パスワードを忘れた方はこちら
※各情報を公開しているユーザーの方のみ検索可能です。
メールアドレスをご入力ください。 入力されたメールアドレス宛にパスワードの再設定のお知らせメールが送信されます。
パスワードを再設定いただくためのお知らせメールをお送りしております。
メールをご覧いただきましてパスワードの再設定を行ってください。 本設定は72時間以内にお願い致します。
戻る
公開年:
現在の文字数:0文字
氏名(任意)
「メメント」にひねりを加えたような設定でP・K・ディック的な記憶とアイデンティティをめぐるテーマを追求する、という作品の根幹を成すアイディアは、ツッコミどころを数多く含む展開の大味さを補って余りある面白さ。難解な設定を早めに説明しすぎないようにしつつ、同時に観客を追いていかないよう努めるバランス感覚も悪くない。いささか詰め込みすぎにも感じられるガンアクションやカーチェイスの大盛り具合も、邦画ではなかなか真似できないスケール感は評価できるか。
これまで日の当たらなかったキャスティングの視点から再検討される、目から鱗が落ちるようなもう一つのハリウッド映画史に蒙を啓かれる。中心に据えられる先駆者マリオン・ドハティの数々の功績の中でも、とりわけロバート・レッドフォードの役柄をめぐる助言やジョン・ヴォイト、メル・ギブソンの起用は、彼らのその後の俳優人生に多大な影響を与えたものとして印象的だ。後進に続く流れを示すことで、アカデミーに反して彼女たちの仕事を改めて正当に評価しようとする構成も良い。
単に舞台となる国を変えるだけではない続篇ならではの新味を加えようという意図はわかるものの、サルマ・ハエックを含む三人で進む前半からは、でこぼこコンビの男二人によるホモソーシャルだが憎めない掛け合いとド派手なアクションの掛け合わせという、前作の肝だった美点がほぼ失われてしまっている。コンビの軽妙なやりとりが復活する中盤以降はやや持ち直すが、ボートや車の使い方、ラストミニッツレスキューに至る展開にはやや既視感があり、前作を更新できたとは言い難いか。
障害者の性、幼児虐待といった気軽に扱うのは難しいが重要な主題を宗教や司法との関係まで交えて扱いつつ、観客に不快感を与えるかギリギリの地点まで踏み込む形で巧みにメロドラマに落とし込んでいる。お節介とケア、友情と憐憫のはざまで揺れ動く人間関係の細部に関する描写はよく練られており、主演二人も難しい役を好演している。物語の締めくくり方には個人的に物足りなさを感じもしたが、観る者にさまざまな思考を強いるという意味で、まさに一見の価値はあるだろう。
記憶喪失に加え、12時間ごとに他人に乗り移ってしまう意味不明な現象に、それっぽい理由をつけず無茶苦茶な説明で強引に済ましているところにまず好感が持てる。またこの無茶な設定による、リニアな時間進行のなか、立場が異なる複数の視点から物事を見つつも、実際は主人公ただひとりの目線でストーリー、つまりは現在巻き込まれている事件の全貌と、自分の正体に迫っていくという実に不思議な語り口が魅力的。ただし、若干上手く作られた逆算問題を見せられている感はある。
語られるのは、容姿が重視される映画スターからリアリティで勝負する俳優に変わり、現在は若さと流行の時代へと移ったハリウッドにおけるキャスティング史の変遷。個性豊かな俳優たちが彩る画面はそれだけでめっぽう楽しい。本作には人種やジェンダーという観点はほぼ抜けているが、キャスティング・ディレクターという今まで軽んじられてきた職種の名誉を復権しようとする本作の試みは、プロデューサーや監督といった権威の横暴が様々に明るみに出てきた昨今、とても意義深い。
最強の殺し屋とエキセントリックな詐欺師のカップルと、トラウマによって殺しをやめたボディガードという癖のある3人で構成されたユニットは、殺さないアクション描写や、殺す者と騙る者と守る者という組み合わせの仕方によって、アクションや殺し描写それ自体を考えさせるポテンシャルを秘めているように思えた。しかし実際には、そういった仕掛けや考察はあまり感じられず、巻き込まれ型アクション映画の域にとどまってしまっている。巻き込まれていくさまは面白いけれど。
知的な障害を持つ大柄でピュアな大人の男と、家族との間に背負いきれないほどの問題を抱える少女との交流は、その造形だけで拭いきれない悪い意味での既視感がある。周囲の偏見や無理解によって二人の間が引き裂かれるたびに、その場面の悲痛さを強く訴えかけようとするかのように多用されるスローモーションの演出や苦しみ嘆く顔のアップは、無闇に彼らとの距離を近くし映画を重くする。しかし、本作に必要なのは彼らとの適切な距離感であり、軽やかなユーモアのような気がする。
事故に遭った男。ガラスに映る顔は全く別の誰かだ。突如カメラがすーっと引き、周りの景色が滑らかに変わってゆく。開巻早々、クリストファー・ノーランばりの映像ギミックが異世界へと誘う。12時間ごとに違う人間の体に入り込む“幽体離脱者”の男が己に降りかかった厄災の真相に近づく過程を、きっちり王道に沿ったアクションを織り交ぜ描く異色ノワール。時間や記憶、夢と現の曖昧な境目など、「メメント」を初めて観た感触を思い出した。ユン・ゲサンの芝居の力に改めて感服。
キャスティング・ディレクターとは何か、その道を拓いたマリオン・ドハティの業績を中心に掘り下げた2012年の作品。「真夜中のカーボーイ」のジョン・ボイトや「明日に向って撃て!」のロバート・レッドフォードなど、アメリカン・ニューシネマ黄金期へと時を戻し、名優誕生の裏に光る彼女の慧眼を辿ってゆく。懐かしい名場面はそれだけで心躍るが、「ディレクター」の名称をよしとせず、アカデミー賞に配役部門を頑なに設けぬ全米監督協会に、今なお続く差別の根幹を見た。
銃撃、格闘、カーチェイス、惜しみなく繰り返される爆発と、そこに重なるギャグの応酬。核となる「妻」=サルマ・ハエックの存在感はもちろん、前作以上に火薬の量もライアン・レイノルズが車その他に轢かれる頻度も増しに増してる第二弾。大ピンチが迫る中、つねに放課後の中学生みたいな会話しかしない主演二人のバディぶりも板に付き、「裸の銃」シリーズにまた一歩近づいた感も。クレイジーだが、現実の方がよっぽどどうかしている昨今。憂き世の澱を吹き飛ばすには最適の痛快作。
知的に障害を持つ男が性的暴行の嫌疑をかけられるが、真相は誰にも伝えられない――実話を基にした「トガニ」とは全く逆のベクトルから成る物語。英題である「水切り」、水面を跳ねる石の波紋が象徴するように、一つの誤解、もしくは偏見が、事実と異なる軌道を生み出し、これまで味方だった人々が“正義”の名の下、一斉に牙を剝く。怖ろしい負の連鎖だ。結末は賛否あろうが、SNSなどで安易に人を追い込める今、キム・デミョンが最後に見せた顔、その残像が問うものの意義を思う。