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このドキュメンタリーで起こっていることは現実だろう。しかし不幸なことに、私には途方もないメルヘンであるかのように思われた。老夫婦二人が、電気もガスも通っていない山深い土地に隠遁する。やがて末期ガンを患った老父のために、都会にいた娘夫婦が移住してきて親孝行をする。わが親不孝を思うとき、この事態を平常心で見ることは難しい。そして老父の死。ボケた妻は亡き夫の面影を求め「お爺さーん!」と叫びを止めない。老婆の美しい呼び声が、透徹して山に響きわたる。
事件を起こしたカルト教団の跡地巡りや、感情を持ったダッチワイフ、取り替え子の再交換といった意表をつく設定を仮構し、そこから赤裸々なリアリズムを抽出するというのが、これまでの是枝監督のやり方だった。しかし「海街diary」と並行して撮影された本作では、崩壊家庭が過ごす台風一夜という、平々凡々たる物語を選んだことで、是枝演出がよりくっきりと現れた佳篇に仕上がった。身につまされる脚本と演者の好演が光るが、阿部寛と元妻の彼氏(小澤征悦)の対比が類型に留まる。
ワンシチュエーションドラマが増えたのは「ゼロ・グラビティ」成功の副産物だろうか。たった2人の登場人物を、狩る者と狩られる者とに粗暴に大別し、モハーベ砂漠を人間狩り実験の試験管に見立てる。荒野で人知れず猛獣と化した二者による狩りの視線劇が、遠近の位置関係を不断に更新しつつ、どこまでも純粋化されてゆく。白昼は摂氏50度に達する砂漠で汗・土・血・火薬にまみれ、ぼろ切れと化す肉体とは対照的に、画面の純度は単調さも厭わず、ますます研ぎ澄まされる。
筋萎縮性側索硬化症を患ったドイツ人主人公が、法的に安楽死の認められたベルギーへ向け、親友たちとの自転車旅行に繰り出す。若き死の無念を友情によって慰撫しようと、映画は模索し続けるが、どうしても終末期ケアのテキストの域から出てくれない。やはり映画は「いい話」であるだけでは足りず、もっと映画の力が探究されなければならない。ドイツ映画というと作家の映画ばかり輸入される日本の現状にあって、ごく普通の良心的ドイツ映画を見られるという貴重な機会ではある。
巻頭、空撮で捉えられたちっぽけな耕作地が、最後は人が生きた証として大きく見えて。山間に暮らす老人夫婦の愛嬌。その飾らない表情に作り手との信頼関係が窺え。お婆さんの遥かなる山の呼び声、その2回の繰り返しが切ない。もう少し人物の気持ちを、ナレーターではなく本人の口から聞きたかった。終盤の母娘愛の描写はさらりでよかったのでは? それよりも山間生活の魅力(魔力?)をもっと観たかった。といった欲は出てくるものの、25年もふたりを追い続けた、その愛は篤く。
家族の再生を夢見る男。そうはいかぬと諭し、拒む女たち。だけど、家族はばらばらでも有りじゃんの結末が沁みる。樹木希林と阿部寛のやりとりが絶妙。ただ全体、ちと主人公を甘やかしの感もあって。興信所の後輩の池松壮亮が阿部に優しいのはなぜ? 「あなたに救われた」という台詞はあっても、その内実は不明。この池松に、息子の未来の姿を暗示させたのか。といった齟齬はあるが、是枝作品の中では一番納得のいく出来で、これまで彼が描いてきたものが、ここで結実したような印象が。
おや、またかいなのマン・ハンティング物だけど、舞台が往年の西部劇でお馴染みモハーベ砂漠なのが嬉しい。追う側のM・ダグラスが製作も兼ねて、親父カークが得意にした執念の鬼みたいな悪役を演じているのがご愛嬌。丸裸状態の追われる者が、高性能の狙撃銃をもったマイケルを、さてどう倒すか? そこが言わぬが花のスリルで、ずば抜けた面白さはないが気軽な楽しさはある。ただ、最終部が不自然だし蛇足。だったらその前の場面で、例の秘密兵器で鳥ならぬヘリを射落とした方が。
不治の病にかかったドイツ男が、尊厳死の許されたベルギーを目指し自転車旅行をする。これに妻や仲間たちがつき合い、その道中のスケッチが綴られるわけだが、どうも映画が弾まない。男を取り巻く登場人物たちのそれぞれの挿話が、あまり〝死〟と絡んでこないので、空回りしている印象なのだ。脚本家の年齢を見たら30際。もちろんその若さでも本質を描ける者はいる。だけどこれは監督も含め、最初の発想にしめたと思い突っ走った、その若さの勢いが物足りなさとなったような。
25年前、山口放送は山で老後の生活を始めた70代の夫婦を取材する。そこから少しずつ撮影を続け、ゆっくりと変化していく夫婦とその家族の長きにわたる日々を記録した。まず主人公となる寅夫さんとフサコさんがとても魅力的。そして、ふたりの進行する老いに向き合う娘さんたちの姿に教えられるものがある。これだけの歳月の間には、撮る側と撮られる側の間に葛藤もあったかもしれないが、丁寧な粘りの記録は、老いや家族の真実を確かに映し出している。温かさの中に凄みを感じた。
是枝裕和作品で、樹木希林と阿部寛の親子共演といえば、「歩いても歩いても」を思い出すが、本作はその変奏曲のようでいて、そこからさらに視点を広げ、家族と人生というテーマを掘り下げている。監督自身が19年間住んでいた団地がメインの舞台ゆえか、作品のタッチは力みなく軽やか。そんな清涼感の中に、登場人物たちの俗や欲や夢が浮かび不穏さもたなびく。人が心の水面下に抱える底なしの深さをふいに感じさせる演出も絶品。息子として父として夫としての監督の観察眼が光る。
不思議な魅力のある映画なのだ。原作は、70年代の青少年向け有名小説だという。アメリカ南西部の砂漠で家業を継ぎガイドをする青年が、客として案内していた金融業界の大物(「ウォール街」まんまのマイケル・ダグラス)に、砂漠の真ん中に裸のまま放り出されてしまう。百戦錬磨の狡猾の権化VS原始的な知恵で逃げきろうとする若者。このシンプルな攻防戦が、驚くほどスリリング。こういう話は現代でも論じられていいと思う。ラストは微妙だし欠点も多いが、埋もれてほしくない異色作。
尊厳死を扱う作品は、どうしてもいつも考えさせられる。このドイツ映画は、不治の病であるALSと宣告された30代の男性の決断。年に1回、自転車で旅をする6人の仲間たちに意思を告白し、それが合法のベルギーへとみなで旅立つ。当然本人もつらいが、まだ普通に元気に見える友人の急な決断を受け入れなければならない周囲もつらい。生きることへの視点は深く、朗らかで誠実な作品だ。このケースの尊厳死も、ひとつの選択肢なのだろう。考えるきっかけとして価値のある人間ドラマ。