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ナチス占領下フランスという時代は、芸術家に倫理的選択を突きつける。サッシャ・ギトリ「あなたの目になりたい」もトリュフォー「終電車」も本作の主人公も、生き延びるため、おのがじし芸術の節を守るため、対独協力か逃走かレジスタンスかの択一を迫られる。スイスとの国境、レマン湖の水辺に滞留しながら、命の危機と接しあう主人公の姿が妖しく映える。それは映画の不遜なる魔力だろう。彼はラインハルトというドイツ的な苗字を持つが、フランスではレーナルトと発音される。
フラメンコを題材に作品歴を重ねたサウラが集大成とするのは、スペイン東北部アラゴン地方の舞踊音楽「ホタ」。アラゴン出身のサウラの面目躍如たる一作で、スペインと言えば「闘牛とフラメンコ」で一括りにされる紋切り型に対する文化闘争だ。「闘牛とフラメンコ」はひとえにアンダルシアのものであること、アラゴンには「ホタ」があること、「ホタ」がスペインに留まらず普遍的世界性を持つことが、もっともらしい説明性を省いた豊饒なる変奏によって高らかに宣言された。
シリア難民の主人公がヘルシンキの収容所で爪弾いてみせる中東の楽器サズの音色が、思わず心に染み渡る。例によってカウリスマキの登場人物たちは揃いも揃って無表情なのだが、サズに聴き入る種々の肌の難民たちの顔、顔が素晴らしい。欧州に蔓延しつつある排外主義と不寛容、ネオナチ(いや我々の極東島国こそ、その無残なる急先鋒ではないのか?)に対するいつになく踏みこんだ怒りとプロテスト。物静かではあるが、その義憤は深く熱い。しかも恥じらいと可笑しみまであり。
「ホロコーストは捏造」と主張する歴史家が起こした裁判。実話の映画化である本作には、現代世界を覆い尽くす歴史改ざん主義の愚昧さ、「両論併記」なる美名のもとに猛威をふるうマスコミの不公正が、きわめて直截的に描き出される。被告となったレイチェル・ワイズは、証言するなと弁護団から指示される。学者が言葉を奪われる。しかし喋らない主人公という発明は、映画に逆説的な公正さをもたらした。被害者でさえ法廷で一言も発しない。馬鹿者とは同列に並ぶべからず、だ。
どの国でも迫害されていたジプシー(ロマ)ゆえに、演奏を要請されればナチスであろうと関係ないと嘯くジャンゴ。そこから始めて、じわじわ首を絞めつけるように彼を追いつめていく、その構成。ナチスに忠誠、裏では抵抗運動者の彼の愛人が、この映画の影を彩って。その演奏場面もドラマと絡み合って申し分なく、特にナチスの宴会。スイング厳禁のジャンゴが遂にジャズって、その躍動感に軍人たちが踊りまくる。ここに彼の代表曲をもってきた趣向がピタリはまった。戦時音楽映画の佳作。
カチカチと切れのいい映像感覚でフラメンコの醍醐味を映画で見せてきたサウラ。ここではまだ知られざるスペインの民俗舞踊ホタを紹介して。ある時は素朴、ある時は洗練、またある時は前衛風に。見てると、これがサウラ映像演出の見本市みたいに思えて。その照明、美術、衣裳。踊りと映画感覚がぴたり息を合わせた、その見事さに拍手しながら、このご馳走も、こう次から次へと続けて出されると胸が焼け、少し箸やすめも欲しくなった。スペイン舞踊愛好家には垂涎の一篇だろうが――。
いつものトボけた淡々の描写。一見とっつきにくいけど、気のいい連中。ああ、カウリスマキ映画にまた会えたと口元がほころぶ。今回のゲストはシリア難民。だからといってムキにならず肩張らず、さらりじんわり、彼を迎え入れる。珍妙な鮨屋のサービス場面を加味しつつ、随所にネオ右翼を横行させたところに、カウリスマキその人の嘆きと怒りを匂わせて。人間の不屈の精神、そこに願いをこめた幕切れの余韻。いつものように沁みたが、前作「ル・アーヴル…」より少し肉付き不足。
ホロコーストはなかったという歴史家がいて、その著作を批判した学者が訴えられる。そんなバカなと思う裁判。だけどひょっとしたら学者が敗訴するのではというドキドキがあって。偏見まみれの虚説が罷り通る今、この設定は胸が騒ぐ。裁判とは〝情〟ではなく、〝理性〟である。そのことを、ぴしりぴしりとこちらの肌にしみこませ、人間の〝知性〟、それこそが虚説に対抗できる唯一の武器だと結ぶ。ひじょうにスマートな映画だ。慰安婦問題とか南京虐殺とか日本でこれをやったら、さて?
ジプシーの血を引く天才的なギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトが、ドイツ軍に占領されていたフランスで、音楽と共に試練を生き抜く姿を映し出す。てらいなく、淡々と戦時下の状況を描いた静かな映画だ。そんな中だからこそ、ジャンゴのギターの音色がより美しく響きわたり、胸に沁みる。劇中で、彼に影響を与えるルイーズという女性は架空の人物だが、ジャンゴの芸術精神を艶やかに伝える役割も担う。ロングヘアのセシル・ドゥ・フランス、誰だかわからなかった!
カルロス・サウラといえば、フラメンコやタンゴなど、情熱的な舞踊のエッセンスを格調高く映像に収めてきたスペインの巨匠。今回は、彼の生まれ故郷が発祥地である〝ホタ〟という民俗舞踊の、独自性と、他文化との融合性が自在に行き交うさまざまなスタイルをオムニバス形式で見せていく。シンプルな空間で、プロフェッショナルたち、時に市井の人たちが生の歓喜を舞う。踊りだけでなく歌や音楽も圧巻。ホタに、贅沢に身近に触れられる時間だ。スタジオ空間が開くラストもいい。
アキ・カウリスマキが、「ル・アーヴルの靴みがき」に続いて、ヨーロッパの難民問題に向き合う。ヘルシンキにやって来たシリア難民の青年が、レストランオーナーとその仲間たちと出会い、ささやかに交流する。難民申請の手続きのシーンや、青年が異国の地で被る苦難の描写は社会派の面も強いが、カウリスマキ節のどこか乾いた人情味あるユーモアと、ポップで不思議な色彩設計の妙は健在で同時に堪能できる。なんちゃって日本レストランのエピソードが可笑しい。
ユダヤ人の女性歴史学者リップシュタットは、著書で批判した〝ホロコースト否定論〟を唱えるイギリスの学者アーヴィングに名誉棄損で訴えられる。彼女が、大量虐殺はなかったという論を崩し裁判で勝利するまでを、法廷の公式記録を忠実に辿った脚本をもとに映画化。歴史の真実、知性の意味、言論の在り方と解釈など、今の時代に改めて考えさせられる。主演のレイチェル・ワイズがパワフルな魅力で熱演。硬派だが、テンポの良さもあり、ぐいぐい引き込まれる作品だ。