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舞台設定とキャラクターのユニークさ、アニメーションのクオリティ、いずれも圧巻。肝心要の犬王のパフォーマンスが始まるまでの冒頭30分ほどは大いに興奮したのだが。例えば「竜とそばかすの姫」も同じ問題を抱えていたが、せっかくアニメという海外市場に開かれた表現フォーマットなのに、音楽のディレクションがあまりにドメスティック志向であること、そしてその音楽にあまりにも物語のカタルシスが依存していることで、作品の可能性をスポイルしているように思えてならない。
制作予算の都合なのだろうが、長々と続く「異界」描写がカラーグレーディングとエフェクトのてんこ盛りの上、安っぽいCGまでトッピングされていて、どうしたって興を削がれてしまう。もっとも、監督デビュー作から継続してネット掲示板の都市伝説を題材としている永江二朗は、その安っぽいCGも逆手にとって、ありきたりのJホラー的恐怖描写を刷新しようとしているのかもしれない。登場人物のフラットな造形も、現実世界の陳腐さを反映したものと擁護することは可能か。
平均視聴率一桁の民放連続ドラマが映画化されるのも珍しいことではなくなったが、製作委員会に名を連ねてリスクヘッジを図っているメディア各社はともかく、興行面における勝算はどこにあるのだろう? ネットフリックスでアニメ化もされている原作コミックの魅力が本作からはさっぱりわからず、テレビ局映画御用達役者のおちゃらけ演技や、芸人が演出された形跡もなく芸人のキャラそのままで画面に放り出される姿に鼻白むばかり。「ブルシット・ジョブ」という言葉が頭に浮かんだ。
現在の日本映画の課題の一つは、コピーライトセンスに欠けたタイトルにあると常々思っているのだが(例えばコミックやラノベと比較してもそれは明らかだろう)、本作は確かに極めて散文的で、それが作品の吸引力につながってはいないと思うが、名が体を表してはいる。終始気になったのは、映画界や演劇界に片足を突っ込んでいる主人公2人が住んでいる世界の狭さ。本牧のロケーションだけでなく屋内を立体的に捉えた見事な撮影も印象的なだけに、余計その狭さが際立っている。
面白さにゾクゾクした。不勉強で古川日出男の原作も、能楽師・犬王のことも全く知らなかったが、時代も人物たちも、毒のある物語も、ロックな音楽も、強烈にスリリングで、作品のパワーにただただしびれて、圧倒され。色彩がまた物語を立体化しているのも素晴らしい。壇之浦で滅びた平家の怨念で盲目となり、やがて琵琶法師に弟子入りする友魚と、能楽師の血をひく異形、異端の怪物・犬王。決闘さながらの熱く激しい2人の共演はまさに神憑り的。この作品の関係者全てに平伏だ。
もとネタはネット経由の〈都市伝説〉だそうだが、電車、単線、トンネル、無人駅という異世界の入口は悪くない。なぜかそこに迷い込んだ6人の、うち5人は不可解な死を遂げるのだが、ひとり異世界から脱出した女教師が語る恐怖体験が、彼女の一人称視点の映像なのがトリッキーで、何か裏が? その話を聞いた女子大生が、洗脳されたように自分から異世界に入り込み、死も記憶もリセットされた先の5人と必死で逃げ回るのだが、ホラーにしては仕掛けが甘い。エンディングもえ、えっ!
言っちゃあなんだがこの作品を一番面白がっているのは、玉木宏や竹中直人など、元極道役の俳優たちに違いない。極道時代の言動が抜けない堅気を神妙に演じているのだが、逆にそれがとってつけたようで、さぞや撮影現場では監督のOKの声が響いたとたん、俳優たちもスタッフもみな笑いこけ。実際、笑いを堪えて演じているのが見え見えの俳優も。オペラ好きの現役極道役の吉田鋼太郎も妙に嬉しそうだし。と、肝心の主夫の活躍より俳優たちの演技ばかりに目が行く毒のないコメディだ。
本作の深田監督が濱口竜介作品「偶然と想像」の助監督だったとは観終わったあとで知った。が偶然にも本作を観ながら想像、いや連想したのはその「偶然と想像」の第3話「もう一度」だった。本作の方が先に完成しているが、第3話の女性たちと本作の女性2人と感触が似ているのだ。自分で自分の回りをぐるぐるして、自分の外に出られない女性。余談だが本作の舞台女優の名は芽衣子で「偶然と想像」の第1話の女性の名も芽衣子。ともあれ自分という惑星を抜け出す映画ではある。
前回の本欄でアニメ界内幕もの「ハケンアニメ!」と、アニメ「バブル」を紹介したが、「ハケンアニメ!」世界ではジブリアニメ的なものはどう位置づけられてる?と私に問うた友人がいた。それは描かれてない。そう。魔法少女、ロボット、「バブル」的なもの以外に、ジブリや湯浅政明あり。この、サブでないマジ・カルチャーの器としてのアニメの大きさ強さを忘れてはいけない。能もダンサー&個性派俳優もグラムパンクバンドのフロントパーソンも矯めることなく入る「犬王」。
まったく予備知識なしに観始めることに成功してしまい予断としてはなにか抒情的な話か駅で出逢い別れる涼やかな恋愛映画かと思っていたので、神隠し都市伝説系異世界ホラーと知ってのけぞる。画面の軽さ脇役人物の薄さから、どうかなあ、と思うが中盤以降そこをひっくり返していく物語の面白さがあった。現代の神隠しを調べる民俗学専攻学生が自身でその異世界に入るがすでに聴き取っている体験談でチートする、の面白さに加え、なかなか気の利いたどんでん返しが。嫌いじゃない。
やくざで家事するタイプの人は淡々とやる。事務所番や服役で身につける場合が多い、と聞く。刑務所ルポで、新入りの筆者が雑居房の古畳が塵ひとつないキレイさながら妙に黒光りするのはなぜと思いきや起床後その房の受刑者が立てた手のひらの小指側で隅々まで手箒して掃き清めるのを見て納得、との文章をかつて読んだ。その渋いリアル路線でないなら、ファンタジックヤクザ主夫の家事姿に、主婦業を舐めるヤツはシバく!と語らせる、この優れた主題をもっと極めて欲しかった。
たとえばヴェンダースの「ことの次第」やイタリア映画「ぼくの瞳の光」など、登場人物のSF的想念から語り起こされる映画は、その巻頭の語りが物語内物語だとわかってもなお、その映画全体が未来的宇宙的な冒険の感覚を観る者に与える。また私は本作の主演ふたり、富岡英里子さん、中川ゆかりさんをそれぞれ「犀の角」「ジョギング渡り鳥」などの重要な映画の主演者として知るがゆえに、この映画や彼女らの姿を暗黒の真空を何年もかけて越えてきた恒星の光のように受け取った。