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あまりにもすんなりと振り込みが完了する序盤からは、サスペンスとは無縁の振り込め詐欺は娯楽映画の題材には適さないようにも見えたが、リアリティと同時に誇張を交えながら詐欺組織の内情に焦点を当てることで、良質な潜入ものとしてテーマをうまく消化できている。「ウルフ・オブ・ウォールストリート」のディカプリオとスティーヴ・ジョブスを掛け合わせたような胡散臭さとバイタリティに溢れた、服装や髪型も完璧な組織のエース、クァクを演じたキム・ムヨルの存在感が出色。
少女の母親への愛憎相半ばする複雑な感情が、二つの国と文化に引き裂かれた家族の状況と重ねられつつ、丁寧に掬い取られている。衣服や髪型の変化といったわかりやすい符牒に加え、家族間でどの言語を用いて会話するのかという選択が、その都度少女たちの家族に対するスタンスを反映することで、思春期の不安定な心理状況がさりげなくより重層的に観客へと伝わる効果を生んでいる。言葉ではやりとりできない馬との幻想的な触れ合いが、用いる言語の変化を生む契機となる演出も巧み。
白人のスケートボードと黒人のヒップホップという、一見当時のNYの人種分離を象徴するような二つのストリート文化が、日本人が創業したクラブ・マーズでの交流を契機に思わぬ化学反応を起こしていく経緯は、登場する数多のレジェンドたちの若き日の貴重な姿に圧倒されるのはもちろん、文化史的にも圧倒的な面白さ。当時のドアマンが、DJのように人種や階級を跨いだ多様な客をミックスしていたという証言にはなかでも膝打ち。商業化の功罪をきちんとフォローするバランスも良い。
日本の小説が原作ということもあってか、ストレートな形ではないにせよ、韓国映画ではその無能さや腐敗ぶりが強調されがちな警察の矜持を描いている点はやや新鮮か。真っ直ぐで融通の利かない主人公と、目的達成のためには手段を選ばないグレーゾーンに立つ班長の仕事ぶりを対比する構成は悪くないが、意外な繋がりの発見や転調が説明台詞によってもたらされることが多いのは映画として勿体無い。ここぞという場面での安直なスローモーションの使用など、撮影にも冴えが見られず。
元刑事が犯人に会ったらどうするかと問われて一言「殺す」とだけ返す潔さが良い。そしてこの潔さを本作は最後まで手放さない。元刑事は振り込め詐欺のコールセンターに潜入し、本来の標的が上の階にいることが分かると、どうにか上の階に行けるように策を巡らすのだが、それの描き方がまるでゲームのよう。ワンステージずつクリアし、徐々に上の階に進めるといったコールセンター攻略は、本作の根底にある、相手をうまく騙す話術の演出に、視覚的な要素を上手く加えている。
本作は、母の病気の顚末、そして母との和解の場となるはずの弁論大会の行方といった、物語としてハイライトに向かって積みあげていく語り口を拒否しているようだ。雄弁な語りよりも、言葉にならない表情を注視し、物事をはっきりと映し出すことよりも、より曖昧で、朧げな輪郭をアンバーな光によって描き出す。上映時間内に結論など出なくても良いとでもいうかのように、ゆっくりと表情や物事に寄り添う演出は、ありきたりなホームドラマと一線を画し、静けさと深い翳りを帯びる。
スケートビデオの混沌としてエネルギッシュな映像は、当時のニューヨークを生き生きと伝えており、それだけでとても魅力的。スケートボーダー同士がビデオで撮り合うのと同じように、誰もが気軽に動画を撮り合い、発信している現代の映像文化とのリンクも感じさせる。また、ヒップホップとスケートボードカルチャーに限らず、金や治安の問題や、先鋭化していくコミュニティとファッション的に需要する層の出現など、カルチャー全般にまつわる様々な問題を考えさせられる。
真相に辿り着くまでに細かいプロセスや思考過程が分かりづらいところが多々あるが、警察の汚職を暴く、内偵調査ものであり、かつ一緒に事件を捜査していくバディもの、さらにいえば擬似親子ものでもある三重の関係性が、本作を最後まで緊張感のあるものにしている。この映画全体の緊張感に反して、内偵をしている刑事を演じたチェ・ウシクのとぼけた表情と、それに似合わぬ戦闘能力の高さも、内偵という裏と表のある人物としてとてもうまく機能しているように見え、面白い。
巧妙かつ緻密に仕組まれた大がかりな韓国の“振り込め詐欺”の手口に茫然、戦慄。釜山の建設現場で会社もろとも騙された後、主人公が中国の巨大アジトに乗り込む過程に無駄も淀みも一切なく、導入から引き込まれる。敵陣に潜るスリル、たった一人で繰り広げる死闘、さらに金に踊らされる組織側の人間たちの漫画っぽい描写は、「インファナル・アフェア」+「ダイ・ハード」+「カイジ」的趣きも。ただ、対峙する二人の描き込みがやや表層的で、あと一歩のめり込むには至らず。
アメリカでの日常を失った上、家庭内の不協和音や忍び寄るSARSの影、進学校での疎外感など鬱屈を募らせてゆく少女。母の病気が孕む死への恐れを筆頭に、次々に押し寄せる人生のままならなさに喘ぐ多感な十代を、初めてとは思えぬ憂愁の横顔を以て演じるケイトリン・ファンが、いい。その母に扮するカリーナ・ラムから漂う苛立ちと慈愛にもまた胸が詰まった。白い馬に救いを求める場面など陰翳に富む映像とそこに乗せた深い情感――新鋭女性監督ロアン・フォンイーの手腕に感服。
寡聞にしてヒップホップやスケートボード、80〜90年代のNYカルチャー方面に疎いため、全篇勉強になりました。黒人発祥のヒップホップ、白人先導のスケートボード、その両者の奇跡的融合が生んだ、今に繋がる大いなる系譜。門外漢とは言い条、作中取り上げられる95年の映画「KIDS/キッズ」に登場した面々の脱キッズ後の姿は大変興味深く、我が物顔で往来を滑走していた若者の、短くはないその後の道程に思いを馳せた。何事も拡張するほど原点から遠のくという真理が、ここに。
三世代を描く原作から、三代目である主人公とその父に照準を絞った韓国版。潜入モノ独自の緊張感や真相にじわじわ迫るサスペンスを基軸としているが、とりわけ上司を内偵する主人公と謎めいた上司、二人の少しずつ距離を変えゆく師弟、または疑似兄弟とも言える繋がりに重きを置いた視点が肝に。汚職警官の物語は、こと韓国には山ほどあるが、“白でも黒でもない、グレイであり続けることの難しさと意義”を問うテーマが心地よく着地。主演二人の“ケミ(化学反応)”も絶妙。