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たぶん上出来のこのゴシック・ホラー映画のなかで私がほっとしたのは、男が火のついたローソクを左手に持ちヒロインとワルツを踊る場面。舞踏会ダンスから長らく遠ざかっている私だが、このくらいならローソクの灯を消さずに私も踊れるのではないかと思った。その他の場面では、正直のところ私は恐くてふるえていました。途中でこれはドラキュラが出てくる映画なのかと怪しんだほど、壊れた大邸宅の屋根から雪が降る雰囲気はすごい。この種の映画好きにはきっとたまらないのでは。
初めてアメリカに行ったとき、ニューヨークで米陸軍払いさげのコートを買って着ていたが、この映画の韓国人自警団員みたいな人たちもUS陸軍の服を着て権威づけをしている。キム・ギドク監督は、いつも映画にしたいテーマがからだ全体にあふれているような人なのではないか。撮影も自分でしてしまうし、登場人物も同じ俳優に何役か演じさせるなど。映画のきめは粗いのだが惹きこまれてしまう。つまり韓国社会にくすぶる不平等感や権力者の横暴への批判が生きていて圧倒されるからだ。
『白鯨』の話はアメリカのコミックブックの翻訳で小学校六年のとき初めて読んだ。一等航海士がエイハブ船長を殺そうと銃をとりかける場面があったが、原作にはないとあとで知った。これは『白鯨』のもとになったらしい実話の映画化で、船長と一等航海士の確執が明白なテーマ。『白鯨』では船員たちの名はみな呼びすてだが、捕鯨船では下っ端船員でもみな必ずミスターをつけて呼ばれていたと初めて知った。捕鯨基地ナンタケットの街の描写がいい。もちろんCGによる巨鯨がすごい。
CIAにはキャプテン・アメリカのような超人間兵器を作ろうとして失敗した過去があるという事実はまるでマンガだ。そしてよくある設定のこの映画の主人公は自分の幻想をマンガに描く能力があり、女といっしょに逃げるのだが、これは男女が果たしてあこがれのハワイに行けるかという話でもある。さらに実写では追いつかない部分は、ゲイリー・レイグという人が手がけたカトゥーン・アニメーションの部分が補なってくれるから、これは実写を軸にしたマンガだと思えばいいでしょう。
妖しいものに惹かれる女子心とは、そもそもホラーな題材かもしれない。幼少期、死んだ母の幽霊から不思議な警告を受けたヒロインは、成長し作家志望となる。誠実な医者&謎めいた実業家に求婚され、彼女は抗いがたい魅力を放つ後者を選び、古い屋敷で生活を始める。ラテン系マスター、ギジェルモ・デル・トロが、古典的な恐怖のモチーフを見事に映像のディテイルに込めて、ゴシックロマンを楽しませてくれる。ミア・ワシコウスカの十八番が光る。〝父殺し〟の物語とも言えそうだ。怖い。
人間の業をどこまでも深く見つめ、シンプルな話術で、かつ暴力的な威力のこもる映画を撮り続けるキム・ギドク。本作は、個をつきつめた先に辿り着いた、人間社会という巨大なシステムについての彼なりの論考であるように思う。謎の報復集団の行動を追ううちに浮かび上がる、弱肉強食や復讐という終わりなきテーマ。ギドクにしては珍しく、セリフが説明的なのが気になるが、不条理に対して一切目をそらさぬ姿勢には圧倒される。答えのないものを探り続ける。その執念は美徳か、不毛か。
メルヴィルの名作『白鯨』に隠されていた真実を描いたノンフィクションの原作を、ロン・ハワードがダイナミックに映画化。かつて伝説の白鯨の死闘を繰り広げたエセックス号の船乗りに、メルヴィルが話を聞き、その回想を辿っていく構成も面白い。臨場感たっぷりの船上シーンでは、未知なるものに挑み、サバイバルしていく厳しさをじりじりと壮絶に炙り出す。そして、邦題からは想像できないある核心へ……。人間対自然。冒険映画の迫力の中に、重いテーマが問いかけられている。
ダメ感漂う青年が、実はCIAに極秘に殺しのマインドコントロールをされた最強エージェントだった。そんな男と彼に寄り添う彼女の物語を、コミカルに、サスペンスフルに、ロマンティックに描く。ジェシー・アイゼンバーグとクリステン・スチュワートのコンビが、堪らなくいい。セクシーで繊細で少し悪くて芸達者なところがふたりはよく似ていて、この映画の荒い綻びを補うに十分に魅力的な科学反応を起こしている。脚本もなかなか面白いけれど、やっぱりこのふたりの魅力が最強。
映画作品の「作家性」なるものは、古典的ハリウッド映画においてはプロダクション・デザインに見てとられるべきものだ、とかつてある研究者が書いているが、デル・トロ作品はいまなおそうだ。作品ごとに異なるチームを組みつつ、圧巻というべき世界観を視覚化する。ただ、「画力」以外のものはあまり期待できず、家ものホラーとゴシック・ロマンスをかけ合わせたジャンルオーバーな作劇は、雰囲気を醸し出す以上のものではない。ミア・ワシコウスカは繊細すぎて薄幸な女がよく似合う。
開巻まもなく殺害される少女ミンジュの名は「民主」から採られているという。殺人と私刑の民主主義なき世界。この監督のこれまでの作品にも増して政治的な寓意が色濃く、血なまぐさい復讐を遂行するいくつものコスチュームプレイが喚起させるのは、権力を維持する制服の暴力である。紋切り型の拷問シーンや要らない気がするセックスシーンなど、あえて戯画化しているのはうまくいっているようには思えないが、チープなデジタルの映像から作者の絶叫だけはたしかにつたわるギドク印。
二〇一五年のハリウッドは、あいもかわらぬリメイク&リブート合戦の大いなる収穫の一年だったけれど、本作はまさかの『白鯨』リブート(違うか)。十九世紀の大著にあったはずの犀利な描写と狂気の気配は、しかしクジラとの闘いに単純化されており、旧作のファンが首をかしげるところまで正しくリブートされている。とはいえ、ロン・ハワードがたがいの最高のキャリアといっていい「ラッシュ」のクリヘムと組んでのぞんだ演出の冴えは、前半部分のそこかしこにみとめられる。
俺はまだ本気出してないだけ系映画の応用版。ジェシー・アイゼンバーグはネルシャツのボンクラがよく似合う。冴えないコンビニ店員が突如スパイ映画のような世界にまきこまれるところにこの作品のわくわくポイントがあるのだけれど(その意味では一種のメタ映画である)、B級の現実がC級の映画的世界に接続されるさまをD級の作品として提供するような感じで救えない。ジェイソン・ボーンになれなかったボンクラの話としてもあまりに粗雑。部屋でだらだら見たいカウチポテト映画。