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細部にこだわった作りと俳優陣の熱のこもった演技によって、まるで安っぽくなることなく、ハリウッド的なスケール感でわかりやすさとリアルさを両立させた間口の広いポリティカル・サスペンスを成立させており、制作体制における邦画との差を感じさせる一本。当時の韓国の政治を知らずとも楽しめる構成となっている一方で、実話ベースゆえの限界か、終盤はもやもやした展開が続きやや失速気味にも感じられたが、その辺りの問題も巧みな物語の収め方である程度はカバーできている。
火炎瓶をめぐる若者たちのやり取りや後半の大学を舞台にした展開はどこかかつての「パルチザン前史」を想起させる一方、政府から存在を特定されないため顔を隠した抵抗者たちが、アプリを駆使してその都度集合離散する闘争のスタイルは、カリスマ的人物の不在とともにきわめて現代的なものだ。特定の人物のドラマに肉迫するよりは、遍在するカメラによってノーバディとしての市民たちが組織する運動の全体像に焦点を当てようとする、そうした現状を反映した構成の切実さが胸に迫る。
これをどう笑えばいいのか、一瞬戸惑った後クスリとさせられる。差別ネタとは別の形でタブー視されてきた生理や中絶をめぐるギャグをあえて当たり前のものとして提示し続けようとする挑戦的な演出に舌を巻く。ケリー・オサリヴァンが、説教臭さや悲壮感とは無縁の形で中絶を経た平凡な三十代ナニーの物語を軽やかな笑いとともに描き出せたのは、細部のディテールの圧倒的リアルさと、自虐に走ることも開き直ることもなく自己を客観視できる、知性に裏打ちされたユーモアゆえだろう。
主人公カップルが出会う格闘場面は、突然ギアが入る唐突さといい、殺陣のスピード感、トラックやロケーションを生かした飛びつきや落下のアクションを捉える撮影といい最高。アジョの紫のジャンパー、イトゥンのヘアバンドやラジオから流れる現地の懐メロなど、細部もことごとく魅力的で前半は大いに楽しめたが、アジョのEDという設定を「デス・プルーフ」的な女から男への復讐劇と「有害な男性性」批判へと露骨に回収しようとする、あらゆる暴力に理由を用意する姿勢には乗れず。
政策を問うたり、政治の腐敗を生真面目に追求する社会派映画の堅苦しさからは程遠く、陣取りゲームを遊ぶように、サスペンスフルに展開する本作はすこぶる面白い。大統領を目指す男の「影」となり、汚い仕事も請け負う選挙参謀を描くにあたり、文字通り影を多用した演出はわかりやすいが、むしろそれはどこまでも政治をゲームとして明快に語る本作の美徳の一つだ。この過剰な面白さは、こんなゲームのような選挙が果たして正しいのか、という選挙のあり方を最終的に問うてもいる。
2019年、香港で起こった民主化を求める大規模な運動は、多くの者が指摘するようにリーダーがいない。立法会を占拠したデモ隊の知り合いに、危険だから退去しようと説得した名もなき女性の言葉がなによりも胸を打つ事実が、そんなデモのあり方を的確に物語っているだろう。また、運動を俯瞰的にとらえたり、中心的な視点を持つカメラも本作には存在しない。事態がどのように進展しているかも定かではなく、ひたすらに権力とぶつかる市井の人々を延々と映し出す150分強。
今まで映画ではあまり描かれず、描かれたとしても、笑いを誘うギャグや場を凍り付かせてしまうような事故のようなものとして、つまりは映画のストーリーを進めるためのネタとして扱われることの多かった、生理と出血という事柄を日常にある当然の悩みとして丁寧に描いていることが素晴らしい。そして生理と出血という悩みや困難は、あるとき別の人物の尿漏れという悩みと、下着の交換という行為で繋がり共有される。その瞬間に生まれる連帯のこれ以上のない美しさ。
タランティーノ作品や70年代日本のプログラムピクチャー作品などを想起させ、監督自身の映画愛を突き詰めたような画面とストーリーはとても楽しい。ただメインの男女が各々抱える性的なトラウマが、ユーモラスかつシリアスに描かれるのだが、良く言えばバランスよく、悪く言えば中途半端なこの映画の態度にいまいち乗り切れなかった。なにより問題なのは、一番の強敵と一番最初に戦ってしまって、あとは雑魚ばかりという点。もっともっと破天荒に突き抜けたものが見たかった。
まだ実話を基に、こんな映画を制作できるとは。金大中と、その選挙参謀だった人物をモデルに、複雑に絡み合う思惑と奇縁をソル・ギョングとイ・ソンギュンが熱く繊細に好演。綺麗事では済まされない政治の世界。その毒と薬の際どい匙加減を、巧みな脚本とスリリングかつ緩急たっぷりの演出(時代考証含め、画作りも秀逸)で描き切ったビョン・ソンヒョンに拍手を。政治と人、大義と本音、良心と欲――。全篇対比の映画だが、特に「光と影」を浮き上がらせるライティングに注目。
2019年に起こった、香港大規模デモ。ニュース映像だけでは知り得ない、その渦中にいた老若男女入り混じる“香港人”たちの自由を守りぬくための死闘に、改めて胸抉られる。香港警察による一般市民へのあまりに非道な制圧は、まさに地獄絵図だが、絶望の果てでも世代を超えて思いやり、共闘する人間の姿に何より打たれた。上空より俯瞰で捉える“水になる”作戦と、汚物にまみれ下水を這う地の底からの目線。多角的に捉えられた香港の姿に、今、己の革命とは何か、自責とともに問う。
主人公の名前が同じ「ブリジット・ジョーンズの日記」をはじめ30代独身女性の抱えるあれこれを綴る作品は数多あれど、ここまで本音に忠実で、芯を喰った映画は初めて観た。主演&脚本のケリー・オサリヴァンの実体験に基づく、生理や中絶、避妊や時限付きの出産への圧力など、女が背負う理不尽が、延々止まらぬブリジットの出血とともに象徴的に描出される。世間の期待する像と、自身の心の乖離。その切実さに加え、異なる価値観を共存させんとする花火の日のエピソードも忘れ難し。
今号で丸一年、当欄担当開始以来の問題作では⁉ 前情報からシラットの神技が炸裂する「ザ・レイド」級超人アクション+下世話な笑い満載の快作を期待したが、思いの外アクションの比率低めで消沈。結果、主人公メイン二人のどっち? 男性主人公、弱すぎない? 後半に登場するとある人物は、生きてるの死んでるの?……と、累々たる謎が残った。とはいえ、独特の音楽や芦澤明子撮影による16㎜の効果か、往年の香港や角川映画を彷彿とさせる郷愁含め、この雑味嫌いじゃない!