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死刑制度、女性差別的な制度や慣習といったイラン特有の問題を扱いつつも、それぞれの喪失と向き合ってなんとか生き抜こうとする、どこか「ドライブ・マイ・カー」を想起させもするミナとレザの姿を捉える本作の視線は間違いなく普遍的なものでもある。言葉よりも表情や身振りで多くを語る俳優陣の演技、ある秘密が駆動するプロットの見事さに加え、刑務所の中庭に佇む雌牛を捉えた鮮烈なショットや、室内撮影における扉や窓の開閉をめぐる簡潔かつ的確な演出も見逃せない。必見!
1961年の英国を舞台とした落語のような実話は、ケアや相互扶助の思想が見直されつつある今こそ映画化される意義を有している。自身も貧困に苦しむ高齢者でありながら、あくまでコミュニティや弱者のために戦おうとするケンプトンの姿に加え、その熱意が彼の夢想的な側面に苛立っていた妻ドロシーの姿勢をも少しずつ変化させていく様子を丁寧に描いている点にも好感が持てる。ケンプトンの英国式ユーモアが炸裂する法廷シーンはなかでも白眉。ケン・ローチ近作とあわせてぜひ。
ブルートゥースを前提とした運転と通話を両立させる設定はそれなりに目新しいが、犯人との駆け引きとカーチェイスを同時進行させる程度で、それほど生かされていない。各登場人物たちの行動の裏にある動機は理解できるものの、主人公、犯人、警察それぞれが目的を達成するために選択する行動はことごとくあまりにも理にかなっていない。そのため、たとえ彼らの無能さも演出の一環であるとしても、肝心の爆弾をめぐるサスペンス演出が中盤以降完全な機能不全に陥ってしまった印象。
猫の美談で感動させようなどという手に乗ってたまるか、と観始めたがしっかり泣かされた。なぜ冒頭で成功者となったジェームズを映してしまうのか、なぜ執拗に同じ曲を劇伴で使うのか、といった疑問はいくつかあるものの、彼が動物福祉担当との揉め事を通じて、ボブとともに暮らすことこそがもっとも大切なセルフケアの実践にもなっていたという事実を再発見していく過程には胸を打たれるものが。アジア系の友人たちをはじめとする隣人との相互扶助が随所で強調されている点も良い。
許しを乞わなければならない相手に自らの立場を偽ったまま交流を持ってしまい、関係が深まってしまうという展開自体は贖罪ものの定番の形ではあれど、綿密に構成されたカット割とフレーミングが映画を極めて端正で知的なものにしている。映画が動き出す瞬間に、意志も持ったかのように動き出す緊張感あふれるカメラの運動に、映す顔と映さない顔の的確な選択、話者と聞き手を並列に置く手話での会話ショットから決定的な断絶を律儀に捉えるカットバックに至るまで実にお見事。
盗んだゴヤの名画の返還の条件として、高齢者に対して公共放送のテレビ受信料を無料するための金銭をイギリス政府に要求する。このいささかズレた義賊っぷりや突拍子のなさが面白いポイントだが、それにしては映画も主人公も真面目すぎる。歪なほど真面目ならばそれでもありだと思うのだが、いたって常識の範囲内なのだ。やらかしたことに見合わぬ要求というこの過剰なアンバランスさが、邦題にならっていえば主人公の「優しさ」でとてもマイルドなものになってしまったようだ。
車に仕掛けられた爆弾が本当に爆発するか半信半疑な冒頭付近で爆弾の一つがいきなり爆発。事態の深刻さを問答無用でわからせ、かつ爆発による怪我のため、お金を工面し爆弾からの解放を目指すだけではなく、一刻も早く病院に行かねばならぬという複数のタスクが一気に課せられる瞬間は素晴らしい。そういうタスクが積まれていく前半は楽しいのだが、それらを解決するパートへの移行やその手段は上手くいってるとは思えず、特に車が立ち往生してからテンションが落ちていき残念。
猫と離れ離れになってしまうかもしれない、ということがメインの物語である。しかし猫と仲良く暮らしている現在から、猫と離れ離れになってしまうかもしれない過去語りがはじまる構造なのだから、誰がどう見ても猫と離れ離れにならないことは自明だろう。ならば、猫との結末ではなく、それまでの過程に意識的な作りになっているかと問われれば、それも特に感じられなかった。猫周りになると急にGoProカメラのような質感になる演出もうまくいっているとは言い難い。
悲痛と不穏が凄まじい濃度で満ちる、緊密な映画だ。白い牛が刑務所の中庭に心許なげに佇む画を筆頭に、計算され尽くした余白とひゅうひゅうと心ざわつかせるすきま風、聾啞の娘の力強い目が、日常に息づくぽっかり空いた不条理の間を思い知らせる。死刑制度の持つ闇、冤罪の重さ、イランという国で女性が一人で子供を育てることの途方もない厳しさ、贖罪を巡る永遠の問い――。「別離」のアスガー・ファルハディに次ぐ才気と謳われる監督・主演のマリヤム・モガッダムに刮目、脱帽。
昨秋鬼籍に入ったロジャー・ミッシェルをはじめ、熟練の技が冴えわたる一本。随所に落語でいう“擽り”が溢れ、笑えて、しかも胸のすく社会派人情譚だが、堂々の実話であり、重要な山場となる法廷シーンでの主人公の台詞のいくつかも、亡くなった娘の写真も本物だというから驚く。愛嬌と揺るぎない世直し精神を併せ持つ偏屈爺さんを演じるジム・ブロードベントはもちろん、切れ味鋭くも情け深い妻役のヘレン・ミレンがたまらない。軽妙洒脱にして胸弾ませ、潤す、久々の名画の味わい。
“速度を落としたら即アウト”の「新幹線大爆破」や「スピード」を思わせる、“車から降りたら即アウト”の手に汗握るサスペンス。時限付きである点含め通じるところが多い「テロ、ライブ」他、数々のヒット作を手掛けた編集マン、キム・チャンジュの長篇デビュー作は、緩急や寄り引きにさすがの技が覗く。今や韓国映画に欠かせぬチョ・ウジンと、娘役イ・ジェインが超密室空間で見せる極限の顔と顔、その確かな演技が最大の吸引力に。釜山・海雲台の長閑な風景もまた、実に効果的。
実話であるベストセラーを映画化した前作は、猫の名演&存在感に乗っかっただけのほのぼの映画に見えつつ、実は過酷な家庭環境やヘロインへの依存、結果陥るホームレス生活から脱するまでの主人公の葛藤と英国の根深い貧困問題を映す芯のある人間ドラマだった。が、今は亡きボブ含む主演二人を除いて監督も脚本も総入れ替えの本作は、嫌な予感どおりの仕上がりに。未見の方は、岩合さんのネコ歩き風味と、人間社会の悲喜交々が猫目線を交え程よい塩梅に描かれた第一作をこそ、ぜひ。