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害虫も害獣も駆除しないし、農薬も使わない。生物の多様性を最大限まで高める。これはもはや農業というより、地球と生物の関係性の哲学。当初は生態系の再現やモデルを目指していたが、このファーム自体が地球や宇宙そのもの。そのときスケールという概念はなくなり、人間の体内もまた大きな宇宙であるということが分かってくる。元々アニマルプラネットなどの映像製作者である本人が作っているので、映像や構成が上手すぎたというのが唯一不自然なところだったかもしれない。
「メビウス」では全篇セリフ無しの形態に挑んだ。日本語と韓国語のスムーズな会話の描写くらいではもう驚かない。それよりも力強い設定と迷いなき脚本、ギドクに絶対の信頼をおいて状況を丸呑みする役者たち。極端な非日常を描き続ける作風であるが、おそらくギドクの撮影現場こそがもっとも非常事態だろう。リアリティがないと嘆く輩は、フィクションでもって現実に切り込んでいくギドクの姿勢こそがリアルでアクティビストだと気付くべきだ。そろそろギドク版宇宙SFも見たい。
アメリカで手に入る「MADE IN CHINA」のハロウィーンのおもちゃが、中国の強制労働所で作られていたとは! 身の回りに流通していて「知っている」はずの物たちの、背後にある物語を我々は「知らない」。中国の人権軽視の実態。世界中に映像が流されていた北京五輪の陰。我々は命懸けでこの映像を撮影していた孫毅さんの想いを知らねばならない。政府への復讐ではなく、中国をより良い社会にしたかったのだ。国家が何かを「見せる」とき、必ず陰には「見せない」ものが存在する。
クストリッツァが直感で「世界でただ一人腐敗していない政治家」と言わしめたムヒカ。そうなのだ。誰もが一瞥で直感させられてしまう能力。そして分かりやすい言葉、人に伝える力、献身ぶりや信念に従った生き方でさらに人を虜にしていく。これは別の星の出来事かと疑いたくなり、理由が分からないが泣けてくる。それは我々の国の「政治家」と呼ばれている人間たちとあまりにもかけ離れているせいなのか。命懸けで戦ってきた人物と対峙するためにクストリッツァも全力で真剣だ。
荒地を伝統農法で楽園的なエコロジーファームに変える試みを8年にわたり撮影。家畜や野生動物が躍動し動物好きにはたまらない映像詩だろう。ただ巨額の先行投資をして疑似自然を人工的に作るのだから手段が伝統農法でも歪みは出る。失敗の連続を隠さず描く姿勢は真摯だが、不安定な収入のもとで働く人々の生計の原資が謎のままなのが引っかかるし、予定調和のハッピーエンドへ向かう終盤はあざとさが拭えない。美しすぎる映像からは作り手の主張に反し商業主義的な訝しさが漂う。
悪趣味に反吐が出そうな観念ポルノだが私は興奮した。まるでキム・ギヨンが21世紀に蘇ったようなニヒリズムと性悪説で書き換えられたギドク創世期。“軍艦”という人類史の本質を象徴する方舟の上で男と女、権力や暴力装置などに抽象化された人々がエゴと悪意のなすままレイプを重ね殺しあう。神は傍観者で誰も救わず人間はおぞましき禁忌を犯し生き延びる。グロい演出に体を張って応えた藤井美菜の壮絶な演技に拍手。異形の映像を商業作として問える韓国映画界の自由が羨ましい。
数奇な人生の記録だ。題名にある強制労働施設から密かに発送された救命の手紙が発見された時、書き主はすでに釈放されており、むしろ報道のため危険な立場に陥る。しかし彼は映画で中国政府の非人道を訴える行動を選び、カナダにいる監督へ膨大な動画を送信して一本のドキュメンタリーを完成させた。被写体自らが撮影したスマホ映像を用いた現代的な制作プロセスやアニメを挿入した作風は斬新でスリリング。心温まる気配の終盤を経て最末尾に出るテロップに愕然とさせられる。
サッカー国際試合ぐらいしか話題にならない南米ウルグアイ。本作は74分の小品ながら同国の苛烈な現代史と元大統領の特異な経歴が凝縮されている。日本ではチャーミングな清貧主義大統領との報道ばかりだったホセ・ムヒカ。ユーゴ内戦を経験したクストリッツァ監督は彼のゲリラ闘争時代に目をつむらず、執拗に聞き出し映像で再現、コスタ=ガヴラス「戒厳令」(73年)の後日に接続させる。銀行強盗の過去さえ恥じず回想するホセの迷いなき政治哲学。戦い続けた男の言葉は感動的だ。
かなりの時間経過を含んでいるはずのドキュメンタリーで、樹木園の拡大など一目瞭然の変化もあるのだが、いまいち体感としてその長き年月が伝わってこない構成と編集になっている。動物の病や出産などの劇的な出来事をいくつか捉えつつも、決定的な瞬間は登場せず、節目が掴めないもどかしさがある。美しい楽園を捉えようとした主観が感じられ、そこから逸脱する些末は刈り取られたりしていないか気になるし、またこの場所で働く若者の労働状態なども勘繰ってしまった。
女優への殴打やセクシャル・ハラスメントが問題となっている監督の新作を公開し、収益として後援するのは同意できない。作品は相変わらずギドクらしい突飛な設定で、人類全体への不信感などテーマや発想力は面白いが、全篇に溢れ返る「女はレイプ対象か売春婦のどちらか」という極端さには辟易する。セリフに日本語と韓国語が共存するのは構わないが、日本語だといかに緩衝材的なつなぎのセリフがないかがわかって、観念的なテーマのぎこちない押し付けの印象が増す。
BSで過去に放映されたことがあるようだが、改めて現代日本において劇場で観るにはふさわしい作品だ。中国の強制労働施設における拷問や虐待、思想統制の告発を、アメコミ風の絵柄を交え語っていくポップさが非常にとっつきやすい。そしてサスペンスフルな逃走劇となる現在進行形の展開は、手に汗握るドキュメンタリーで構成が見事。単に人権問題の提示だけでなく、恋愛劇としても複雑な女心が妙味を添える。ここ数年に観た中で、もっとも衝撃的なノンフィクションだ。
クストリッツァには根底にマチズモを感じていたので、彼が「世界でただ1人腐敗していない政治家だと直感」したという煽り文句が強すぎて落ち着かない。とはいえ硬派な編集にその片鱗が見えつつ、ムヒカの意外な過去を掘り起こしていくインタビューはさすがの人間力。ナルシシズム以外の理由で、切り返しでクストリッツァの顔を何度も写す必要があるのか受けとめ方には悩む。正攻法な政治的ドキュメンタリーなので、これまでの監督の作風を求めるタイプの作品ではない。