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ロンドンの高級住宅街でお店屋さんを開く。しかも手作りのお菓子を売るという、鬼が金棒を振るってるような素敵な設定で、ショッピングやお茶の合間に気軽に観るのにちょうど良い雰囲気を放っている。年代の違う女性たちの奮闘や、多様な人種が登場するなど、現代的な要素も見受けられる。とはいえ、ここまで展開に工夫がない脚本も珍しいのではないか。主人公たちは当初こそ窮地に立たされるが、ひたすら順風満帆に進んでいく物語は、メルヘンとしても苦味がなく物足りない。
文字通り裸一貫からスタートして、本当に必要な100個の物を手に入れていくという設定は面白いが、TVショーの企画というわけでもないのに、主人公たちがそんな大がかりで複雑なルールの勝負をする必要性がなさすぎるのでは……。フィンランドのドキュメンタリーを基にしているが、IT界の超大物に見込まれたり、買い物依存の女性と知り合ったりなど、極端な展開がさらに二重、三重に積み上げられていくことで、内容がほとんど夢物語のようになってしまっているのがつらかった。
“こんまり”に影響され、一念発起してミニマリストになろうという異色の人物が主人公で、家族の持ち物や人間までも切り捨てていくという行動は感情移入しにくいが、そこから次第に自分の感情のより戻しに逆襲される趣向が面白い。主人公の精神状態は絶えず移り変わるものの、それでも善人になるわけではない、複雑でリアリティある展開は人間の生き方そのもの。エリック・ロメールの教訓的な恋愛劇をも想起させるように、アートフィルムとしての雰囲気も持ち合わせた個性的な一作だ。
ホロコーストを生き残り、家族をなくした人々のその後に焦点をあてる試み。少女の口から語られるおそろしい記憶と、彼女の生き方の無軌道ぶりや、愛情を過度に求める姿から、残虐な行為は加害者のみでなく被害者の人間性をも破壊することをしっかりと伝えている。その一方で、中年男性と少女の間における恋愛や性愛とも微妙に絡んだ複雑な感情をメインに据える必要があったのかという点については疑問。少なくともそれは美しく描かれ得るような感情ではないように思える。
確かに、難題を解決しながら洋菓子店を開店する話ではある。だが、スイーツを作るだけの話ではなく、原題「Love Sarah」が示すとおり、亡き人サラの存在によってストーリーを動かすという発想が面白い。サラの娘、母親、共同経営者、シェフがそれらであり、サラと母親の関係修復がストーリーの軸をなす。キャストの程よいアンサンブルが心地良いし、なかでも母親役のセリア・イムリーの気風が豊かな物語性に貢献大。邦題を超えて、美味しいヒューマン・コメディだ。
フィンランドのドキュメンタリーからいただいたアイディアはよかったが、この劇映画ではいくつかのエピソードがゆるく絡まってしまった。主人公二人の友情、スマホのアプリの話、ラブストーリー、祖父母や親世代の話。各々で一本の映画になりそうな題材が並行する様相で進行して、主題がぼやけた感が。モノは喜びを満たすのか、それともゴミになるのかを問いかけ、自分たちで考える時がきていると訴えているのは理解するも、その主題がはっきり見えない。整理整頓が欲しい悲喜劇だ。
女性の凛とした顔、背筋の伸びた全身をゆっくりした動きでとらえるカメラ。インスタレーションを鑑賞しているような錯覚に囚われながらスタートした映画は、徐々に気配を変える。特にヒロインの元カレが登場して以降からの展開には、人の思いと物への記憶をめぐる容易ならざる物語が生む熱量が増す。物に宿っているのは、その物を捨てても残る記憶。幸せな記憶ばかりではない。言葉にならない心情が充ちる。余計なお世話だが、母親の大切な物まで処分するのは独善が過ぎるのでは。
「私たちの方が去った人より不幸よ。私は取り残された」。ナチス・ドイツから解放されたものの、今度はソ連の支配が始まったわけだから、ヒロインの心情は、生きるも地獄だったであろう。とはいえ、序盤の、もう一人の主人公である医師との出会いから性急に進展するヒロインの行動原理にはごく軽い戸惑いも。が、それも束の間。以降の叙情と抑制の調和がとれたストーリー、俳優の感情表現の巧さが戸惑いを払拭。様々な不幸が世界を覆う今の世から見ると、二人の寄り添う優しさが美しい。
大切な人に先立たれ者たちの悲しみや愛の再生を潰れた洋菓子店の立て直しに重ねたドラマを柱に、様々な人種が集まる現在のロンドンの情勢を絡める筋運びは流麗でストレスなく観ることができるし、キャスト、スタッフがみな丁寧な仕事をしている減点要素の少ない洒脱な映画に仕上がっているとは思うのだが、この品の良さがもの足りなさになっているとも思え、ところどころに置かれている大小の障害が次々と収まるべきところに綺麗に収まってゆく終盤の展開には少し鼻白んでしまった。
「すべての持ち物を奪われたところから一日一つずつモノを取り戻してゆく生活に耐えられるか?」という賭けの内容は面白く、彼らが何をいかなる理由で選択してゆくかという興味で観はじめたのだが、二人ともズルばっかりするし、そもそものルールに厳密性が与えられていないため早々に主軸がガタつき散らかった映画になっており、このシンプルからは程遠い無駄の多い作りは何かの皮肉かと疑ってしまうも、喜劇演出の質は高く、テーマのど真ん中から少し外れた着地も妙にあとをひく。
ひと昔前突如日本を席捲した断捨離という悪魔の思想もこの頃では以前ほど聞かなくなったと思いきや、短期間に「100日間のシンプルライフ」と本作が立て続けに公開されるという世界的シンプルライフブーム到来の足音に、未だ電子書籍に馴染めず本の山に囲まれて生活している自分は身を震わせるばかりですが、ミニマリスト心得を章立てて紹介する断捨離ワークショップ教則ドラマの態を取りつつ、その実アンチ断捨離の炎をひそかに燃やしているこの映画にはたいへん好感が持てます。
多くを語らない映画なので時代背景などは事前に頭に入れてから観るのをお勧めするが、ホロコーストで妻を失くした中年男と両親を失った思春期の少女との関係に終始漂う危なっかしい空気が映画に緊張感を与えており、さほどうねりのない展開の中でひたすらに人物に寄り添った演出は温かく、抑制をきかせつつ心の機微を逃していない主演二人の芝居がじんわりと胸に染みてくる佳品で、戦争で感情を奪われた人々がそれを取り戻す過程にはこんなドラマが幾多となくあったのだろうと思う。