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編集なしのワンカット撮影と、現代英国の食文化や労働環境、付随する人種差別やドラッグやアルコールをめぐる問題をこれでもかとばかりに詰め込んだ物語は、いずれもドキュメンタリーさながらの迫真性を作品に付与する上で一定の役割を果たしているだろう。しかし、あらゆる場面に何らかの意味を持たせようとするかのような構成からは、狙いとする緊迫感以上に、ダレ場を作ることへの制作側の恐怖心や不安という、現在の映像をめぐる別種の問題こそが露呈しているようにも思えた。
主人公の女性警官がいきなり襲われる序盤から終始一貫して、緊張感を持続させつつ意外性のある展開を連続して盛り込んでいくサスペンスとサプライズのバランスが、エンタメ作品として絶妙な塩梅。誰が味方なのかはっきりしない状況で二転三転するストーリーは見応え十分だし、各人物、とりわけサイコパスの殺し屋アンソニーのキャラ立ち具合は素晴らしい。ガンアクションは一見やや地味にも映るが、いずれも警察署という限定された空間の性質を生かしつつ演出と呼応しており効果的。
公衆衛生を改善し、自由を愛しつつ家族を愛した、ハビエル・カマラの柔和な雰囲気がよくマッチしているように思えるエクトル・アバドの生涯に改めて焦点が当たることは間違いなく喜ばしいことだろう。ただ、おそらくは原作の設定を踏襲した息子視点からの語りが、映画としてどこまで効果的だったのかは疑問が残るところ。とはいえ、選挙やコロナ禍も相まって、もはや当時のコロンビアの状況を対岸の火事として眺めていることが難しくなったタイミングでの公開は間違いなく有意義。
すでに携帯電話の存在する世界でベタなすれ違いのメロドラマをどう撮るか、という問いへの暫定的解答として、終盤の処理はなかなか良く練られており感心。だが、「男たるもの家を買って女を養うべし」という規範を一切問い直さず押し切ろうとする脚本は、中国ではそれなりに受け入れられたからこそヒットに繋がったのだろうが、日本の、特に若い観客層の支持を得るのは難しいのではないか。何をベタとするか、という現代メロドラマを撮る際の困難について改めて考えさせられた一本。
高級レストランのスリリングな2時間をワンカットで描ききるスタッフの技術力もそれに応える俳優陣も見事。忙しない店内を追うだけでも見応え十分だが、外国人労働者や人種の問題、パワハラやセクハラ、さらにはインフルエンサーや食メディアへの対応など、レストランにまつわるあらゆることが盛り込まれている。現代的な話題を高い技術でまとめた映画と思わなくもないが、滅法面白いんだから仕方がない。複雑な視点を席番号という数字でシンプルに整理し誘導するのも上手い。
警察署を舞台に素性のわからぬ男たちが銃撃戦を繰り広げるというシチュエーションは非常に心躍る。しかし、極めて限定的なポイントに向けて強者どもが集結し、それぞれ突破を試みる、内と外の攻防が実に愉快なカーナハン演出の本領は発揮されていないように見える。特に男たちの謎をもったいつけた演出で先延ばしする前半部分は私は乗れなかった。また、警官が状況を打破するために、詐欺師と殺し屋、どちらを信じるかという展開もどうにもピントが外れているように感じた。
五人姉妹に囲まれた唯一の息子が父と過ごした日々を回想する。そして映画は回想された父の姿を通して1970年代のコロンビアを浮かび上がらせようと目論んでいるようだ。しかし、優しく知的な父を中心とした家族ドラマが心地よい一方で、父がなぜコロンビアの政治に対して批判的であるのかがあまり見えてこない。「なぜ政治に関わるんだろう」と終盤つぶやく息子と同じく、彼の回想を通してしか父を知らない観客もまた、最後まで父の本当の姿を捉えきれないままである。
一人の女性を一途に愛し、勤勉で少しの不正も容認せず正義を貫き、友だちの裏切りも許したうえに借金すら肩代わりする清く正しい青年。しかし社会的身分に対してはコンプレックスを持ち、都合よく現れた恋人の幼馴染であるエリート男性に思い切り負い目を感じ、傷つく繊細な心と弱さも兼ね備えている。これ以上ない純愛映画の主人公と、そんな彼を慕う健気な恋人によって紡がれる清貧な物語は美しいけれど、この世界はもっと複雑で雑多なものなのではと思わずにはいられない。
正真正銘ノー編集ノーCGによる全篇ワンショットの緊迫感&臨場感は、前人未踏の域に。さらに12年ものシェフ経験を持つ監督の、実体験に基づく人間描写のリアリティが、現場の熱を増幅し、観る者を引き込む。登場人物実に20人以上。綿密なワークショップの成果が見える一人一人の生きた台詞と存在が連綿と瞬発的な感動を生み、息もつかせぬ90分。その上で、フォロワー数に平伏すSNS偏重社会や人種差別など今日的な諸問題までぎゅっと詰め込んでみせるとは。プロの仕事を見たり。
振り切った邦題や若本規夫氏のナレも濃厚な予告篇から、ごった煮風クライム・コメディを想定したら、思いの外渋めのトーンに序盤、戸惑う。実像はむしろ「羊たちの沈黙」+「要塞警察」とでも呼んでみたい、辺境の警察署という密室で繰り広げられる心理戦に重きを置いたサバイバル活劇。新人警官(アレクシス・ラウダーがいい!)を筆頭に、バトラーの殺し屋やグリロの詐欺師、サイコ殺人鬼など面子は大いに興味をそそるが、訳アリ人物を盛り込みすぎた感も。70年代風の空気は痺れた。
白黒の80年代に比して、有色の70年代の大家族(両親と女子5人、男子1人)の弾ける日々が、甘い郷愁に溺れるのではなく進行形の力と血肉を以て描かれている点に、まず惹かれた。父と息子のある意味での蜜月とも呼べる時期を、ずっと見ていたいと思った。父を偉大なだけでなく、愛嬌や人間味や弱点を孕んだ人物として描き出す、監督の程よい間合いが実に秀逸。父との思い出と、彼の掲げた高邁な思想。その両軸を併走させ、この尺に収め切った脚本(弟)と演出(兄)の協働に敬服。
終幕、莫文蔚が歌う主題歌に聴き入る。莫文蔚と言えば10年愛を上回る20年愛を描いた「君のいた永遠」で複雑な三角関係を演じたが、本作の序盤、高校時代の描写には「君の~」に通じる青春の匂いを感じた。とはいえ、ネット投稿が原作のこちらは、かつての携帯小説や昨今のラノベに近い軽やかさが。中国の結婚問題を反映し話題を呼んだそうだが、ならば男性側の家族や、障害に対峙する女性の折々の心の動きもより深く伝えて欲しかった。10年の歳月の重みや奥行きを汲み取れず、無念。