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現代を舞台にしたこの手の映画では荒唐無稽な部分とリアリティのバランスが難しいところだが、各国首脳の人間的な触れ合いを描くなら人物造型はやり過ぎるぐらいでちょうどいいという判断は当たっているように思えた。日韓の人物描写の対照性などツッコミ所は多々あれど、前任者の紋切り型のイメージをこれでもかというぐらいに誇張した米大統領や一昔前のB級映画の香り漂う副大統領、対するインテリでイケメンの北朝鮮主席と、脇を固める人物たちのキャラの立ち方は素晴らしい。
限られた予算の中でサスペンス演出に活路を見出そうとしたのではないかと想像するが、たとえば衣装箪笥に隠れたソ連側の妊婦がいかにナチたちから逃れるのか、といった場面にも十分な緊迫感が漲っているとは言い難い。また、人物像についての謎を残しつつ同時に強さと英雄的要素を強調しようとした結果なのだろうが、ソ連側がピンチに陥るたびに突如「赤い亡霊」が画面外から一撃でナチス兵を狙撃するというパターンが何度も登場するのはさすがに工夫が足りなさすぎではないか。
悪事を働く主人公を実にイキイキと演じたロザムンド・パイクは「ゴーン・ガール」の記憶を更新する見事なハマり役で、彼女の活躍ぶりを観るだけでも一見の価値はあるだろう。また、役者の性別や年齢をめぐる通念を覆す現代的な配役を行うことで、かえって不謹慎なネタを遠慮なく投入できるという利点を生かすしたたかさも買いたい。ただ、カモられそうだった老女が意外にも、という転調までは大変楽しめたものの、ひねりが入ってからのパートがいまひとつ盛り上がりに欠けた印象。
北方領土について教科書的な知識しか持っていない私を含む多くの人間にとって、貴重な知見を授けてくれる一本であることは間違いない。日露の友好関係について耳触りの良い発言をしていたはずが、二度目に登場し島の返還について質問された際には一転して強硬な姿勢を示す男など、時折印象的な人物も表れはする。しかし、告発としては意義深いとしても、あくまでも政治的な問いと結びつく形で日常を捉えようとする本作は、現在島で暮らす人々の「生活」を撮ることには失敗している。
韓国、北朝鮮、アメリカの首脳が北朝鮮護衛司令部によるクーデターで潜水艦に監禁される展開や、韓国は真面目、北朝鮮は堅苦しく、アメリカはガサツで傲慢というキャラ付けされた各国の首脳を見るに、本作は政治サスペンスでも軍事アクションものでもなく、コメディ映画なのだと思わされる。しかし笑いの場となるはずの、アメリカ大統領が通訳の苦労を無視して喋りまくるシーンや、首脳会談ならぬ下らない言い争いをする首脳たちという場面はどこも突き抜けず、中途半端な印象を残す。
西部劇を思わせる劇伴や大胆な構図が特徴的で、キーとなる「赤い亡霊」と呼ばれる凄腕スナイパーも流れ者のように描かれている。この「赤い亡霊」は、終始謎に包まれており、最後の最後に「誰であるかは重要でない」ということが「重要なのだ」という形で正体が明かされるが、この気が利いている様で物足りない結末には少し拍子抜け。「お前は私よりひどい死に方をする」とご丁寧に張られた伏線も、ラストまで引っ張りながら普通に死んでしまうなど気になるところが多々あり。
ロザムンド・パイクの金髪の艶やかな質感とワンレンボブは、その美しく揃い過ぎた毛先が非人間感を漂わせつつ、彼女がただならぬ人物であることをわからせるのに十分すぎるほどに効いてる。また、男に一切屈せず、成功のためには反道義的な仕事もこなす業が深く強い人物として全力でロザムンド・パイクを仕立て上げる映画の志も良い。残念なのは、途中から業の勝負ではなくヘッドロックなどの物理攻撃に頼るところか。ダイアン・ウィーストのヘッドロックは素晴らしいけれど。
国後島の歴史的な経緯やロシア、日本の政治問題に切り込まないことに若干物足りなさは感じる。しかし淡々とロシア人の現在と強制退去させられた日本人の痕跡を映し出す撮影者が、「あとで」と言われたまま40年間トイレの設置を放置された女性の訴えに「忘れられるなんてひどい」と思わず口にするシーンは本作に静かな情動を滲ませる。歴史的な経緯や政治ドラマよりも、こうした生々しい忘却された人たちの小さな声を聞き、国後島に吹き荒ぶ風や波を見つめる姿勢は好ましい。
ウェブトゥーン作者でもある監督が、「鋼鉄の雨」に続き自ら同シリーズを映画化。チョン・ウソンにクァク・ドウォン、同じキャストが違う役を演じる趣向は面白いが、潜水艦が主舞台の今作は、南北問題のみならず日・米・中をも複雑に絡ませすぎて、焦点がぼやぼやに。笑いの要素もなぜか一気に増量され、アメリカ大統領の密室での暴走ぶりは、まさかの『サタデー・ナイト・ライブ』状態! 妻役ヨム・ジョンアらと軽妙な掛け合いを見せるチョン・ウソンの大統領像に韓国の夢が溢れる。
戦車同士の接近戦で魅せるロシア版「フューリー」とも言うべき「T-34レジェンド・オブ・ウォー」がロシア娯楽活劇の隆盛を象徴する昨今なれど、やはり玉石混淆、なのか。本作の場合、何よりドラマ性の薄さが最大の難。謎のスナイパー「赤い亡霊」(原題)の正体も、女性が一人存在する意義も、彼女が突然出産する意味も、すべてがうやむやのまま、雪野原と延び切った「間」の白さだけが目に沁みる。せめて狙ったと思しきタランティーノ風会話の妙さえ、もう少し生かせていれば……。
見事な「反転」の映画だ。主人公マーラは言う。「私は子羊じゃない、獰猛な〝ファッキン〟雌ライオンよ」と。劇中、こんな台詞も。「年寄りだからって善人とは限らない」。そう、これは女性=弱いとか、高齢者=善き人だとか、そういう既成概念をフルスイングでブッ飛ばす快作であり、同時に極めて胸糞悪くもある、実に見事な「反転」の映画なのだ。憎々しいが愛嬌滲むロザムンド・パイクと、眼光鋭いダイアン・ウィースト(最高!)。睨み合う二人をもっと、ずっと見ていたかった。
くすんだ、薄曇りの空の下に、荒れ果てた土地が広がる。名前だけしか知らなかった「国後島」の今の姿に、鑑賞中ずっと寒風に吹かれる思いがした。止まった時計が象徴するように、日本が退去を強いられてから75年以上に及ぶ長い間、なんら発展的な進捗を見せることもなく、そこには錆びた戦争の爪痕だけが、ただじっと潜み続ける。白黒写真に写る、かつてそこで暮らした日本人たちの「生きた」顔や姿が出口の見えない争いの空疎さを訴えかけ、鈍色の重い雲ばかりが胸に残った。