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ダルデンヌ兄弟のリアリズムが独走した感のあるベルギー映画界に、ヴァン・ドルマルのような甘口の映画作家が存在してくれたのは幸いである。神の子キリストにじつは妹がいて、彼女は父親(つまり神)との折り合いが悪い。突拍子もない奇想からつむがれる喜劇はあくまでメルヘンの域にとどまるが、主人公を演じた少女の熱演は光る。ルビッチの名作「天国は待ってくれる」を彷彿とさせるシーンもあり、リアリズムと対極をなす幻想映画の魅力を臆することなく伝えてくれる。
見始めた当初の印象は、カットとカットが有機的に繋がっておらず、一枚一枚の画作りで自足していると感じられた。この監督は映画の呼吸がわかっていないぞと。しかし見進めるうちに、その考えが間違いだと気づいた。ティム・ロスが終末期ケア専門の看護師を演じる本作では、登場人物たちのあり方そのものがカットの孤立を要請するのであり、小気味いいカット割りを自粛させたのだ。映画的快楽を時には自らに禁じる姿勢もまた、映画芸術の魅力だという逆説を教えられた。
愛妻の不慮の死をきっかけに自暴自棄となり、財産も家庭も喪失した元ボクシング王者が、努力の末に返り咲くまでの物語をテンポよくまとめた……と言いたいところだが、そもそもの遺恨の始まりとして、公衆の面前で妻が疑惑の凶弾に倒れるという設定は粗暴すぎる。年末年始に好篇「クリード」があったばかりで、本作は劣勢か。だが、孤児院入りした愛娘の後見役を演じたナオミ・ハリスという黒人女優の、責任感と人情味を合わせた写り方は見逃してはいけないだろう。
冒頭、分娩されたばかりの赤ん坊を産湯につける映像で始まり、その無垢のイメージが、衣服を剝ぎ取られた被拷問者の裸体へと容赦なく接続される。1001人のシリア国民と「私」が撮影した映像からなるとクレジットされた本作は、夥しい数の死体、負傷者、爆撃された建物のショットを提示する。戦時下に生きるクルド人女性監督が撮ってはアップしてよこす映像を、安全地帯パリに亡命した男性監督が、罪悪感まじりにまとめた絶望、恐怖そして勇気。映画の限界値を超えている。
この世を支配する神が酔いどれ親父で、パソコンで人間の運命を気まぐれに左右している――なんていう設定からして奇想天外。で、父親に反抗した娘がパソコンを勝手に操作し、人間に寿命を伝えたから、地上の者どもはてんやわんやの大騒動。と次から次へとエスカレートしていく展開は、あれよあれよの面白さ。けど、ちとあわただしく、観ていて頭の整理がつかない。監督はその大混乱をネラッたのだろうが、どうも才気に溺れすぎの感も。おもちゃを散らかしっぱなしの子ども部屋みたい。
看護師版「おくりびと」みたいな話で。終末期を迎えた人間がどう安らかに生きられるか、そこに心配りした看護師のケアぶりが淡々と綴られて。この男、どこか自己を殺している風情。どうもそこには、自分の息子の死が影を落としてる。その償いというか、自己に罰を与えるために、死を目前にした者と向かい合っている気がする。いわば死に囚われた男、それゆえの献身ぶりが切ない。T・ロスの抑えた演技。それをじっと観察しているようなM・フランコの脚本と演出。胸に錘がおりた。
威風堂々のボクシング・チャンピオンが没落して、また這い上がってくる――という展開に新味はないが、一応形が整っているし、テンポが速いので飽きはしない。だけど味がない。敵役があまりに絵に描いたようなワルで、それにつられて興奮する主人公も単細胞に見えて。F・ウイテカーのトレーナーなど、ここで演出が立ち止まってじっくり個性を見せるところなのに、テンポに足をとられて腰が落ち着かない。人物はいても描写がないのだ。そのあわただしさが最近の米映画の味気なさでは。
いま、そこにあるシリアの状況を、どう映画にしようかと迷っているような作品で。監督は千一夜物語ならぬ千一の映像をコラージュする。そこにあるものは、おびただしい死体だ。男たちの、女たちの、子どもたちの。そして自分が愛する映画の断片をモンタージュして、自己の心情と重ねあわせようとする。こちらはその混沌を見つめるしかない。監督の苦悩に、なんとか近づこうと意識を働かせながら。この錯綜の果てに、いつか監督の想いが結実された作品が産まれることを祈って――。
パソコンで世界を支配する神様。父の傲慢に腹を立てた娘エア(キリストの妹でもある)は、人々に余命を知らせるメールを送り、世界の法則を変えるべく家を飛び出す。宗教チックな題材ながら、ユーモラスで楽しめる。ただし、エアの出会う人間たちはいずれも孤独をこじらせた曲者いやいや変人で、カラフルな映像世界の中、業の深い物語が展開されている。だけど皆して恋愛史上主義なのはどうしたことか? とやや後ずさりしつつ、最後に畳みかけるファンタジーの極め方にシビレた。
終末期患者の看護をする中年男。家族と疎遠になって以来、ひとり暮らしをし、患者のもとに通う日々を送っている。陽光のふり注ぐどこかの町で、生と死が隣り合わせにある日常。扉の向こうの家族には見えない、ケアを通しての密な対話。繊細かつ人肌が匂うほどの生々しい描写力に唸る。ティム・ロス扮するこの男は、しかし素朴な善人ではない。人間の矛盾を見つめた物語だと思っていると、いつしか世界の矛盾という厄介な問題にねっとり絡みついた映画だとわかり愕然とする。傑作。
最近のジェイク・ギレンホールの変幻自在ぶりは際立っている。ここではライトヘビー級のチャンピオン・ボクサーを演じ、見事な肉体改造をして役に挑んだ。ファイトシーンはほぼノースタントって、すごいな。彼が演じた男は、血の気が多く人生に躓く。このキャラクター設定も面白く、守護天使さながらの妻を亡くした転落後、自らを変えようと苦しむドラマ部分でも演技派の力量を見せている。妻役レイチェル・マクアダムスの頭のよさを受け継いだようなメガネっ子の娘がかわいい。
シリアの内戦が続く中、市民が自国の惨状を撮影し動画サイトにアップしたもの、およそ千人の目による証言映像が、本作のメインの素材になっている。拷問、殺戮といったダイレクトな暴力や死の累々。そんな映像の荒いつぎはぎがスクリーンを埋め、観客は直視する苦痛を覚えるだろう。けれど中盤、監督である男のモノローグに、女の声とまなざしが加わった時、本作のタイトルを改めて嚙みしめてしまう。愛という哲学は、戦場のオアシスであり未来である。これは思索の映画なのだ。