パスワードを忘れた方はこちら
※各情報を公開しているユーザーの方のみ検索可能です。
メールアドレスをご入力ください。 入力されたメールアドレス宛にパスワードの再設定のお知らせメールが送信されます。
パスワードを再設定いただくためのお知らせメールをお送りしております。
メールをご覧いただきましてパスワードの再設定を行ってください。 本設定は72時間以内にお願い致します。
戻る
公開年:
現在の文字数:0文字
氏名(任意)
「オマールの壁」のパレスチナ人監督の新作だが、あまりにも欧米の普通の映画そっくりな――いや日本映画そっくりと言ってもいい――劇構造に困惑を覚える。ガザ地区の閉塞状況を迫真の緊張感で描いた「オマールの壁」にしても、思えば古典的な三角関係の物語だったから、当然の帰結なのかもしれない。歌唱コンテストの成功譚に、パレスチナのナショナリズムを気兼ねなく上乗せした劇構造は、批判的検証の対象となるべきだ。どんなに苛酷な状況下でも、映画の掟は平等に厳しい。
韓国の巨匠・申相玉監督と、妻でスター女優の崔銀姫の北朝鮮による拉致事件の真相をえぐり出す出色のドキュメンタリーである。故・金正日総書記が熱心なシネフィルであることは昔から有名で、私たちも学生時代には「日本のピンク映画さえ全部コレクションしているらしい」などと噂したものだ。ところで当時、池袋にあった韓国文化院で申相玉の作品を上映してくれなかった謎が、今ようやく氷解した。あのころ韓国では拉致ではなく亡命(巨匠の裏切り)と解釈されていたわけだ。
ロシアのヴォルガ川流域に住む少数民族マリ人にカメラを向けた。この民族はキリスト教とは異なる独自の多神教信仰を何百年も守ってきた。モスクワからたった643㎞離れるだけで、もうこんな異界が広がってしまうのかとワクワクさせられる。24人の女性たちの挿話を見るうちに、民俗学調査に参加したような生々しい異文化体験を味わえる。時に美しく哀切で、時にユーモラスでおぞましく、時にエロティック。多様性に満ちたロシア映画の新たな胎動を予感させる一本となった。
受験予備校のサテライト授業のごとく、S・ジジェクがそれらしくカメラ目線を堅持することの滑稽さによって、彼の講義内容それ自体以上に〈映画〉が生起する。ジジェクは「タクシードライバー」の主人公の孤独なベッドに横たわり、「ゼイリブ」のゴミ置き場に身を寄せつつ、饒舌機械であり続けようとする。だが「時計じかけのオレンジ」のミルクバーになぜ彼は座らないのか。あのサイケな店内デザインに著作権料が発生するからか。そういう暗黙の不文律の集積こそ〈映画〉なのだ。
スター誕生映画は数あれど、その舞台がパレスチナというのが珍しい。この地区を題材にいくつかの作品を手がけた監督だが、今回はエンターテインメントに挑戦。が、どうもこの手の作品に不可欠なショウ精神が身についていない印象。音楽映画の弾むような躍動感が感じられなくて。ただ、オーディションに参加するため、何とか国外へ脱出しようとする、そのヒリヒリした経緯が胸に残る。主演男優のマスクがよく好演。ゆえにクライマックスで実物の歌手の記録映像にすり替わるのには違和感が。
韓国の監督・申相玉と女優・崔銀姫は北朝鮮に拉致されたのか、金正日との関わりはどうだったのか。それは興味深いことだけど、表面をさらりと撫でてるだけの印象。「プルガサリ 伝説の大怪獣」を観ると、申監督が秘かに主張を込めているのは確かで。同じ映画人なら、作品の裏を読んで、かの国における彼の想いを探ってほしかった。そこから金正日に対する愛憎関係(?)も見えてくるのでは。〝北朝鮮は怖い国〟てなことを主張するドキュメントなんて掃いて捨てるほどあるじゃないか。
雪の夜に、囲炉裏ならぬ暖炉の前で昔話を聞いているような、そんな素朴な田舎料理みたいな映画。ただし、一つ一つの挿話があまりにも断片的すぎて、ちと分かりにくいという弱みも。しだいに猥談じみた野卑な舌ざわりが、あまりにも素材のまんまで。いや映画というのはもう少し味付けというか工夫が必要ではと思うものの、妙にそのそっくりそのままが口中に残って。この撮影、そして衣裳の美術感覚! それが終幕、24人の娘たちのポートレートでぱっと花開くという、捨てがたい一作。
共産主義や資本主義、キリスト教などの思想に対する考察を映画の場面を引用して解説していく。いわば眼で追う哲学書みたいなもんだが、おかげでとっつきやすく、文字で読むより分かりやすい(のでは?)。引用した場面と同じ背景でジジェク氏が語る趣向も愉快。〝大文字の他者〟という発想もなるほどと感心。ただ映画を観るというより、ひたすら字幕を追うという印象がなきにしもあらず。ちと図式的だったり強引すぎる意見もあったりして。とはいえ脳細胞を刺激されたことは確かで。
「オマールの壁」などのイスラエル人監督ハニ・アブ・アサドが撮った、きらびやかで数奇なエンタテインメント作品。邦題に〝少年〟とつくが、子ども映画ではない。スター歌手になりたいと夢見た少年が成功するまでを描いているのだが(実話がベース)、黄金の歌声という〝才能〟を持ってしまった人間が、それゆえにやがてとてつもない運命に翻弄され、その運命に耐え、覚悟を持って成就させていく物語のように感じる。1つの圧倒的な才能を見守る、周囲の人たちの慧眼も美しいと思った。
韓国と北朝鮮。映画界に起きた拉致事件を巡る、貴重なドキュメンタリー。韓国の国民的女優・崔銀姫が78年に拉致され、彼女の行方を追っていた元夫の映画監督・申相玉もまもなく姿を消す。ふたりは映画マニアだった金正日の下、潤沢な資金で映画製作をするようになっていた。真相はどうだったのか。いまだに謎は多いという。金正日について言及する申相玉の極秘肉声テープ(日本語……)の衝撃。映画プロデューサーと監督の最果ての野望とは何なのか。葬られた歴史から何かが見える。
ロシア西部のマリ・エル共和国を舞台に、〝オ〟から始まる名前の24人の娘たちの小話がつまった摩訶不思議な映像詩。独自の文化・宗教を持つマリの伝承に基づいた、センシュアルで時に奇妙なひとつひとつの物語。衣裳や日常の色彩はシンプルで綺麗だし、かわいらしくも大らかなエロスが自然の中に溶け込んでいて、命の蕾を開花させていく娘たちを素手でとらえたような(地元の素人と女優が混在して出演)映画として見応えがある。女の子の魂が神話の中に息づいている愛すべき一本。
スター哲学者、スラヴォイ・ジジェクが解説する、映画の読み方講座第2弾。名作の中に潜むイデオロギーを語り倒す。最初に登場するのは、ジョン・カーペンターの「ゼイリブ」(88)。この作品に掛けると物の本質や仕組みが見えてしまうサングラスが登場するが、これを3Dメガネのように掛けさせられて、観客は134分の本篇を観ていく感じ。恐ろしく鋭く、狂気じみながらも知的。丁寧な案内で、各名作の凄さも再認識できる。映画の再現セットにジジェクが入って語る参加型空気もいい。