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屋敷で大富豪の毒殺事件があり、容疑者はそこに暮らす一族郎党という王道の「館もの」。ハンサムな私立探偵が、一人ひとりの部屋を訪ね歩き、その動機を掘り下げていく。ここでもう少し推理やトリックを披瀝したいところだが……。第二の殺人が起き、予想外の犯人とその動機が明らかになるあたりは、それをアクション場面に仕立てていて演出にスピード感があり、謎が解ける痛快さはあった。原作を読み直して比較したいところだが、オチを知っている推理小説を読むのは少し苦痛かも。
表題の派手さはないものの、知的な好奇心を刺激する美術史ドキュメンタリー。ヒトラーの下でユダヤ人から略奪し、ルーベンスなどの名画を収集した国家元帥のゲーリング。200人以上の画商や美術史家が協力し、文化財を略奪したローゼンベルク特捜隊。ナチスドイツ時代に行方不明になった名画が、戦後数十年をかけて発見され返還された経緯を丁寧に追っている。そこから見えてくるのは、ナチスが企画した「退廃芸術展」と「大ドイツ美術展」に美術品を二分した思想的な背景である。
フランス語圏のアフリカへ旅行にいったのでフランス語がマイブーム。ときどき聞き取れる会話があると何だか嬉しい。パパがネット通販会社の倉庫で現場責任者という設定も、労働組合の活動にのめりこみ、妻や家庭へのケアが疎かになっていたという状況も、現代社会でいかにもありそうで共鳴できる。渋い家族ドラマになりそうなところを、全篇にわたって手持ちカメラを使い、エスタブリッシング・ショットを省略し大胆に場面転換しているおかげで演出のキレが良く、テンポ良く見れる。
このような作品のレビューを書くとき、いつも困ってしまう。カナダ映画だが、ほぼハリウッドの職人スタッフが作ったようなフラットなライティングで、カメラの存在を感じさせない自然なフレーミングとカット割りであり、演出的な特徴を指摘できない。だからといって駄作ではなく、むしろ凡百のラブコメよりも示唆に富んだウェルメイドな母子ドラマといえる。ならば俳優論でいくか、自宅教育という本作のテーマに寄せて書くか、と迷っていたところで、早くも字数は尽きていた……。
ポワロもマープルもいないこのミステリーで事件を解決するチャールズ探偵。演じているのが「天才作家の妻-40年目の真実-」で、作家の息子を演じてG・クローズとは立て続けの共演になるM・アイアンズ⁉大勢の登場人物のキャラが濃く、彼らの個性が醸す不穏さがストーリーを支配。加えて、舞台になる富豪の邸宅の絵画・調度も一代で富を築いた当主の背景を反映して、クリスティーの物語に特徴的な上品な贅沢さとは趣を変える。犯人は中盤で予想できるが、想定外の幕切れに吃驚。
ヒトラーが欧州各地で絵画などの芸術品を略奪したことは誰もが知っている。これは副題が示す通り、美術史家や研究者、略奪された作品の相続人らの証言で構成。今さらながらその数の多さ、略奪者たちの手口等々に驚愕。が、最も驚いた(=収穫)のは、この作品で初めて知った「グルリット事件」。法的には亡き人グルリットが略奪品1500点を自宅に隠し、あろうことか、これを切り売りしながら裕福に暮らしていたとは⁉ まるで巧妙精緻なミステリーの謎解きを見ているようだ。
確かにパパは奮闘する。朝、子供を起こして着替えに食事、その他の育児に家事に仕事も。70年代から80年代、自立のために家庭を捨てる妻を題材にした作品が量産され、すでに半世紀近くが経つが、この映画のポイントは不満を溜め込んでいた妻が、理由を夫に告げずに黙って去ったこと。夫婦の事情はそれぞれで、さてこの場合は……。答えを観客に委ねた点に意味がある。なのに、劇中に描かれる仕事などの社会問題が抜け、父親の家事・育児問題に矮小化した印象を受ける邦題に違和感も。
シチュエーションも人物のキャラも極端であるが、今の学校にしろ家庭にしろ、子どもを取り巻く難題の数々を思えば、これもあり。息子を守りたいから16歳まで自宅で英才教育を授ける一方で、大麻の規制緩和を唱える議員関連のジョークを、マリファナを吸いながら言う母は面白い。初めての学校生活を経験するリアムも、周囲に言動をヘンだと思われても、同調しないところが当を得ている。祖母の存在が◎。学校制度や社会システムや母子関係などのポイントを、笑わせながら見せる佳作。
マックス・アイアンズの演じる探偵が情けなくてよい。ハードボイルドでも変人でもヒーローでもなく、単身アウェーに乗り込んで老人から子供まであらゆる容疑者に翻弄されまくり、探偵という職業が本来持つ孤独の属性が、ロマンではなしに浮き彫りになる。マックスとグレン・クローズは二度目の共演だが、やっぱりクローズは耐え忍ぶ妻役よりもアクの強いほうがよっぽど生き生きしている。イギリスの古い邸宅と庭園のロケーションをドラマに生かした画づくりは映画ならではの醍醐味。
本作における芸術品はいわばもの言わぬ被害者だ。一方でそれらは、持つ人間の思惑によっては、強力な武器にもなり得る。ナチス時代に美術館から押収された絵が見つかったとき、バイエルン州は美術館ではなくナチスに返そうとしたという。戦後随所でナチスの罪を償おうとしてきたドイツも、芸術の扱いには慣れていないというセリフが刺さる。芸術品に罪はなくとも、それを生み出したり所有する者の人間性は問われる。その意味で芸術品は銃と同義であり、結局は人間の物語なのである。
ロマン・デュリスをはじめ役者陣と子供たちの好演によって、家を出た妻も含め、どの立場の者にも目配せの効いた良作になっている。でも、と思う。これがもし男女逆だったら、ドラマとして成立しただろうか。ある日突然夫が出て行き、残された妻が一人で仕事に家事に育児に奮闘したとしても、どこかで当然だとみなされてしまうのではないか。人としてこなす質量は同じなのに、だ。そして、母親の奮闘だけでは消費されるに足るドラマにはなりにくいという現実自体が大きな課題でもある。
自宅教育育ちならではのリアムの世間知らずな純粋さや奔放な振る舞い、それゆえのユニークな言動が、愛すべきキャラクターとして描かれているのだが、肯定的な目線が強すぎる。高校に通い他者を知ることで葛藤が芽生えても、親元を離れた子供や社会に出た若者が直面するそれに比べてはるかに浅く、等身大の人間の経験というよりお花畑レベル。リアムに輪をかけて問題なのが母親のクレアだ。思春期の反抗は教えられてするものではないし、それが描写として笑えないのは致命的だった。