画に似たフランス映画である。主人公はスーパーに再就職するが、万引き客をトッちめたり、レジ係のちっぽけなチョロマカシを告発して得点稼ぎしなければならない。熟練エンジニアだった彼からすれば、プライドをズタズタにされるが、節を曲げずに我を通そうとする。しかし現代映画では、主人公の立派な態度表明では収まらない、ひとつの決断がもたらす宿命の果てにまで帯同したいとも思う。
近年日本でも中村義洋、是枝裕和、阪本順治らによって立て続けに劇化された団地空間が、フランスでは完全に低所得者層の典型的表象となる。3組のボーイ・ミーツ・ガールの物語――落ち目の女優と男子高校生、着陸ミスした宇宙飛行士とアルジェリア系未亡人、ニセ写真家と看護師――はいずれもメルヘンである。空間は、脚本家が握る試験管としてのみ存在しているのだ。場末で細々と暮らす小市民にもちゃんと幸福がありますよというヒューマニストの化合物を生成する試験管である。
インドという舞台装置のエキゾチズム、作曲家と在印大使夫人の不倫旅行というハーレクイン・ロマンス的展開。今どきこんな陳腐な題材を映画化する者がよくもいたものだと思いきや、ダバダ、ダバダバダ「男と女」のC・ルルーシュなる懐かしい名前が。御年78歳、元カイエ派の筆者からすれば酷評で済ませてきた作家だが、いまだにこの手のキザで薄っぺらなロマンスを元気に作っていること自体、逆に素晴らしく思えてくる。どんな畑から穫れても、熟成すれば芳醇さは増すのだ。
今号のこのページはフランス映画大会。これが一番の力作。優しさというものを教わらずに育った少年がいて、暴力三昧で生きている。で、保護司や判事がなんとか彼を更生させようとする。その長年にわたる両者の苦闘の様が描かれるわけだが、観ている側にも耐久力が要求される、粘り強い演出。女優兼業の監督のせいか、主演の少年の演技が繊細で魅力的。ただ、一つ一つの描写が丁寧すぎて、しだいに展開が重くなっていくのは残念。ドヌーヴは貫祿の演技。R・パラドくんが全篇をさらう。
「アスファルト」がカウリスマキ・タッチなら、こちらはダルデンヌ兄弟風。リストラされた中年男が、職探しをする姿が淡々と描かれて。この静けさが、主人公の憂鬱とやるせなさをじわじわ沁みさせる。この男の抑えに抑えた感情が、最後にぱっと爆発するが、そこも静けさの範疇の激しさで、かえって余韻を残す。ただどうも、映画のスタイルを優先しすぎという気が。ドキュメンタルな方法に安住して、中身の煮つめ方が不足している感じがする。いい映画だと思うけど、味付けが淡白すぎ。
団地を舞台にして三つの人間模様が綴られる。米国の宇宙飛行士が、突然、空から舞い降りてくるオカシさ。その飛行士がイスラム系の老マダムと心を通わせる挿話が印象的。中年女優と若者の挿話はユペールと新人男優の持ち味を生かしているが、面白さは程々。おっさんと夜間看護師の挿話は無理矢理の展開でちと空回りの感。てな具合にバラツキが。全体、すっとぼけたユーモアがあり、乾いたタッチなのはいいが、演出が狙いすぎというか、作為が表に出すぎて、もう一つ沁みてこない憾みも。
いや、久しぶりのルルーシュ・タッチ。といっても昔は音楽ときれいきれいな映像の洪水。今は画面の方は相変わらずだが、音楽よりもおしゃべりが増えて。一見シンコクだけど、あまり深入りしないで、いつの間にかハッピー・エンディングを迎えるストーリーテリングも健在。けど、インドに対する異国趣味は、ちと古臭いなあ。てな具合に、ノスタルジー気分でのんびり眺めていたら、終わり方に「あの愛をふたたび」の旋律が。懐かしさに一瞬、胸がきゅんとなって。ま、そういう映画デス。
昨年のカンヌ国際映画祭で、女性監督作品としては28年ぶりにオープニングを飾り話題になった本作。監督ベルコ、女優ドヌーヴの才気溢れるタッグ。フランスの女性映画人の凄みを見せつける1本だ。危なっかしい刃のような非行少年が、長い道のりを経て、意思を持ち人生の一歩を踏み出すまでの物語。母親や女判事やガールフレンドや教育係や施設の人々。いずれの愛が欠けても少年は前に進まない。母性と共に知性に裏打ちされた複合的な視点が、映画に稀有な力強さを与えていている。
リストラされて失業中の中年男が、再就職をめざす。普通の人々の職という題材、ドキュメンタリー・タッチのスタイルに主人公のみ人気俳優を配す点は、「サンドラの週末」に似ている。主演のヴァンサン・ランドンがいい。社会のパンチを食らい続ける役だが、ベテラン二枚目俳優の愛嬌みたいなものが、役柄に備わる純真な図太さにふと折り重なる時、ひどく悲惨な物語に光明が射す。特に、家族のシーンで見せる魅力には胸を打たれる。監督ステファヌ・ブリゼの人間を切り取る力は本物だ。
フランス版「団地」といったところだろうか。郊外のおんぼろ団地で、3組による3つのエピソードが繰り広げられる。いずれも孤独と意外な出会いが織り成す、ちょっといい話。淡々としながらクスリと笑えて面白い。個人的には、マイケル・ピット(好演)扮するNASAの宇宙飛行士と移民の主婦の話がベタだけど好き。マリー・トランティニャンの息子(ジャン=ルイの孫、本作監督ベンシェトリの息子)で、まだ10代のジュール・ベンシェトリが、ユペールと互角に渡り合いキラリと光る。
「男と女」から50年。78歳のクロード・ルルーシュが放ったのは、出会ったばかりのフランス人男女がインドの旅を共にしながら、人生半ばの迷える心を癒していく大人のドラマだ。主演のジャン・デュジャルダンとエルザ・ジルベルスタインの素を拾う、さりげないドキュメンタリー風演出も風通しよく、ふたりの旅に同行しているような生々しい気分になってくる。「ミナ」(93)のイメージが強かったジルベルスタイン、今の方が何倍もいいじゃない。年を重ねる旨みが芳醇に香り心地よい。