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とにかく美しい料理と、美しい所作と、それができるまでの過程を丁寧に撮っていて、一生のうち一度でいいから行ってみたい、と思わされる。こだわり抜かれた料理を作るためのシェフ同士の本気のディスカッションが、じっくり映されているのはワイズマンの映画らしい。一方で、時折はさまれる食材や料理、風景の実景カットも五感が刺激され魅力的だった。長尺の作品だが、一つひとつの食材の生産者への取材も含まれていると考えると、このボリュームになるのは必然なのかもしれない。
地味な大学講師が殺し屋になりきり警察の捜査に協力していくなかで、相手の好みに合わせた殺し屋に扮していくのだが、そのレパートリーの豊富さとそれぞれの人物の説得力がとてつもなくて笑える。前半は演技で人を欺くさまを単純に楽しんで観ていたが、物語の核となっていく依頼人の女性との恋愛は、どんな人間でも日常の中で演技をしていることや、相手によって自分が変わってしまうこと、それによって人が変化していくことなど、演技というものに深く考えさせられる展開だった。
ジョン・ガリアーノが差別的発言をしてしまうという自らの過ちについて語るシーンから始まり、彼のキャリアを包括的に描いている映画。ガリアーノの発言は許されるものではないし、その後の行動にも疑問を感じるが、人が過ちを犯してしまったあとに、どのように再び歩むのか、という部分にフォーカスしていたのは興味深かった。ガリアーノだけではなく、傷つけてしまった相手にもインタビューするなど、この難しい題材を扱うにあたって多角的な視点も入れていたのがよかった。
はじめは母親の愚かさに辟易とし息子に同情していたが、彼女の発言を聞いていくうちに別の側面が見えてきた。彼女はただ騙されただけの愚かな女性ではなく、家族や社会規範のなかで抑圧されて生きてきて、マルチ商法に自己実現を託したのだった。まわりの男性たちがそのことを重要視していないことがどうしても気になってしまう。もう少しだけでも女性の自己実現について掘り下げてほしかった。雄大な自然と、人間の愚かさが映像としてはっきり対比させられていたのが印象的だった。
美しい自然に囲まれたフランス中部のウーシュにあるレストラン〈トロワグロ〉の料理人たちがワイワイ言いながら近所の川で魚をとり、野菜をつんでいる至福に満ちたシーンを見ながら、フランスは農業国だったんだなとあらためて思った。まるでジャン・ルノワールの「ピクニック」(36)を思わせる豊穣なる風景のなかで、ワイズマンは、〈トロワグロ〉が優雅な美食家たちに愛される秘密をあらゆる角度からみつめて、そっと差し出す。これはブリア=サヴァランの向こうを張ったワイズマン流「美味礼讃」でもある。
無類のシネフィルであるR・リンクレイターだけに冒頭の殺し屋映画のフッテージをコラージュ風に引用した下りで野村孝の「拳銃は俺のパスポート」(67)が登場した瞬間、思わずニヤリとなる。よいセンスだ! 実在のニセ殺し屋がモデルらしいが、ふだん大学で心理学を講じる教授という設定は「霧の夜の戦慄」(47)のジェームス・メイソンのパロディではないか。ただし元ネタのような深刻なスリラーではなく、プレコード時代のモラルを粉砕するようなスクリューボールな笑いをこそ顕揚したい。
眩いばかりの栄光の絶頂に君臨していたファッションデザイナーがふと口にした〈反ユダヤ主義的な暴言〉ゆえにキャリアを剝奪される。その顚落と再起を追ったドキュメンタリーだが、ガリアーノが崇拝するアベル・ガンスの「ナポレオン」(27)の映像を、彼の栄枯盛衰に重ね合わせる手法はいささか鼻白む。K・マクドナルドは、こうしたハッタリめいたテクニックを除けば、ガリアーノの貧しい出自から掘り起こし、オーソドックスな語り口で、その屈曲に富む境涯を浮き彫りにしている。
「成功とは神経症の副産物」というフロイトの引用があったが、較差社会の中国で見果てぬチャイニーズ・ドリームが蔓延しているのは煽情的なマルチ商法のシーンで垣間見ることができる。〈自己実現〉という空無な妄想のはてに、否応なく突きつけられる敗残者という過酷な現実。一方「人生で最も苦しいことは、夢から醒めて、行くべき道がないことであります」という魯迅の箴言も思い浮かぶ。終幕、山水画の世界の中で母子が融和するフォークロア的なイメージがささやかな救いであろうか。
料理に集中する人間の表情と全肉体の動作はあまりに魅惑的なので、しばし時を忘れる。フレンチ・レストラン〈トロワグロ〉の内幕を追って「偉大な芸術家のアトリエを見るよう」と語るワイズマンのカメラにも穏やかな集中美がある。職人技の美学、客の望みを共有して実現する、もてなしのプロフェッショナリズムとエレガンスに見惚れる内に4時間が瞬く間に過ぎていく。代々受け継がれてきた過去の蓄積が子供世代の未来に繋がることを願う終幕の言葉と共に、この映像作品もまた芸術へと昇華されるのだ。
快作。好調の波に乗ったグレン・パウエル。リンクレイターのファンは彼の近作でこの妙に面白い役者を発見したが、コンビの新作では二人で脚本を書いている。離婚経験のある地味な心理学教授が、囮捜査への協力のため偽の殺し屋を演じさせられる。依頼人を逮捕するため、彼らが期待するだろう“殺し屋像”を演じ分ける才能に気づくのだが、ある女性に思い入れてしまい……。リンクレイターは彼ならではの現代人の混乱をユーモアに包んで「本当の自分は誰? 真実の人生とは何?」と問いを忍び込ませているのだ。
革命的だがビジネスには不向きな男の波乱に富んだ軌跡をガリアーノ本人が振り返るドキュメンタリー。80年代のロンドンに始まり、スリップドレスを流行らせた94年のブラックショーへ……最盛期のコレクションを見ていると素人のぼくでも天才の二文字が思い浮かんでくる。ディオールのデザイナーに選ばれ、一時代を築くが、仕事上の右腕を亡くしたことから心が荒み、酒と処方薬漬けになった末に、2011年の反ユダヤ発言のスキャンダルへと至る。この贖罪と再起への願いが彼自身の言葉で語られる意欲作。
冒頭、山を冬の眠りから起こして豊作を願う人々の列が映し出される。主人公を乗せたバスがトンネルを抜け、カメラが右側の木々を越えて上昇、空撮で再び薄闇の山々を歩く人々のシルエットを捉える。いかにも劇映画的なカメラワークに目を見張る。が、ここから予想外の転調を繰り返し、ネズミ講の犠牲となる母親とその息子をめぐる受難劇が描かれ、詐欺組織の洗脳場面でアロノフスキー風の悪夢を展開。面食らわせたが、弧を描くようにして故郷に戻る寓話的な後半ではエネルギーが尽きてしまっていると思う。