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敵役を演じた北村有起哉の素晴らしさに尽きる。何しろ声がいい。口上ではカリスマ性を迸らせるが実戦ではへっぴり腰というキャラも、主人公より目立つべからずという作劇的配慮かもしれないが、なかなか秀逸な人物造形だ。それ以外は「様式まつり」というか、心機一転の再始動にしては新味のない、型通りの長寿番組の延長に見えた。セリフを喋る俳優の口許も表情も全部映さないと気が済まない平凡な画が続くので、昔の時代劇のほうがもっと面白い撮り方をしていた気がしてならない。
今や希少な「信頼できる映画作家」𠮷田恵輔らしい問題意識が凝縮された秀作。前作「空白」で描かれなかった部分から着想したという脚本は、ぜひその形でも観てみたかったが、それでも芯は力強く残っている。深刻な状況に巧まざる笑いを生じさせるクセも、今回ほど私憤に満ちた骨太な内容なら、もはや必要ない感も。華がありすぎることは重々承知の上で、地方在住のイマドキの母親像を演じた石原さとみの意気込みも映画の確かな熱源だ。と思ったら、森優作が見事に全部かっさらった。
市原隼人扮する教師の「お前は最後まで手を抜かなかった」というセリフに、あんたに言いたいよ、と思った瞬間、落涙。『孤独のグルメ』の松重豊とは異なる独自の食事芝居を編み出したのは偉業である。血管の切れそうな熱演は頭の回転の速さ、身体能力の高さにも裏打ちされ、見応えがすごい。そして当たり役を得るとはすなわち全スタッフの職人技を味方につけることだとも痛感。80年代という時代設定はややあざといが、きちんと現代的テーマも盛り込み、娯楽作の在り方として優秀である。
自分たちが老いぼれたとはまるで思っていない主役コンビの活躍を描くというコンセプト自体は圧倒的に正しい。舘ひろしと柴田恭兵の(言い方はヘンだが)鋼鉄のように軽い芝居も、もはや至芸。問題は周囲のリアクションをどう描くかで、その相対化の欠如は今の娯楽映画とは思えない。旧キャスト陣が振り撒く不自然さを周囲の若手がほとんど指摘しない状態は、政界の忖度を見るかのようで不気味だ。とはいえ若々しさと分かりやすいオマージュで、前作の枯れた味わいとは一線を画した。
中断はあるものの、昭和、平成と長きにわたって継続されてきたテレビ時代劇の『鬼平』シリーズ。その令和版シリーズの劇場版で、鬼平役は十代目松本幸四郎。まあね、こういうシリーズものは「あぶ刑事」にしてもそうだが、演技、展開、見せ場などにいくつもの“お約束ごと”があり、その約束ごとがあるからファンも安心して楽しめるのだが、この「鬼平」令和版、ダイイング・メッセージなどを盛り込んでいるが、テレビ時代劇の様式を律儀に守りすぎてか演技、演出も型通りなのが残念。
1に石原さとみ、2に石原さとみ、3、4がなくて5も石原さとみ。という、彼女の取り憑かれたような演技が先行するヒューマンミステリーで、女優魂というと大袈裟だが、この作品の石原さとみ、ちょっとただごとではない。幼いひとり娘が突然、行方不明になってしまった母親役。吉田監督はさまざまな事件をヒントにして自らオリジナル脚本を書いているが、あくまでも母親に焦点を当てつつ、事件に群がるマスコミやネットによる誹謗中傷にも触れ、見応えがある。
そういえば昨今の急激な物価高で、給食会社の休業や給食費の値上がりがニュースになっているが、北海道の中学校が舞台の本作の時代は、バブルが崩壊するちょっと前。格別豪華な給食が出てくるわけではないが、給食を生き甲斐にしている主人公の教師が、暴走的妄想を発揮しながら食べはじめるとどれも美味しそうで、演じる市原隼人、給食のためなら見栄も外聞もなし。人は美味しく食べることを発明した唯一の生きものだ、という台詞もなるほどね。気楽に楽しめる消化のいい娯楽作。
スタートから約40年。近年このシリーズになると館ひろしも柴田恭平もどこかタガが緩むのか、もうほとんど趣味と遊びで演じているようなノリ。シリーズ初期から二人を見ているこちらも、そんな彼らにいつしか寛大になり、ふざけ合いと、そこだけ真面目(!)なアクションが楽しめれば、わざとらしい設定やムリムリのエピソードも、勝手にどうぞのノリ。若い観客層をまったく意識しない二人の言動も、逆に潔いとも言えなくもないし。ただ演出のキレがいまいちで、途中で何度かイライラ。
前回の劇場版以来29年ぶりに「鬼平」を観たので新鮮だったが、誰が演じるというより、〈声〉によって鬼平は決まるのではないか。声が印象深い中村吉右衛門や丹波哲郎と比較しても、流石、当代幸四郎。強弱自在に発せられる声が聴き応えあり。加えて北村有起哉、柄本明の声も個性を発揮する。手堅い演出で飽きさせず見せるが、先行して放送されたTV版と同様の出来栄えで、映画館で流す意義がどこにあったか。もっともそれを言い出せば、先代の劇場版でも同じことを感じたが。
終盤まで脇目もふらずに見た。傑作の声もあろう。被害者家族と報道、ワイドショー化するマスコミを冷徹に描いた点は評価したいが、東海テレビの『さよならテレビ』を劇映画化したような、というより置き換えた感が強い。後半はフィクションへ昇華できる場だったはずだが消化不良。石原は熱演だが、ケレン味のある演出でこそ映えるタイプなので本作のようなスタイルでは一人浮いてしまう。低温の中村倫也が印象深い。着想と演出力は抜きんでているが、はぐらかされるのは「空白」同様。
恥ずかしながらTVシリーズも劇場版も未見につき、未知との遭遇だったが、市原隼人のアクションに瞠目する。1コマたりともノーマルな人間の動きを見せることを拒絶し、人力VFXともいうべき体技と表情を全篇にわたってやってのける。生徒を威圧しまくる直情的な教師像も時代設定を踏まえれば違和感はない。給食が町長選に利用される話だが、大谷グローブを私物化する非常識な市長もいる現代からすれば、本作で給食に介入する町長は、程よくスパイシーな味付けとして作用する。
黒澤満も仙元誠三もいなくなったが、スタッフの世代交代を成功させた理想的一篇。かぶき者タカ&ユージの華麗なる老いが、BL寄りの初老ブロマンスを成立させる。銃を持てない枷を、どう潜り抜けてあぶデカになり得るかを硬軟織り交ぜた趣向で成立させたのも良い。過去のフィルムを自在に挿入してシームレスに繋げた芸当は「男はつらいよ お帰り 寅さん」と双璧。早乙女太一以外の若手は総じて影が薄いが、探偵バディものへのリブートは予想以上にうまくいっており、毎年観たくなる。