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あの世紀の名著の映画化(?)ということで当然ながら身構えて観た。二人の対談時の録音が使用されているのが最大のポイント、というかそれありきの作品だが、ヒッチコック入門、トリュフォー入門としては及第点の出来(とか言うと叱られそうですが)。ラストの記念撮影には素直に感動したけれど、正直こういう有り難みに特化した作りはあまり好きではない。綺羅星のごときコメンテイター陣も顔見せの域を出ていない。フィンチャーの毅然とした姿勢、フランス勢の誠実な距離感には好感。
スウェーデンで大ヒットを記録した作品。59歳にしては老け顔の主人公が失業を機に亡き妻のもとに旅立つべくやたらと自殺未遂を繰り返す序盤はブラックでシニカルな雰囲気もあるが、次第にヒューマンな湿り気が映画を支配してゆく。はっきり言ってまったく好みのタイプの話ではないが、ワールドワイドにウケる内容であることは確か(あちこちでリメイクされそう)。回想シーンでの妻(イーダ・エングウォル)がすこぶる魅力的。主演男優ロルフ・ラスゴードの重々しい声と語りも良い。
デンマークの戦後処理の恥部というべき出来事を真っ向から描いた作品。どういう物語なのかは開始まもなく判明する。これは辛いだろうな、と覚悟したがやはり非常に辛かった。暴力や死傷をリアル過ぎるほどリアルに描写するのはデンマーク映画の特徴なんだろうか(レフンもそうだし)。しかしその結果、目を背けるべきでないことから目を背けないという真摯な倫理的姿勢が画面に宿る。主演のローラン・ムラが素晴らしい。彼の憮然とした表情の刻々の変化が希望の微かな欠片を表現している。
とにかくこれだけのスター俳優を揃えて完全な個人映画を拵えられるテレンス・マリックの謎の力に畏れ入る。「トゥ・ザ・ワンダー」「ツリー・オブ・ライフ」同様、いかにも深淵な哲学的思弁を弄しているようでいて、実は俗っぽさの極みであるという点をどう受け取るかで評価は真っ二つに分かれるだろう。そしてマトモに考えれば否定が正解である。だが僕は嫌いになれないのだ。どうしてこんな作品を撮りたいのか、どうしてこうなってしまうのかに興味がある。答えはないんだろうが。
「めまい」をめぐる映画監督たちの見解の相違が面白い。フィンチャーは「愛の物語」だと言い、スコセッシは「筋がよくつかめない」という。妻にそっくりな女性の側のドラマに着目し「美しい変態映画」と形容したフィンチャーの感覚に痺れる。普通の人生を描くことには興味がない、徹底した娯楽主義とそれに基づいた作家性の融合という奇跡。50時間に及ぶという膨大なインタビュー音源を文字に起こしたのはトリュフォー本人だったのだろうか。でなければその担当者にも敬意を表したい。
北国の猫はその極寒に耐えうるべく分厚く膨らんだ毛をまとっている。もはや元のサイズがわからないほど膨張している猫も少なくない。スウェーデン映画である本作でも、その例に漏れずもこもことした毛皮で着膨れた猫が、意外にも人なつこく人間たちのそばをついて回るのが可愛い。最愛の妻との思い出や隣人たちとのふれ合いが頑固老人の心を徐々にほぐしていく様が丁寧に語られるが、その中に動物が一匹加わっただけで、心の動きも見え方も大きく前進する。動物は偉大だ。
出色は少年兵による少女救出のシーン。何もわからず地雷原に入ってしまった近所の少女を助けるべく、少年が手前の地雷を一つ一つ取り除きながらたどり着くまでの間、逆の方向から別の少年が無謀にも地雷原に踏み込んで少女の元に寄り添い、救出までの時間を共にすごしてやる。痛ましいシーンなのに、真っ直ぐに少女の元へ歩み寄った少年の神々しさは忘れられない。実はその少年も地雷で兄を亡くしている。ラストは夢なのだろうがそれこそが映画にできる唯一の救済だ。
映画が進むにつれてだんだん焦ってきたほど、言葉も映像も耳や目を通り過ぎていってしまう。内省的で抽象的なフレーズをひたすら独白するポエティックなセリフ群はまったく心に届いてこないし、主人公の心象風景にシンクロするとおぼしき光景をとらえたルベツキの壮大な映像を快楽として享受できるほどの成熟したセンスも持ち合わせていない。映画との出会いには年齢、場所、経験、タイミングなどが大きく作用するという当たり前のことを痛感するきっかけになった。
原作はインタビューによる作家論、作品論なので映像化により新たな発見があるわけではないが、多年にわたる愛読者にとってはヒッチコックとトリュフォーの元気に語り合う姿が見られるだけで感涙だ。新たに加えられたウェス・アンダーソン、オリヴィエ・アサイアスなどあまりヒッチコキアンと思えないような人たちのコメントが面白い。この映画はスクリーンで見るのもいいが、原作を手許に置き本作のDVDとヒッチ作品のDVDを交互に参照しながら観るのが正しい鑑賞法かも知れない。
不機嫌で、口うるさく、切れやすい独居老人は最近身辺にも多いが、主人公のオーヴェもその一人だ。フラッシュバックで彼の生涯が語られるので、老人映画であると同時に、一人のスエーデン人の自伝映画としても興味深い。幼い日の父の想い出、最愛の妻との出会いと死、そして今、新しい隣人ペルシャ人の主婦――お腹の大きい良きサマリア人と頑迷な老人の奇妙な交流が始まる。とかく邪魔者あつかいされがちな高齢者や移民に対する温かいエールのような映画だ。
デンマークは大戦中ドイツに侵略され、支配されていたのでナチに対する怨念は深いが、この映画は一連の反ナチ映画とは大きく異なる。デンマーク当局は地雷の撤去に捕虜のナチスの少年兵を使う。まだあどけなさの抜けない彼らに課せられた労働の非人道的な残虐さはアウシュヴィッツに匹敵する。十一人いた少年達が一人また一人と爆死してゆき最後は四人になるが、その緊迫感はすさまじい。隠された自国の恥ずべき歴史を正面から取り上げた企画が素晴らしく、少年達の演技は心に残る。
クリスチャン・ベイル、C・ブランシェット、N・ポートマンなどハリウッドスターが勢揃いしているが、エンターテインメントではない。テレンス・マリックが自作の詩にキャメラのエマニュエル・ルベツキと共に映像を重ねていった映像詩で、従来なら前衛映画、実験映画と言われたような作品だ。映像は比類なく美しいが、売れっ子脚本家の目に映るハリウッドは荒涼たる「荒地」だ。「甘い生活」の現代版と言ってもいい。たまには詩集を手にするようにこんな映画を観るのも新鮮だ。