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「市民ケーン」が何度か映像的に参照される(そういえばケーンのモデルのひとりと言われるハーストも孫を誘拐されている)が、この哀れな老富豪がなぜこのような人間になったのかを「ケーン」みたいに説明してくれるわけではなく、偏屈爺には偏屈爺なりの道理があるはずだとこちらは思いたいのにそれも明かされることはなく、結果、M・ウィリアムズがわけのわからんものと戦い続ける映画に。わたしが何か見落としているのだと思いたいのだが。R・デュリス演じる小悪党の存在が救い。
主人公が屋敷のなかで無力化される映画は「レベッカ」とか「ガス燈」とかあるけれど、ここで囚われの身になるのは男性のほう。キャメラは意思を持っているかのような動きで事態を追い、非合理極まりない心理を生々しく映し出す。違う言い方をすると、たったいま目の前で演技が生成しているさまを目撃しているかのような興奮がある。オートクチュールの手仕事の細やかさを愛おしむかのように、細部をクロースアップした画面が素晴らしく、クラシックをちりばめたサントラの響きも新鮮。
もしかしたらエンタメではなく、アートシネマを目指した作品なのかもしれない。めくるめくガンファイトや格闘シーンとともに、話のスケールがどんどん拡大する韓国製アクションを見慣れた身としては、ごく狭い人間関係のなかで起こる凄惨な出来事を、背景情報の提示を最低限にとどめつつ、奇妙に静かなタッチで描いていくこの映画には、何やらギリシア悲劇にも似た静謐な抽象性を感じるのだった。タフなヒロインが活躍するだけでなく、女たちの絆が強調されているのがイマっぽい。
こんな複雑な設定をどうやって説明するのだろうと思ったのだが(そして設定に対する疑問のいくつかは、最後まで観ても解消されなかったのだが)、どういう設定なのかという謎を考えさせることで、観客をひっぱっていく仕様の語りであった。でも設定が理解できた途端いささか飽きてしまうのも事実。映画として観ているのではなく、ゲームとしてプレイしているのであれば、最後まで興味が持続するのだろうけれど。視野狭窄になりがちな主観映像に、空間的広がりを持たせているのは美点。
このところ誘拐やテロを扱う犯罪事件映画では、現実のモデルがないと、物足りない感があるが、その点、ゲティ家の誘拐事件は誰しも真相を知りたいとおもう素材。孫のための身代金支払いを、断固拒否する富豪ジャン・ポール・ゲティをクリストファー・プラマーが絶妙に演じる。その役は、ケヴィン・スペイシーがハリウッド・セクハラ事件で、突如降板したものだったというのだから、話題はつきない。短期間で撮りなおした傷痕を感じさせないリドリー・スコットの演出力はたいしたもの。
ダニエル・デイ=ルイスが俳優をやめる前に演じた衣裳アーチストは自己中心の完璧主義者で、こういう人間性は思い当たるところもあり、不安をかきたてる。彼の仕事に異常な関心をもち、結婚もしないで見守る姉のレスリー・マンヴィルも優雅でリアルだ。だが、このゴシックロマン風な映画で怖いのは、あどけない顔で登場し、時間の経過とともに男の性格まで変えていくヴィッキー・クリープスだ。1950年代の英国の上流階級のファッションとサスペンスを同時に楽しめた。
欧米のフィルム・ノワールはその時代の社会を反映しているからこそ、面白く見られるのだが、韓国ノワールも同様で、映画のリアリティからすると、貧富の差や家族のことなど、この国は苛酷な問題があることが分かる。底辺から上流階級へと這い上がった黒社会のヒロインを演じるキム・ヘスは独特のヘアスタイルとフアッションに身を固め、彼女が登場するシーンは引き締まる。「悪女」のキム・オクビンに次ぎ、アクションも相当なもの。イ・ソンギュンが農場で猛犬を飼う奇妙な悪役を好演。
地球のエネルギー枯渇問題を解決するために複製世界を作るという話で、現実世界を客観的に撮り、複製世界を一人称視点で撮影するという新人監督の意欲は分かり、二つの世界をつなぐ巨大タワーが遠景で見えて、突如、ドローンが急襲してくるあたりまではわくわくしたが、やがて、手持ちカメラを振りまわし始めると、画面に眼をこらしすぎる者はくたくたになる。このような撮影のテクニックよりも、エコ企業の裏のからくりや登場人物のキャラクター設定に力を注いでもらいたかった。
誘拐された息子の救出もさることながら、とんでもなく金持ちで果てしなくケチな祖父と身代金捻出をめぐって戦わなきゃいけないという〝味方に敵あり〟の構造がやはりアガる。そこになにかとゲティ三世の身を案じて彼を守ってしまう誘拐犯のひとりをめぐる〝敵に味方あり〟なエピソードも挟み込んでグッとさせるあたりも巧い。豪邸に置かれた来客用公衆電話ボックスや身代金での節税対策を筆頭に、有名なゲティのケチ逸話は画にされるとさらに面白くなるし、本気で呆れてしまう。
最初だけ優しくて仕事ばかりの男、それに不満を募らせてキレる女。いつの時代も変わらぬ男女の姿というか、ありがちな男と女の業を描いた話ではある。ただ、その度合いがそれぞれありえないほど病的であり、彼らが身を置くのがラグジュアリーにも程がある50年代オートクチュールの世界であり、監督が参考を公言する「レベッカ」的な不穏ムードが渦を巻くことから、なんだかんだと引き込まれてしまう仕掛け。美人ではないようで美人な容姿のヒロイン、V・クリープスも悪くない。
早い話が痴話喧嘩。「ファントム・スレッド」同様にこちらもよくある男女の話だが、舞台が裏社会であることから当然のごとくぶつかりあいも殺し合いに発展するし、画的にも激しくなる。そしてその手が好物の身としては非常に楽しめるし、男の純情、母の愛情という人情味の〝ふりかけ〟も効いていて泣かせてもくれる。序盤でこれみよがしに中折式の散弾銃を持ったヒロインの姿を映しておきながら、肝心のクライマックスでそれを数発ブッ放す程度に留めてしまっているのはちと残念。
とりあえず〝もうひとつの世界〟が未曾有の事態に陥っているのは画で伝わるし、その背景をフラッシュバック的に小出しにはするのだが具体的になにが起きているのかが良くわからない。主人公の一人称視点によってこちらも彼の混乱に同期はできるのだが、ただただ訳がわからないまま物語に乗っけられているだけ。また、主人公がなにかというと気絶して画面が暗転するのにもイラついてくる。VFXマン出身の監督が、画だけにはこだわって撮ってみましたというのはビンビン伝わった。