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劇的な転調の続く展開と、速さと激しさを限界まで強調した暴力演出は、溜めがほぼないためにサスペンス性には欠けるものの、遊園地のアトラクションのようなサプライズに満ちている。怪人の圧倒的な強さを生かしたゴア描写もパターンが豊富で飽きさせないし、ジャンル映画としての面白さを徹底して追求しようとする細部の工夫は随所に感じられる。ただ、あまりに要素を詰め込みすぎているようにも見える点は、観客が退屈することを過剰に恐れた結果にも思え、賛否が分かれるか。
校門前で登校する子どもたちを捉えていたカメラが、ホン・サンス映画を思わせる唐突さで急激にズームインし、足元だけが映るなかで男女の出会いが捉えられる冒頭の場面にまずぐっと引き込まれる。恋愛映画という惹句とは裏腹に、野良犬や樹木、橋、川、そして風といった、フレーム内に映るクタイシの風景や生活を構成するあらゆる要素がいずれも人間と等価に捉えられる撮影は、ピッチ上のサッカーボールや散歩の道程のようにふらりと行き先を変える奇妙な物語の流れとも見事に符合。
鮮血描写はやや控え目にも映るものの、無駄を削ぎ落としつつ、強引すぎるサングラス購入場面など時にご都合主義も厭わないソリッドな脚本、マニエリスティックな劇伴、細部まで美意識の行き届いた美術に撮影と、各所で原点回帰と称されていることも納得の充実したジャッロ。近年のポリコレ要請に応えるかのような要素を、単にアリバイとしてではなく、自立した主人公の人物像を強調するとともに、あくまでも自分の撮りたい画に引きつける形で取り入れようとする貪欲な姿勢も嬉しい。
ベタな人情噺に流行りのトピックをまぶしたような内容には特に目新しさはなく、安直に回想シーンに頼りすぎているようにも思えるものの、自身の境遇とも部分的に重なるマドレーヌを演じたリーヌ・ルノーは、人間味溢れる魅力を随所に発揮して、ややおとぎ話めいた物語に十分な説得力をもたらしているし、徐々に表情に柔和さを加えていくシャルル役のダニー・ブーンの変化も良い。一方で、カネが重要となることは設定から避けられなかったのはわかるが、結末の処理にはやや疑問が。
多数の凶悪犯と護送官の刑事を乗せた貨物船。極悪犯のなかにも刑事のなかにも、それぞれデキそうな顔をしている人物がいく人もおり、それぞれがキチンと見せ場を作りつつ、しかし意外にあっさり死んでしまったりと、見る側の期待に応えつつも意表をつく展開が良い。また中盤以降、第三陣営が出現すると、「ターミネーター」+「プレデター」+「エイリアン」のような展開になるのは大いに笑える。最終的には力技で押し切った感があるが、踏み込みとパンチは想像以上に重い。
一目惚れした男女は、その日、呪いによってそれぞれ顔も能力も別人になり、近くにいながらすれ違い続けるという風変わりな物語。しかし、演出は、そもそも変わる前の顔を観客に認識させる気がないのは明らかだし、男の方は顔よりも髪型の変化が激しく、女の方にいたっては、どこが変わったのかと思うほど前と似た顔に変化しており、物語以上にやってることが風変わり。しかもそれをこれみよがしにアピールすることなく、気づいたらサッカーばかりしている、実に不思議な映画。
盲目系ホラーは多々あるが、本作は目が見えないということを、例えば視覚の代わりに聴覚や嗅覚に頼るという演出の一要素として扱うよりも(もちろん多少はあるが)、他者との交流を深めるものとして扱っているのが印象的。また、夜のシーンの画面の9割が真っ暗で何も見えない攻めた撮影は、もはや観客までもが視覚を奪われているとも言えるかもしれない。そんな暗闇のなか、タイトな物語展開や、誇張なく常人的なスピードで冷静かつ痛々しく行われる殺人描写が光る。
老婆がタクシーに乗り込む直前に、しみじみと自宅を見上げる主観ショットのほんの数秒が素晴らしい。実はこの老婆は、もう家に戻ることはないと心に決めていたことがのちにわかるのだが、本作が老婆がパリを改めて巡り、過去と記憶を語り直す映画であることを、この数秒の主観ショットがなによりもわからせてくれる。そう聞くと、なんだかノスタルジックなほっこり話かと思いきや、その過去が女性差別や蔑視をめぐる壮絶な歴史であったというギャップにも驚かされる。
予想を逐一裏切るアグレッシブに過ぎる姿勢や、常軌を逸した血糊の出血大サービスぶりはある種、痛快。海上の「コン・エアー」的滑り出しから、「バイオハザード」風恐怖を盛り込み、さらに「プレデター」、あるいはいっそ「ジュラシック・パーク」をも思わせる強敵との壮絶死闘へ。進行するほどに何でもアリになってゆく、この密室カオス! 最大の難点は、人間を誰一人描き切らない、描く気すら見えないところか。ここまで人物が軽視されては、何が起こっても終盤一切心動かず。
筋書らしい筋書も台詞もほぼなく、流れや展開やドラマなどどこ吹く風で自由気ままに綴られる音楽&映像による素描。主役となるのは、紛れもなくジョージアの古都クタイシの街並みだろう。映像学校の卒業制作作品ということで、監督の若さがあらゆる箇所に垣間見られる。美しい街も風が揺らす木々も子供の笑顔も寝そべる犬も、確かに絵にはなるけれども、それだけでは何も届かない。目線は監督の周囲半径数メートルの域を出ず、まだ観客より自身に向いている印象。150分は長すぎる。
アルジェントへの思い入れによって評価はかなり変わるだろうが、82歳にして再び原点に立ち戻り、いかにも自分らしい映画をなおも送り出す、その気概にまず脱帽。往年の色彩感覚や美術へのこだわり、異彩を放つ独特のセンスには正直衰えも感じたが、盲導犬の奮闘+唐突に行く手を阻む障害物など、随所に「サスペリア」へのオマージュも見え、ファンへの目配りもしっかり。冒頭の日蝕や、盲目の娼婦と中国人少年の組み合わせが結局今一つ生かされていない点含め、期待を裏切らぬ一本。
運転手と客。パリを走るタクシーに乗る、たった2人の、わずか1日の物語。尺も設定もコンパクトでありながら、壮大かつ濃密な時間と空間、人生の深い機微をも湛える愛すべきロードムービーだ。若き日の恋バナが意外な過去に繋がり、さらに女性が抑圧されていた時代が孕む、今へと通じる社会的テーマにまで及んでゆく。その過程を、タクシーの窓に映るパリの街並みのごとく滑らかに、流れるように描き切る手腕に唸った。2人の会話や近づきゆく距離も心地よい、思いがけぬ名篇。