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史実に忠実な内容だとのこと。しかし芸術家の生きざまに取り組む場合、忠実さだけではじゅうぶんではない。溝口「残菊物語」の花柳章太郎の、ルノワール「黄金の馬車」のマニャーニの正面ショットが有する華やぎの中の残酷を、あるいはベッケル「モンパルナスの灯」の坂道を来るG・フィリップに照りつけるニースの陽光を、映画は欲する。本作はE・シーレへの共感という点で人後に落ちないが、残酷な運命に目を向けてはいても、目を向けることそのものの残酷さが不足している。
原題は〝HOMME LESS〟。ホームレスという意味と、アパレルで使う「男」を意味する仏語「オム」を架けている。この題が本作を言い尽くしている。雑居ビル屋上に野宿し、着替えはジムのロッカーに仕舞う。ファッション業界の片隅で仕事を探す主人公は惨めだが、おのれの滑稽さに自覚的でもある。ある日は陽気でエネルギッシュ、ある日は落ち込む。だがそれだけだ。私たちフリーランスは皆そうやって生きている。彼は負け犬だ。負け犬でもせめて本気の遠吠えを聴かせてほしい。
サウジアラビアに来た米国の営業マンが異国で困り果てるというカルチャーギャップコメディーだが、一にも二にも主人公を演じたトム・ハンクスのための映画である。米国本社からノルマのプレッシャーを受けては顔を歪ませ、娘の学費を心配しては自分の不甲斐なさを責め立てる。そういうトムの困り顔だけで映画1本分をもたせてしまう。典型的な米国人という観客の自惚れ鏡をいともたやすく現出させてみせるトムこそアラブの砂漠並みの神秘であるという点が、映画の醍醐味なのだ。
イタリアで離島の映画といえば、ロッセリーニの「ストロンボリ」(49)だ。バーグマンが地中海の島男と一緒になるも、島での閉塞的生活に悲鳴を上げる。突拍子もない比喩を吐かせてもらうなら、本作は「ストロンボリ」の不可能性に引き裂かれた「前日譚」だ。島民たちの平穏な生活と、島人口の10倍近い数のアフリカ・中東難民の苦境の、あまりの乖離。駐在医師がこの距離をわずかに取り結び、少年の弱視の進行と共に、バーグマン的他者性が静かに浸透しつつあるかのように見える。
これは〝シーレをめぐる四人の女〟か。八〇年の前作に較べて、ぐっと妹の存在が重くなっている。近親相姦的親密さの思春期から、庇護者的存在となるシーレの晩年まで、陰で支え続けた妹がもう一人の主役に見えて。隣家の令嬢と結婚の経緯も、前作は純愛、今回は打算と実録風。代わりに同棲中のモデルの彼女との関係が深くなっている。もう一人の黒人モデルはシーレから妹を引き離す存在か。てな具合にシーレと女性たちの関係に絞った構成には納得。もう一つ人間描写の彫りが浅い気も。
原題は〝HOMME LESS〟。〝HOME〟じゃないところが皮肉。ニューヨークに憑かれて抜け出せなくなった男の記録。ホームレスは自由な生き方、なんて発言は一かけらもない。フォトグラファーとかエキストラで食っているせいか、恰好だけは崩さない。そこに彼の、人としての矜持を感じて。が、もはや骨と皮の人生。それでも街にしがみついて生き続ける。こういう男もいるんだという、その存在を映像に刻みつけたのはいいにしても、そこから先に踏み込まないことの物足りなさも。
欧米人が異国へ行って、カルチャーギャップに悩まされる、なんて映画、今までどれだけ見たんだろう。これもその典型みたいなコメディー。どこか怪しげで図々しいアラブ人運転手など、日本でいえば社長シリーズのフランキー堺てなもんで。ハンクスが彼としだいに仲良くなり、かの国に親近感を覚えるのも定番。といった具合に、扱っている題材は新しいけど、中身はお約束そのもの。そこに安心感と不満と両方あって。イスラム人種との融和を狙った意図は認めるが、パターンでいいの?
やっぱり今そこにある問題を描くには、ルーティンではダメなんだろうか。島の人々の生活と難民の状況が並行して描かれ、互いに接触することがない。無造作な作りだが、意識して見つめれば、凄く深い意味が込められている。このぶっきらぼうな手法に眼を惹かれ。ただ、戦争ごっこが好きな少年が、片目でものを見るようになり、最後は小鳥を労わるようになる。そこに演出の意図を強く感じたのだが。秀作だと思う。作品の意義も分かる。だけど、この単調さにひどく退屈した自分もいて。
エゴン・シーレの画は、死とエロスの匂いが漂う中に、どことなく少女が近づきやすい甘さがあって、かつて私も魅了されたクチだ。さまざまな娘たちの心をつかみ、自身の芸術性を磨き、画家として大成していくシーレの純粋な情熱としたたかさが、ドラマチックに描かれる。シーレ役の俳優ノア・サーベトラが素敵。監督は彼を気に入り、役のためにわざわざ演劇学校に通わせたのだとか。まだ色のつかない美しさが映える。シーレのそばに長くい続けた女性ヴァリの誇り高さもカッコいい。
モデルで写真家。50代のイケメン。昼は颯爽とNYを闊歩するマーク・レイ氏、実はビルの屋上で暮らすホームレスなのであった。いい意味で、観始めた時と、観終わった時の被写体の印象がこんなに変わるドキュメンタリーは珍しい。この方、変わってるけど、すごくピュアな人なんじゃないか。元モデル仲間で、いまは映像作家をするオーストラリア人の監督が、彼との再会を機に始めた企画。3年間密着している。この信頼関係が一番マジカル。生きていればいろいろあるよ。肩の力が抜けた。
仕事も家庭も失った男が、IT企業に転職し、サウジアラビアまで最先端製品のセールスへ。遠い異国の地で、迷える中年が第二の人生を歩み出していく。これはちょっとした米国人のためのイスラム案内。中東(ロケ地はモロッコ)を奔走して回る主人公が、トム・ハンクスというのがやはりポイント。ザ・ハンクス的魅力+セクシーさで、政治的メッセージも随所にちらつく大人の映画を牽引する。「インフェルノ」で彼の元恋人役を演じていた女優が顔を出しているが、伏線だったのかな?
地中海を渡った5万人を超える難民の玄関口となる、イタリア、ランペドゥーサ島。ドキュメンタリーだが、この島から難民問題をジャーナリスティックに語るのではなく、島に暮らす普通の人たちの日常風景を淡々ととらえ、そうした静かな生活のごく近く、地続きに、緊迫した現実があるのだと、ふたつを溶け込ませるように、むしろアーティスティックな映像詩へと織り上げていく。スタイリッシュすぎるのが少しイヤなのだが、まなざしの深さには圧倒される。島の少年が素朴でかわいい。