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確かにこれは現代日本の縮図かも、と思わせる大舞台で展開する犯罪サスペンス大作として、出色の出来。多くの問題提起を喚起するイマドキの社会派娯楽作としても秀逸で、野木亜紀子脚本のうまさを全篇堪能できる。家族連れで賑わう商業施設の爆弾テロ発生シーンも「よくやった!」と言いたい。観客の反感や疑惑を買うことも臆さず、謎めいた主人公を演じてのけた満島ひかりが素晴らしい。ドラマとのリンクは別段気にならないが、本篇自体がTVドラマの劇場版っぽい必要はなかった。
かなり強引な性格描写と饒舌なセリフ、キメ絵の連続で読者を引っ張るような原作漫画のストーリーを、映画版ではどんな工夫で説得力をもたせるのかと思いきや、工夫を投げていて驚いた。原作のキャッチーな部分だけを抽出し、無駄な努力を放棄した作りは、ある種の実写化アプローチとして業界では有効なのかもしれない(観客にではなく、プロデュース側にとって)。「ブルーベルベット」そっくりの曲で悪夢感を醸し出すセンスの世代感は「サムシング・ワイルド」好きの堤幸彦監督らしい。
舞台『オデッサ』は手法も含めてすこぶる面白かったし、近年はおそらくTVドラマを「最も冒険できるメディア」として認め直した感がある。つまり三谷幸喜が想定観客レベルを最も低く見積もっているのが映画なのでは……そんな疑念が今回も拭えず。投げやりな空中遊泳ギャグなどは映画への憎悪に見えるし、どうかするとお話自体が女性憎悪の表れに見えなくもない。「他人に合わせる生き方しか知らない」人間の救済と脱出を正面から描いてこそ、映画なのでは。ダメ男の自己憐憫ではなく。
「蛇の道」リメイク版よりもずっと“みんなが好きな黒沢清”を感じた快作。クレショフ効果のごとくプレーンな表情から自業自得以上の意味を読み取られ、市民の憎悪の対象となる菅田将暉がまさにハマり役。シャブロル「ふくろうの叫び」を思わせる悪意の醸造劇にゾクゾクし、「CURE」にも通じる“異常者に認められること”がスイッチとなる構成に笑い、まさかの活劇展開になだれ込む無邪気な不自然さにワクワク。この監督・主演チームでサイコな「勝手にしやがれ」シリーズのような連作希望!
お客のために少しでも安く早く。舞台となる巨大な物流倉庫の俯瞰映像には目を見張る。ベルトコンベアで選別された無数の荷物は一瞬も止まることなく流れ続け、まさに人が荷物に使われているの図。ともあれ物流業界の厳しい実情を背景に、慌ただしくも賑々しい娯楽サスペンスに仕上げた脚本の野木亜紀子と監督・塚原あゆ子のお手並みに感心する。もし業界のシステムの闇に本気で首を突っ込んだら、ドラマ『アンナチュラル』『MIU404』チームのファンサービス的な出番もないだろし。ただちょっと後味が。
ナントぶっ飛んだラブコメディなの! いや、ドタバタした動きや笑いは一切ない。自分のことを“ボク”と言う若い女性死刑囚・真珠と、目的のためなら手段を選ばずとばかり、彼女と獄中結婚する元ヤンキーの児童相談所職員・夏目アラタ。二人のデート?!は警官が脇に控えた面会室。そもそもアラタの目的からしてかなり乱暴なのだが、面会での会話は当然、嚙み合わない。その過程で二人の人生が回想的に語られていくのだが、柳楽優弥と黒島結菜の演技がどこかポップなのが痛快で、人騒がせのわりに消化はいい。
まずは気楽に楽しめるパロディと遊びが満載のミステリである。長澤まさみをまるで操り人形のように男たちの間をたらい回しさせ、その男たちがまた、上っ調子の曲ものばかり。が三谷監督、長澤まさみを“あなた好みの女”で終わらせるはずもなく、操り人形の本当の姿は。彼女を含め、俳優たち全員が喜々としてその役を演じているのもお気楽感を誘い、特に5番目の夫役の板東彌十郎は堂々の悪のり。“スオミ”という名の由来とショー形式のラストにもニンマリ。思うに三谷監督も作品の後ろでニンマリかもね。
現代は、生きているだけで誰でも加害者、誰でも被害者、と誰かが書いていたが、ネットを使って転売を繰り返している主人公が、集団暴力に曝されるという本作、極端な設定、極端な展開だが、奇妙な説得力がある。もともと黒沢清作品はかなり無口で、言葉より人物たちの黙々とした行動やその映像で話を進め、いつの間にか、観ているこちらをとんでもない世界に引きずり込み、というのが得意なのだが、今回はさらに過激化、後半のアクションなど、背景といい、戦場さながら。アンチヒーローものとしても痛快。
いやはや面白い。「新幹線大爆破」「太陽を盗んだ男」を視界に捉えるところまで肉薄した快作。モデルも露骨な巨大ショッピングサイトの倉庫を舞台に、物流、配送の問題と爆弾テロを巧みに組み合わせた野木亜紀子の脚本と、脇に主役級の俳優たちを顔出しさせつつノイズにしない演出も良い。火野正平と宇野祥平の委託ドライバーを湿っぽくせずに描き、派遣社員をわかりやすい悪役にしない見識も買う。ここまでできるなら、さらに求めたくなる面もあるが、一夕の娯楽としては申し分なし。
受けの演技に徹する柳楽によって映画が牽引される。陰惨な背景に比重がかかりすぎないよう軽妙に描く点においてはこの演出で正解なのだろうが、現実が虚構を追い抜く時代においては、この軽薄ぶりを素直に楽しめるかどうか。アクリル板越しの死刑囚との会話によって状況が二転三転し、見透かされ、コントロールされていくという「羊たちの沈黙」以来の設定だけに新味はなく、死刑囚との結婚も「接吻」の後では衝撃は薄い。黒島は熱演ながら硬軟自在に翻弄するところまでは行かず。
近作は最後まで観るのも苦痛だったが、舞台調へと引き寄せた今回は捲土重来を予感させる。だが、男たちがスオミとの関係を語りだすと、いちいち映像で見せてしまうので、クライマックスも驚きがなくなる。「天国と地獄」だって前半は室内から出なかったんだから、三谷なら彼女の姿を見せずに、対話だけで彼女の幻影を描くことができたのでは? 長澤の七変化は圧倒的な演技でそれを見せてくれるわけでもないので、後に控える見せ場も寒々としてしまう。終始映画を観ている実感わかず。
2階の窓から下の道を見下ろせるアパートの一室、湖の傍の一軒家、巨大な廃工場。突如として降り出す雪も含め、相変わらず黒沢が作り出す空間は映画らしさにあふれ、あれよあれよという間に地獄の入り口へ突き進む。ネットを介した憎悪を無機質な菅田を通して肥大させる前半と、戦場さながらの銃撃戦が展開する後半へ。出鱈目なまでの過剰さがたまらない。窪田、岡山ら30代の実力派たちが明らかに乗って演じ、洞口依子的存在感の古川も良い。次世代が刷新した黒沢清的世界を堪能する。