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まるでテレビの戦隊シリーズやライダーシリーズのような演出や台詞回しに面食らったが、クレジットを見ていろいろ納得した。いや、別にそういうホラー映画があってもいいとは思う。しかし、世界的ブランドである「貞子」のフランチャイズでそれをやるのはビジネスと割り切ってもあまりに近視眼的過ぎないか。夢にも海外配給なんて念頭に置いていない、内向きの設定やサムいギャグや主題歌のタイアップなどなど。ここから「貞子」を恐怖の対象として再起動させるのは茨の道だろう。
過剰な台詞、大袈裟な劇伴、ここぞという場面での絶叫演技。平均的メジャー日本映画のだらしないところを詰め合わせたような作品に、アメリカの映画界で継続的に仕事をしてストイックな演出も身に付けてきたはずの北村龍平が平然と回帰している謎。北村自身が19年前に手がけた凡作「スカイハイ 劇場版」のスピンオフという成り立ちを持つ作品だが、それを見映えだけは感動大作風の佇まいに仕上げているチグハグさ。150分という長尺にも、企画の浅慮さが表れている。
この題材、しかも実話ベースの作品でこんなことを書くのは適切ではないかもしれないが、序盤の主人公が子供時代のパートは子を持つ親として恐怖以外の何ものでもなかった。リリー・フランキー演じる大学病院勤めの傲慢な医師のキャラクターは出色。それ以降も終始丁寧にリアリズムが貫かれていて、ありがちな感動ものを予想していただけに不意打ちを食らった。母親と比べると割の悪いポジションを担っている父親の造形にも、細部の描写から作り手のフェアさが伝わってきた。
今泉力哉作品、特に自身のオリジナル脚本作品の特性の一つは、中心を欠いたままどこに辿り着くのかわからないその不安定な美しさにあるが、本作はそんな彼の作家性に深い部分で共鳴している稲垣吾郎という安定感抜群の中心を得て、これまでのフィルモグラフィーで最もすべての焦点がパキッと定まった作品となっている。稲垣同様、今泉作品初出演となる中村ゆり、玉城ティナも他の出演作とは比較にならないほど魅力的。自分にとっては、文句なしに現時点における今泉監督の最高傑作だ。
皮肉と自嘲がない交ぜになった高橋悠也の脚本にはつい笑ってしまった。特に人気霊媒師(池内博之)の、すべてはエンタテインメント、需要と供給のビジネスだよ、という台詞。「貞子」シリーズがここまで続いたのも、恐怖が売りのビジネスとしてそれなりの需要があったからに違いなく、それをわきまえた本作、かなりしたたかである。その上で、科学では解明できない奇妙な現象を描いていくのだが、オチがまた爆笑もので、そうか、こうくるか。恐怖よりコメディ寄りの貞子ものだ。
魂の不滅性と生への賛歌をここまで軽やかに、そして賑やかに描きだすとは、アクション系の北村龍平監督、大したものである。いわゆる“三途の川”を連想させる、あの世とこの世の中間にある三ツ瀬町。海に面したこの町の老舗旅館をメインにした母系家族によるリアルファンタジーで、ベースあるのは東日本大地震。切ないエピソードもあるが、現世とまったく変わらないここでの日常が小気味良く、イルカと戯れる門脇麦とのんの場面など拍手級。女優陣がそれぞれに自然体なのも魅力的。
この作品のモデルとなった東大教授の若き日とその母親のことは、まったく知らずに映画を観て、自分に活を入れる気になったのは事実である。でも誤解を恐れずにいえば映画としてベタすぎて、これでもかという押し付けがましさが鼻につく。いや、ムリに泣かせようとか感動させたりの演出をしているわけではなく、事実を再現しているだけなのだろうが、9歳で視力を、18歳で聴力まで失った息子と、息子を支え励まし続ける母親の演出が同じ調子で、それがかなり息苦しいのだ。
固定カメラによる喫茶店のムダ話のような会話が延々と続くのには、またかとウンザリする。意味のない会話で相手の真意を探るのならまだしも、ただ喋っているだけのお喋り。さしずめ今泉監督にあっては意味のないお喋りは知的なゲームのつもりなのだろうが、あげく見えてくるのは妻の浮気を知っても何も感じない男のささやかな戸惑いだとはまさに肩透かし。女子高生作家や、不倫中の友人のエピソードも週刊誌レベル。低体温キャラの稲垣吾郞は一人のときが一番絵になることを発見。
くすぐり満載のギャグ風味? そりゃねえわ絶対よくない。と思ってたら、いや参りました。笑えない、怖くもない、だがドライブ感あって面白い! こういう調子でやりきれるものだという発見。ゾンビ映画界における「ショーン・オブ・ザ・デッド」の新鮮さみたいなものを貞子映画界にもたらした! コメディふうとか現在のガジェットに対応したことより基本のタイムリミットありのオカルトミステリと日本人の死生観をしっかりやったのが効いている。一番面白い場面はエンディング。
さすがにちょっと締まらない長さでは。前半部分が原作に全然跳ねるものを加えない実写置き換えで、翻案部分も具体的な面白さが減じたように感じる。幽冥界を描くファンタジーにしては実景と人物がノイジーな生々しさを制御しきれてないかと。ただキャラをきっちり仕上げてきた三田佳子と柴崎コウ、カメラをピタリと手中におさめる永瀬正敏、姉妹役で身長差が逆の大島優子とのん(前者は意外と背が低く、後者も意外と背が高い)の活気などはいい。だがそんなザ・邦画でいいのか。
私が福島智氏を知ったのは2016年の相模原市津久井やまゆり園での大量殺人に関して氏が自らを意志の表出と疎通を認められぬ側、劣者と選別される側として積極的に発言されていたことからだが、その行動にも、彼の来歴を描くこの映画にも一貫して、障害によって不通となる個々の魂を無視するなという抗議があった。うまい映画ではないが見過ごせず、忘れがたい。「エクソシスト」「震える舌」を親目線から観る苦痛と同じ、対症の日々の具体に胸を突かれる。母役の小雪が見事。
2019年の阪本順治監督「半世界」のときと同等のしっくりくる適役の稲垣吾郎。「半世界」ではフィジカルな職人的環境のなかで凝縮された力感や熟練の表れとして小さく見えた稲垣氏が本作の都市的精神的環境と風景のなかでふわりと大きく見えた。今泉監督はもっと若い頃は自意識の怪物だった。いまはその異形の凸凹、突出の位置までベースが盛り上がり、その認識も映画も大きくなっている。嫉妬、絶望を利用しないで愛の話をやる。そして「ドライブ・マイ・カー」に返し歌をした。