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ダークツーリズムという今日的な題材を、フィックスされたデジタルカメラによる「観察」によって延々と映し出した作品。セルゲイ・ロズニツァ監督の視点はどこまでもアイロニックで、それは「観察」によって導き出された結果というより、最初から意図されていたものだとしか思えない。注目すべきはその精密な音響設計。ツーリストたちの雑然とした喧騒の中から徐々に浮き上がってくるガイドの声とそこで語られるエピソードは、非演出を装った本作を巧みに演出していく。
「家なき子」のような児童文学の古典が繰り返し映像化されることには意味があるのだろうし、リュック・ベッソン組の撮影監督ロマン・ラクルーバによるコントラストの強いクリアな映像は、作品世界を壊すことなく若い世代にとっても馴染みやすい現代風のルックを与えることに成功している。しかし、原作の「優れたダイジェスト」以上のものだとは思えず、自分のような観客のための作品ではないということを差し引いても、映画としてどこを評価したらいいのかわからない。
『ストレンジャー・シングス』のノア・シュナップに『ブレイキング・バッド』&『ベター・コール・ソウル』のマーク・マーゴリスという二大傑作テレビシリーズの出演陣の顔合わせ。アメリカ資本の入った作品では久しぶりの出演となるセウ・ジョルジにYouTubeで台頭したブラジルの映像作家。そんな座組のフレッシュさが、そのまま作品の仕上がりに反映されたいわゆる「フィールグッド・ムービー」。パレスチナとイスラエルの対立を「どっちもどっち」的に描いている点は大いに疑問。
すっかり売れっ子のノア・シュナップ、「エイブのキッチンストーリー」に続く主演作。パリ在住、まだ30代の英国人監督ベン・クックソンは、30年前のマイケル・モーバーゴのヤングアダルト小説を何の工夫もなく映像化することに終始していて、ここから「2020年の映画」ならではの意義を汲み取ることは難しい。ピレネー山脈の雄大な風景と、トーマス・クレッチマンら脇を固める名優たちの安定した仕事は、年配の観客には一定の満足感をもたらすのかもしれないが。
撮影カメラに気づいた観光客の、手を振るでも(若者が一人だけ反応)怒るでもなく、一様に無反応な態度が不気味だったが、自分もそう振る舞うのだろう。かつて囚人が吊るされた柱のレプリカの前でポーズをとる様子や、囚人の飢餓について説明を受けた直後、のんびり食事を摂る人々の姿に加え、移動を促すガイドの「5分後に食事できますからいまは我慢して!」という言葉まできっちり組み込む、編集の思惑通り、様々なことをわが事のように考えさせられる。傍観を許さぬ迫力に戦慄。
140年以上も語り継がれる原作を脚色するにあたって、語り手レミ(ジャック・ペラン!)やリーズの設定変更など巧みだ。レミの歌声に、天賦の才を与えたことで、ヴィタリス(ダニエル・オートゥイユ)との天才音楽家同士の親交が深まり、2カ月に及ぶヴィタリスの投獄を待ち続けた、レミの健気さを支えている。ロンドンの雪の描写が絵本のように幻想的。原作では山あり谷ありだった長旅のスリルが、映画では平たく、ラストの希望に向かって、直線的に描かれているのは少し味気ないが。
「アーニャ~」とは一転、ノア・シュナップが、ブルックリン生まれのエイブ少年のいまを軽やかに生きる。ブラジル人のストリートシェフ・チコ(セウ・ジョルジ)の、なにに惹かれて、どのような交流を育んでいったのか? など内面を深堀りせず、12歳の少年の日々を淡々と綴っていく。エイブが見つけた真実は彼だけのものだと言わんばかりの、風通しのよさがいい。本音を抑え切れずにエイブを傷つけてしまう祖父ベンジャミンを、マーク・マーゴリスが上品に演じていて流石だなあ! と。
物語の舞台となったピレネー地方で撮影を行った成果が、主人公ジョーの表情に表れている。マイケル・モーパーゴの原作より1歳年上の設定は、原作の邪気のなさを程よく抑えて、少年の成長をリアルに見せる。ベンジャミンと出会った時に自ら名乗る分別や、ナチス伍長から荷物を取り返せない躊躇いなど、ささやかな大人っぽさが、伍長との別れのシーンで「知らないの? それとも考えたくない?」と詰め寄るジョーの気持ちに説得力をもたらす。山頂で伍長が引用する『山の詩』も印象的。
ガイドの話を聞かないで、ふざけ合うカップル、自撮り棒を使って記念撮影する家族――観光地でよく見る風景だが、そこはナチスの強制収容所の跡地で、ガイドが説明しているのは、その場で拷問され殺された囚人たちについてだ。全篇、白黒加工し完璧に計算された構図の定点カメラが、見学する観光客の様子を捉えている。「場所」を軸に、撮る者と撮られる者、そしてそれを観る者の視点が時空を超えて交差する。皮肉と希望が入り交じったダークツーリズムの現実、その断片。
原作の長い物語を新たな解釈を加えつつ魅力も損なわず2時間弱にまとめていて、アニメ版(東京ムービー新社制作)の影響もヴィジュアルイメージに強く出ている。レミに歌の才能があるというのが一番のオリジナル要素だが、演じるマロム・パキンのその歌声、ルックスも含めたハマり具合は奇跡的で、素直に彼の冒険に一喜一憂してしまう。ダニエル・オートゥイユ(ヴィタリス)、ジャック・ペラン(壮年期のレミ)の存在が大人のビターなドラマとしての側面を担い、深い余韻を残す。
パレスチナ系の父とイスラエル系の母の間に生まれブルックリンで育った12歳のエイブ(でありイブラヒムでありアブラハム)の日常がSNSの投稿を通して描かれる冒頭が秀逸。そこから彼の“複雑な世界”に入り込み、辛辣な言葉が飛び交う親族間の諍いに心を痛めて、得意の料理を使って行動を起こす彼の姿にどんどん心動かされる。フュージョン料理をこのテーマに重ねるのも上手い(お前の作ったものはフュージョンではなくコンフュージョンだ、という師匠チコとのやりとりも)。
いつの時代、どんなコミュニティの中でも差別は生まれるが、それを守ろうとする動きも同時に生まれる。本作は南仏の村を舞台にナチスのユダヤ人狩りから子供たちを救う少年ジョーの物語だが、演じるノア・シュナップが良い。あどけない美少年っぷりもさることながら、繊細な感情表現が巧みで、常に揺れ動くジョーの心理を体現している。ユダヤ人の逃亡者、ナチスの将校、そして実の父、3人の「大人の男」との関係性、その変化が対等な人間同士の本来の姿を再認識させ、希望に繋がる。