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水も漏らさぬプラン、水際立った演出、いぶし銀の話芸で完璧な「絵」を描いてみせる詐欺プレイを心ゆくまで楽しみながら、これは結局、どんでん返しを仕掛ける映画屋たちとやってることは一緒ではないかと思った。同時に、目当ての金はイコール情報だから、詐欺は諜報活動でもあり、その意味でこの映画は英国の重厚なスパイ小説にも似る。酔うというより、飲むほどにこちらを覚醒させる不思議な酒のようなテクスト。一カ所、フリッツ・ラングとヒッチコックの記憶が鳴り響いた。
女装の鑑賞に目がない人はクイアー(価値転倒的)な粋人だが、なんといっても男装に限るという人は野暮なロマンチストである。私は後者であって、クリステン・スチュワートがあまりに美しく、可愛く、その上男装して美少年を演じるというこの映画は、ひたすら彼女を見つめ続ければよく、実の所、他にはあまり見所がない。クイアーな屈折に欠け、基になった実話をめぐるドキュメンタリーもすでにあることが、この劇映画化をいっそう物足りなくしている。でもまた見に行く。
監督の処女作「地獄の逃避行」をこよなく愛するが、前作「ツリー・オブ・ライフ」は映画館から逃げ出したくなった。さて新作は、若気の至りみたいな感覚派モンタージュの3時間を耐え抜いた後、なるほど、マリック映画だと思った。世紀の頑固者の話なのは、監督自身が希代の頑固者だからで、こういう人は年を取るほどに若々しくなる。ほとんど青臭さと紙一重の天才(逆?)。ただ、土、木材、水といった存在のかぐわしさ、牢獄の壁のひややかさはこの監督の独壇場だ。
広大なフロアにひしめく記者達と、ブラインドで目隠しされた個室に陣取るボス。この公私二空間の構造は30年代のブンヤもの(新聞記者映画)全盛期と何ら変わらない。TV時代にフロアの多数派となった女性達が、両空間を往復しつつ、セクハラ会長への告発をめぐって「私も!」の声を上げるか口をつぐむか揺れ動く。意外に見応えがある。思うに主演女優3人以外の脇役の女達一人一人が、要所要所でいい味を出している。マーゴット・ロビーの親友のレズビアン娘がキュート。
H・ミレンとI・マッケラン、芸達者な二人の、巧妙な騙し合いに、まんまと乗せられてしまった。デートで「イングロリアス・バスターズ」(09)を観たり、ノーセックスだけど、キッチンで恋人の髪を切ってあげるという甘やかな行為など、ちょっとした違和感もすべて計算ずくだったとは! 能面のようなミレンの顔を思い返すと、改めて震撼。すっかり騙されて“ああ、面白かった”とは終わらないところが“オトナ”のライアー・ゲームたる所以か。人に歴史あり、後味はたいそう苦い。
ローラではなく、サヴァンナの視点でスキャンダルの真相を捉えたとうたうが、JT役を引き受け続けたサヴァンナの動機より、こんな真っ赤な嘘(スピーディの赤いウィッグが印象的)を思いついたローラの理由に胸を打たれるのは年のせいか。サヴァンナのティーンエイジャーらしい焦心を、いい感じにかき乱すのはル・ティグラのダンス・ミュージック。サヴァンナが恋に落ちてしまう美人セレブ・エヴァをD・クルーガーが好演。天国から地獄まで、カンヌ映画祭のシーンは圧巻の貫祿だ。
鳥のさえずりやバッハやベートーヴェンの音楽に彩られた、名もなき人たちの静かな暮らしの中で、街宣車の物騒な、ヒトラーの声高な、ギロチンの刃が落ちる恐怖の、不協和音が際立つ。働き者の主人公の手は、手錠をかけられた後もなお倒れた傘を拾い上げる、やさしさを持つ。彼の決心は、分別というより、軍事訓練から帰還して、妻を抱きしめ、三人の娘たちとはしゃいだ時の感触を憶えているからだろう。時流に逆らい、血で汚されることのない、主人公の手のような、美しい映画である
このスピードで、こういう実録映画を作れるのがアメリカの懐深さだ。S・セロン、N・キッドマン、M・ロビー、三世代のヒロインそれぞれの華麗なる結末も見事。女同士で徒党を組む、作中の台詞を借りれば「スポットライトをシェアする」のではなく、自分らしく問題を解決する知的な姿勢にも好感を覚えた(3人がエレベーターで一緒になるシーンのヒリヒリするような緊張感!)。セロンの変貌ぶりも鮮やかだが、グレーなポジションを好演するK・マッキノンが、作品に奥行きを与える。
イアン・マッケラン扮する詐欺師の老人が、ネットで出会った世間知らずの資産家の老女を騙す、という構造で物語は進むが、老女をヘレン・ミレンが演じている時点で、なんとなく展開は読める(日本版予告篇はミレンを軸とした内容だが……)。予測はできるが最後までスリリングなのは、やはり2人の裏の裏まで計算され尽くした巧妙な演技テクニックとそのアプローチの違う組み合わせの妙だろう。前半のユーモラスなやりとりのほのぼの感に騙され、ラストは心底ゾッとした。
00年代、謎の作家として登場したJ・T・リロイ。その「正体」をめぐる騒動を描いた本作は、リロイを演じるサヴァンナの視点で描いている。彼女が徐々に架空であるはずのリロイと同化し、リロイの小説の映画化で主人公サラを演じるエヴァは、サラに憑依する。「作者」であるローラは、“嘘の中に真実以上のものが宿る”ことに歓喜し、混乱する。「実話」を構成する何重もの虚飾された真実。それは実にグロテスクだが、誰もがクリエイティブそのものに対してだけは誠実なのが泣ける。
いくら自国が他の国と揉めようともそれが自分の日常に影響することはない、なんてことはもちろんない。自分の考えを貫く自由すら奪われるのが戦争だ。本作は、ナチスに協力することを拒んだ実在したオーストリアの農夫とその妻の物語。自然光にステディカムの長回し、詩的なモノローグ(今作では夫婦の手紙のやり取りとして表現)というマリック節全開だったが、この実話との相性が良かった。異常な状況下で少数派にされた名もなき夫婦の日常を丹念に体感させられ、涙も出ない。
16年に起こった実際のFOXニュースのセクハラ事件を映画化した本作。たった3年で実在の人物と架空の人物が交錯する娯楽作として練られた脚本を完成させ、シャロン、キッドマン、ロビーを主演に揃えた、このスピード感。それは、この間に起こったMeToo運動などのムーブメントの凄まじさを物語っている。“スキャンダル”が報道されるまでの3人のキャラクターに焦点を当て、じっくり描いているが、彼女たちが唯一顔を揃えるのが、上下に移動するエレベーターというのが意味深い。