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美少年たちとその母親たちだけが隔離された孤島の暮らしは、デ・キリコの絵画そのままだ。あたりを覆うひんやりとした白々しさはいい雰囲気。だが状況に疑問を抱いた一人の少年が叛乱を試みる展開は、あまり新鮮ではない。風刺SFの形式美にいかに乗れるかだが、視覚的な異端性への依存が強く、映画というよりプログレの長篇PVを見ている印象である。評価はフランス本国よりイギリスでの方がよかったとのこと。ニコラス・ローグの母国ならではの評価ではないか。
ワイズマンは英ナショナル・ギャラリーやパリ・オペラ座、コメディ・フランセーズを出来事の生起する場として酷薄に記録し、負けじとソクーロフはエルミタージュとルーヴルの空間をおのがじし芸術観、歴史観にまで敷衍させた。一方「ようこそ、アムステルダム国立美術館へ」は改修工事トラブルを風刺喜劇に仕立てた。翻って本作でウィーン美術史美術館スタッフが「当館も世界の施設と比べられる」と危機感を述べているが、映画も同様。お行儀が良すぎるのでは。もっと美の放蕩を!
収容所送りとなる前にユダヤの子どもたちを大勢逃がした〝英国のシンドラー〟N・ウィントンという人は賞讃してもしきれない。素晴らしい題材である。ただし肝心の映画の作り方に問題あり。茶番レベルの再現ドラマで過剰な補強をしてしまったり、救助されたかつての子ども(現在は老人)と当時の資料映像をまことしやかな類似点を糊しろとして繋いでしまったり。冒頭のタイトルインでキラリとしたエフェクトをかけた時点でおかしいなと。フッテージによっては心動かされる箇所あり。
戦場写真で数々の賞を受賞した女性写真家(I・ユペール)が交通事故死して3年。死因の疑惑をめぐり、夫と2人の息子が困惑と動揺を募らせていく。子が親より早死にするケースを除けば、家族の死を経験しない人間は珍しいと思うが、それはなんとも対象化できかねる経験である。死を「境」に、人は死せる家人と別の関係性を開始することになる。その奇妙な居心地のありかを、本作は繊細きわまりないカメラで収めていく。残った者がいかに生きていくかについての、万感迫るレッスンだ。
冒頭の海中の映像におおっと唸り、少年と女しかいない孤島の設定に惹きつけられて。深夜、女たちが岩礁で繰り広げる饗宴の俯瞰カットなど、あっと驚く感覚の鋭さ。少年にタネ(?)を植え付け、何かをさせるという奇想天外な発想も面白い。これ、直球でやればユニークなSF譚に仕上がるんだろうけど、監督はどうもアートというかカルトを狙ったようで。おかげで中盤以降は変わり映えのしない単調な画面が続く。起承転結の転の入口から、いきなり結に飛んだような展開もゲージツだから?
最近、上映の機会が増えた美術館記録映画。今回はウイーン美術史美術館。所蔵の美術品も膨大なら建物も巨大。その中を血液みたいに人間たちが蠢く。ハプスブルク家の遺産を生かしているのは、このスタッフたちだというように。その一人一人のスケッチがさりげない。だけど監督が、その人たちを抱きしめるように撮って。清掃、修復、会議、展示などが次から次へと綴られ、はっきり申せば地味な展開。が、このスタッフたちが作品を手に取り、ふれる、その眼差しに、深い美術愛を感じて。
シンドラー氏とか杉原千畝さんだけじゃなく、ナチスからユダヤの民を救った人がいたとは。ウィンストン氏の懸命の救出の顚末を映画は丁寧に紹介。生き延びた当時の子どもたちと老ウィントン氏が再会する場面は胸が熱くなる。この題材には感銘。が、映画にはどこか教科書的なスクェアな収まりを感じる。母と子の別離、それを役者を起用して分かりやすい再現劇にした味気なさ。確かにこれは美談の記録。だけど、それでもはみ出る人間の執念というか血の熱さみたいなものがほしくて。
十五歳の男子。片思いの女子がパーティで悪酔いしたので送って行く。途中で女子が尿意を催す。車の陰で放出。待っている男子。その足元を液体が流れ、男子、じっと見つめる――てないい場面はあるけど。戦場カメラウーマンの母親がいて、事故か自殺か分からない死を遂げる。夫と二人の息子は動揺。その心の動きが描かれていくわけだが、それぞれの母に対する(生前の)想いが不明瞭な気がして。だから父子が失ったもの、求めるものが見えない。沁みそうで沁みない、じれったい映画。
少年と女性しかいない孤島。毎日、奇妙な薬を母に飲まされて暮らす10歳の少年は、ある日、何かがおかしいと気づき始める。セリフはほぼなく、幻想的な美しい映像の力で、種や生命にまつわる秘密が潜む物語を淡々と見せていく。語り口にはまどろっこしさもあって、いま特に驚きを感じるスタイルではないのだが、主人公たちの繊細な心理の変化を心理描写なく伝え切った執念に感服。「エイリアン4」を少し思い起こさせるダークな世界観が興味深い。着地点は想定内ではあるけれど。
ハプスブルク家の遺産を受け継ぐウィーン美術史美術館。その大規模な改装工事に密着し、知られざる舞台裏をとらえたドキュメンタリー。伝統と格式の色がかなり強い美術館で、一方で、グローバル化の波も意識せざるを得ない再オープンまでの関係者たちの葛藤が興味をそそる。館内の人たちの役割も含め、明確なヒエラルキーが窺える美術館案内は、私は少し息苦しかったけど、完成した展示の様子はさすがに圧巻。改装中に見学に来た、大英博物館の館長さんの個性が異彩を放っていた。
〝イギリスのシンドラー〟とも呼ばれたニコラス・ウィントン。第二次世界大戦前夜、チェコスロヴァキアのユダヤ人の子どもたちを、ナチスの迫害から救うため、母国イギリスに里親を探し出国させた。子の将来を思い手放す親、受け入れる里親、もちろん当の子どもたち、さまざまなドラマがある。考えさせる実話だし、ウィントンという人は凄いと思うのだが、中途半端な再現映像と最後の善意の伝播エピソードはなくてもよかったような。当人たちの証言や考察で十分に感動的だった気も。
監督ヨアキム・トリアーは、ラース・フォン・トリアーの甥。確かに何となく血筋の才気は感じるけど、才気もどきなんじゃ……。これだけいい俳優たちを揃え、それぞれに面白い芝居をさせているのに、俳優陣と物語の化学反応をちっとも感じない。監督は、バーンやアイゼンバーグのミーハー的なファンなのだろう(私もそうです)。その思い入れは伝わっても、これは家族の物語として成立しているのか? 印象的なシーンも、結局、思わせぶりな断片に処理されてしまって、消化不良。