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話し相手は、黒猫のチビしかいない。そんな孤独な老女を演じる倍賞千恵子さんが素敵! 彼女を見ているうちに、ふと、「みな殺しの霊歌」の孤独な少女を想い出す。賑やかな家族に囲まれたさくらより。それに対して、家では、風呂、飯、寝るとしか言わない団塊世代の男のなれの果てを演じる藤竜也の亭主は、設定とはいえ、かなり分が悪い。最終的に、無神経ではなく、たんに自分の気持を伝えられない不器用な男だったとわかるのだが、そこに到るまでの微妙なニュアンスが欲しかった。
優しい笑みを浮かべて食事に誘う吉行和子演じる雪子さんがコワい。下宿人の薫(寛一郎)が、度重なる誘いに、小説の執筆を理由に断ると、では出前にしましょうと、食事を届けにくる。おまけに、なにかというとポチ袋をくれる。その笑顔の裏に何があるかは謎だ。それに較べると、赤縁眼鏡の小野田さん(菜葉菜)のほうは、あえて自虐的に振舞うだけわかりやすい。結局、薫は、二人の女の過剰なおもてなしから逃れ出ていくが、あのまま、あそこに居続けたらどうなったか、と思う。
ゲキメーションというのを初めて見たが、面白い。紙に描いた絵を切り取り、それに棒などを貼り付けて手で動かして撮影するのだそうだが、キャラクターひとつをとっても、監督自身による手描きの絵ならではの色使いや質感が、通常のアニメーションの平準化した絵と違った生々しさを感じさせて魅力がある。話も、よくある秘境探検ふうに展開しながら、人はどんどん死ぬし、主人公もロボット頭になってしまうというように、後戻り出来ないところにいくのがいい。続篇を期待したい。
寂れた鉄工所を営む初老の男のもとに、兄が訳ありの女を連れて40年ぶりに帰ってきて、周囲の年寄り仲間を含め、ちょっとした波風が立つという話自体は悪くないが、兄に扮する柳澤愼一をはじめ、新橋耐子のスナックに集う老人たちの演技が、芝居臭いのが鼻につく。皆さん、芝居をじっくり見せたいという監督の期待に応えたのかもしれないし、やってるほうは気持がいいかもしれぬが、映画にとっては邪魔になる。だから、自然体でそこにいる高橋長英にカメラが向くと、ホッとする。
画面サイズと色調の変化で映画史をたどる感じが楽しい。人物の入れ替わりを身振りの同調で納得させる演出も上手い。韓流スターそっくりの若者の件もいい。だが肝心の部分が説明不足。旦那さんは何故、奥さんのかつての同僚とお茶を飲む仲になったのか、その現場をどうして奥さんは見てしまったのか。星由里子さんの都合で撮影できなかったのか、謎だ。チビが死期を悟って自分から消えたのだ、と勘違いする藤竜也が鍵なのだが構成が今一つ。彼の体調不良を最初から押し出すべきだった。
見終わるとじわっとくるタイトルで、老嬢の下宿人への固執をユーモラスに、時には不気味に描き出色の出来。吉行と寛一郎のコンビ、絶好調。老嬢の代理人のように振る舞うもう一人の下宿人、菜葉菜も優良。ただし惜しいのは、他の人物の挿話が豊富でかえって総体が散漫になったことだ。老嬢が自分の過去を相手に応じて作り替えているという細部も不要な気がする。むしろ実在の画家を巡る論文と、寛一郎が作家志望という部分に更にこだわってくれても良かった。好素材が何かバラバラ。
アニメーションならぬゲキメーションという方法論が面白いのでそっちを激賞する、というのもあり、とは思ったのだが、物語がつまらないと星は足せない。喜劇になろうとしてなりきっていないようだ。特に声優に吉本芸能人が入ってくると逆に全て台無しになる印象。それは監督の責任ではないが、何か最初から「大した話じゃありません」と映画が自己申告しているような錯覚に陥る。地道にこつこつ作ったのは偉いと思うし、そうなるともっとデタラメな話にしても良かったのではないか。
ラストに流れる〈私の孤独〉に七〇年代『木下恵介アワー』の記憶が蘇り、感無量である。高橋は『痛快!河内山宗俊』でファンになって以来四十年。柳澤はラピュタの告知ナレーションを聞いていたから健在なのは知っていたが、ここまで動けるとは意外だった。彼はもちろん『奥さまは魔女』から知っている。おどろおどろしい憎悪劇が起こりそうな登場(再会)シーンだが、案に相違して和み系ストーリーで嬉しい。喫茶店での固定ロングでドラマが二つ分、一気に展開する効率性を高評価。
松竹・日活・東宝と言いたくなる俳優たちを揃えつつ、そこに充足した回顧的な老人映画ではなく、現代に相応しい老々夫婦の映画になっている。猫の行方不明を軸に老年夫婦のちょっとした危機を淡々と描く無駄な描写のないシンプルな作りが心地いい。インディペンデント映画では先輩格の藤竜也の方が柔軟自在に演じ、倍賞千恵子は撮影所的演技が目立つが声の良さはやはり魅了される。雨の中を走り、猫を探すという晩年の黒澤明的描写を小林聖太郎が軽やかに撮っているのが好ましい。
異物感を覚えることが多かった浜野佐知映画に今回は不思議なほど入り込めたのは、テーマ先行ではなく吉行和子を魅力的に輝かせる企画として生まれたせいか。虚構性を幾重にもまとう吉行の存在を目にすれば、何が起きても受け入れようと思ってしまう。繰り返し描かれる食の描写など、近年の映画から抜け落ちた細部に映画が宿っていることを実感させる。このところ先代、先々代のツッパリぶりを継承しつつある寛一郎が吉行を相手に怯むことなく向き合って映画を躍動させている。
ゲキメーションというより「妖怪伝 猫目小僧」と言った方がある年齢以上には伝わりやすいが、デジタルの自由度が加わることで同じ手法を更新できるようになったとおぼしい。大島渚の「忍者武芸帳」の手法が近年も再利用されたように、それ自体は良いとしても何を描くかという点では更新できたとは思えず。30分ならまだしも、90分近いとなると、この手法のみで突っ切るには内容を吟味しなければ難易度が高く、「猫目小僧」の雨宮雄児の様な脚本家か高橋洋が必要だったのでは?
冷え冷えとした地方都市を舞台に無愛想な老兄弟の再会というカウリスマキあたりが撮りそうな話で、日本映画的な情感に流れないのが良い。おしゃべりの度が過ぎる台詞の洪水に日々晒される身としては、饒舌ながら無駄な台詞のない見事な脚本と柳澤愼一の声に聴き惚れる。〈秘密〉はあっさりしたものだが、最近では珍しく全篇をアフレコで撮っているようで、均一化された声が継続していくのが効果的。今号は老人を対照的に描いた3本が並んだが、今後はより作り手の見識が問われる。