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いままでの戦争記録映画は、科学的一般的な関心に基づいて作られていた。バルト風に言えば「ストゥディウム」的。しかし本作は実際の退役軍人に語らせ、モノクロ映像に色彩を加え3D化した「プンクトゥム」的な手法。コード化不可能な細部が生き生きと蘇生。そのことで個々の人間性が出現。開戦が告げられ、兵役に招集され、戦地へ向かい、悲惨な戦場の模様が語られる。モノクロからカラーに変わる瞬間、我々は寒気に襲われる。戦争が距離を置いた記録ではなくなる瞬間。秀逸。
確かにロッテントマトは高得点だろう。素晴らしい脚本、監督、演技、演出。何も言うことはない。死人に口無し文豪ハーラン・スロンビー。「まるでパパの書いた物語の中にいるみたい」。そうなのだ。これはハーランの書いた小説そのものが、家族に降りかかり、駒のごとく動かされる。劇中メタ小説は私たちには読書不可能だ。それは劇中の世界を完全に予言し支配する。ということは、スロンビー家の人々の人生そのものがハーランの壮大な遺作なのだ。まあ満足する作品でしょう。
限りなく透明。監督初の長篇作品だが、香港の移ろいゆく四季と小さな人間関係の機微を美しく切なく、堂々と描いてみせた。斬新なアイデアや驚愕な演出にはほど遠いからこそ、心の微妙な陰翳を映しだすことに成功した。法や慣習では掬いきれない人間の感情。日本に届けられる香港の社会混乱の報道では到底伝わらない、数多のドラマがあるはず。人間の情感や関係は、記号や一般と呼ばれるものでは決して置き換えられるものではない。全ての存在が固有でかけがえのない奇跡なのだ。
P・クロソウスキーは名前や肉体を持つ人間のことを「生きる貨幣」と定義し、それを「偽造通貨」のように流通させ、貨幣制度や婚姻制度を転覆させようとした。この世に生まれ出ない蠢くファンタスムを無限に反復させ、そのオリジナルは喪失していく。この作品の中では原型と複製の問題が、絵画、紙幣、犯罪、人間というメディアを使って重層的に語られる。取調室で証言することで、物語は動き出す。モデルが存在しない抽象画のように、現在では語られる事実の存在性が希薄。
モノクロフィルムをデジタル技術で着色した映像は近年珍しくない。第一次世界大戦のイギリス軍塹壕戦をダイジェストした本作もカラー化は驚くレベルではないが、フィルムのコマ数を秒/24に揃えるため新たに絵を作り足した映像のスムースな動きには唸る。ただそれらは案外煩雑な作業なのか修復パートは60分ほど。カメラが入れない最前線の激戦はイラストの紙芝居風描写だ。戦勝国民の従軍回想映像詩であり、終盤に厭戦気分も表現されるが、中盤までは好戦的ムードが強い。
オリジナル脚本ながら本格探偵映画のクラシカルなムードに現代的小道具と笑いをブレンドし、このジャンルのファンは満足ゆく内容だろう。舞台となる郊外の豪邸の造作がとても良い。ただ老作家の不審死でおごそかに始まる謎解きが途中から倒叙に変わるのは観客を当惑させるし、後半の遺言状のくだりも分かりきってるからもっと前段でいいのでは?など構成に異存。D・クレイグだってもっとエキセントリックに造形できたはず。変な訛りがある設定だけじゃ名探偵的魅力に乏しい。
香港ではゆるぎなき名優かもしれないが、私にとってA・ウォンは今も異常で凶暴な役をこなしてきた怪優で、その暴虐者のイメージと、肩より下が不随となった車椅子生活者の老いと無力のギャップがまさに「淪落」を感じさせ観賞の誘引剤になっており、内容も悪くはない。しかし物語は我々の周囲にある現実とはあまりに遠い聖人たちの美談だ。仲睦まじい登場人物男女に性欲をめぐる煩悶は皆無だったのか。A・ウォンを使うならもっと煩悩丸出しの生ぐさい人物像でもよかったのでは。
かつて演じた様々なキャラクターと名場面を現在のチョウ・ユンファが再演し一作品に収納した大御所のセルフカバーベスト盤風……という視点で見れば一作品内によく収めたと誉めたくなるし、銃を手にしたユンファは今もとても美しい。一方でシナリオにしわ寄せがあり、散らかったプロットを時制錯綜でさらに混乱させ、展開も超スローで緊迫感欠如を補う大げさなBGMがかなりうるさい。別の有名作によく似た構成と謎解き含め散漫な内容だが、ご祝儀映画と割り切れるなら見る価値は。
純粋に記録映像のみをつなぎ構築していく、シンプルゆえに技術が試される作品。どの映像にどんな退役軍人のインタビューをかぶせ、観客を飽きさせない映画に仕上げるかという難易度が前面に出ている。P・ジャクソンは序盤をソフトにし、次第に戦場の目や耳を覆いたくなる地獄をこれでもかと積み上げる手法を取っている。これは戦争反対の意志を伝える真っ当なドキュメンタリーであるし、同時に手法的には戦争の恐ろしさを目白押しにした、露悪的ともいえるホラーである。
まるで70年代にオールスターキャストで撮られた、クリスティー原作映画のような賑やかで華々しい作品。編集の軽妙さや構成の捻りはイマドキ風だが、D・クレイグ演じる古式ゆかしい探偵像は、前に出すぎず渋くて良い。何よりこれがオリジナル脚本というのが驚き。多少、謎解きで音のタイミングの間違いや、上手く回収されない挿話もあるものの、原作なしでここまで雰囲気のあるミステリーが撮れるのは立派。小道具やセリフが意味を持って回収される数の多さも鮮やかで見事だ。
「最強のふたり」の主人公二人を男女に変えてみたような設定だが、本作で二人がするのは悪ふざけや冒険ではなく、互いの秘めた夢をかなえるというわかりやすく優しい行為だ。厭世家と貧乏な出身に悩む二人にちょっとしたトラブルが起き、絆を深める密室劇が大半を占めるが、狭さは気にならないし飽きはこない。アンソニー・ウォンもさすがに達者だ。ただ本当に良い話のダダ漏れといった印象はあって、わかりやすく感動したい人や泣きたい層が中心ターゲットなのだろうなと感じる。
監督・脚本のフェリックス・チョンの崩壊寸前な大風呂敷の広げ方に圧倒される。ものすごい振れ幅で、成立しているのかすら危ういギリギリな展開を、引っ張って面白く見せてしまう手腕に感心。チョウ・ユンファのこんな使い方があるのかという驚きもいい。面白い映画はリアリティがなくとも、違う次元や文脈で観客を魅了するのだという新たなセオリーを感じた。過去と現在の配分のめちゃくちゃさや、時間軸の巻き戻し方もえらいことをやっていて、特殊な感性の賜物だと思う。