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1970年、アジェンデが大統領選で勝利して人民連合政権が誕生してから、73年の軍部クーデタで政権が倒壊する状況を記録した4時間超の大作。配給側は「史上最高のドキュメンタリー映画」と大きく煽っているが、確かにこれを見なければ、これまで何のために映画を見てきたのか。本作の公開は今年の映画界の一大クライマックスを形成するだろう。本作は現実を直視すること、絶望の極限からこそ可能性が始まることを雄弁に物語る。現代日本に必要な覚醒を促すカンフル剤だ。
ブエノスアイレスの高級住宅街で、ある一族が連続誘拐をファミリービジネスとする。面白いのは、この名家が、独裁政権時代に甘い汁を吸ったエリート官僚一家であり、民主派のアルフォンシン政権誕生によって失脚した点だ。彼らは裕福な暮らしを維持するために誘拐身代金を必要としたが、同時に彼らの「ビジネス」は、民主政権下の社会不安を煽るため、旧政権の大物から庇護を受けていたことが匂わされる。単なる犯罪スリラーとするには裏があり過ぎるのが興味深い。
近年は充実ぶりが喧伝されるルーマニア映画界から、人を喰ったオフビートコメディが届いた。借金苦にあえぐ隣人に財宝発掘を誘われ、にわかにその気になる主人公夫婦の生真面目な強欲さ。金属探知機のレンタル代さえ妻の実家に頼るあたりですでに痛々しいが、発掘当夜に起こる仲間割れに至っては正視できない。ポルンボユ監督はさぞかし人間不信の作家なのでは? 共産政権前に曾祖父が埋めた財宝とやらが表象するのは、旧ルーマニア国家への安直な懐古主義に対する警鐘だろう。
紛争下ジョージアのみかん農園、半径200メートルにロケーションを限定。斜面に囲まれた谷間の空間がすばらしい。みかん箱職人の家で傷を癒すジョージア兵とチェチェン兵が呉越同舟の緊張感を漂わせつつ、夜の庭で伝統的な肉の串焼き料理を共にする、おずおずとした安息の詩情。ハリウッド50年代のB級西部劇のようだ。ところで閣議決定でロシア語表記のグルジアはジョージアとなったが、英語表記にする必然性もない。折角だから原語表記のサカルトヴェロにすればよかったのだ。
チリ軍事独裁政権下の人々の戦いと受難は幾つかの劇映画で観てきた。これはそれ以前のアジェンデ社会主義政権時代を記録。右派の策略、攻撃を受けながら、政権を守り抜く第一部から、軍事クーデターによって遂に政権が崩壊する第二部まで、キャメラが両陣営の人々をとらえ、多角的に状況を描いているのに唸る。第三部はプロパガンダ風だが資料的価値が。いま、これが見られるということだけでも貴重な一作。冷戦時代の出来事だが、現在の日本の政治状況と繋がる要素がいっぱいあって。
こちらはアルゼンチン。政権が転覆して失職した高官が、誘拐ビジネスに手を染めるというおっかない話。ロックをギンギンに駆使した演出が刺激的。平穏な家庭描写の中に、血なまぐさいカットが紛れ込む、そのブラックな趣向が面白い。が、ちと演出が押せ押せすぎて、疲労感も。主人公が官僚時代にどういう役割を担っていたのか。そこを描いてれば、事件の背景がもっと分かるんじゃないかとも。ま、父に対する息子の存在が、独裁政権下の官僚に重なって見えたけど。キンクスの歌が嬉しい。
宝探し映画といっても、大げさなものじゃなく、怪しげな探知機を使ってスコップで庭を掘り起こすというのが、そこはかとなくオカシい。あまりの疲労で口げんかがはじまって、ひとり離脱の顛末も、脱力の微苦笑。肝心のおタカラには、共産主義から長い独裁政権を経て現在に至った、ルーマニアの政治状況への皮肉が込められているのだろう。淡々の筋運びはネラいだろうし、トボケたおかしさを目論んでいるのも分かる。が、単調すぎ。もうひとヒネリふたヒネリの展開をという欲も出て。
ジョージア(旧グルジア)がいま民族独立を巡って内乱の真っ最中だとは。中立派のエストニア人の農家に、敵対する二人の兵士が同居する。という設定は「JSA」など、呉越同舟もののパターン。一人の兵士がチェチェン人だということに、複雑な背景が垣間見えて。この両者が共同して戦う相手がロシア軍だというところに、かの国のホンネがうかがえる。キッチリまとまった映画で見ごたえもあるが、むしろそのパターンを外した方が、より深くメッセージが伝わったのではないかとも思う。
1970年、選挙によって世界初の社会主義政権が誕生したチリ。若き監督グスマンは、この頃仲間たちと街中の政治活動を撮り始めていく。1部、2部は、政権崩壊に至る73年の状況をダイナミックに追い、3部はこの政権の数年間に民衆がどう奮闘していたかをつぶさに映し出す。独特な時代性、国民性があるにしても、人類史上、本当にこんな一幕が起こり得たのかと驚嘆する。リアルタイムで撮られた政治映画なのに、なぜかイデオロギーの匂いがしない。熱く純粋で最後は泣けるほどだ。
1980年代初頭、アルゼンチンで実際にあったプッチオ家の事件を基にした衝撃の物語。独裁政治下で公職を務めていた父アルキメデスは、政府転覆後、失業。市民を誘拐・身代金要求・殺害することで財を維持し始める。しかも家族ぐるみで。モンスター父は映画でよく描かれるが、この父はワースト級。家族を見捨てる父と、保身ゆえ家族を犯行組織にしていく父とどっちがひどいだろう。本人はむしろ愛と思っているようだし。特に、プッチオ父と長男の絆の宿命は鮮烈で鑑賞後も尾を引く。
かつて共産党台頭前に祖先がある地に埋めた宝を、一緒に探してほしいと失業中の隣人に頼まれた男。家族と慎ましく暮らす彼は、半信半疑ながら協力することになる。日常感たっぷりで、オフビートな笑いも効いたドラマだな、と思っていると、宝探しのシーンになるや、やたら地道でリアルな作業を淡々ととらえ続ける、ドキュメンタリーのような趣に。どうやら、この部分は監督の実体験を生かしたよう。映画の捻ったオチも意外と好き。裏テーマは、ルーマニア的、富の分配かも?
1991年にソ連が崩壊し、独立したジョージア。西部のアブハジアとの間に起こった紛争を舞台に、私的な人間模様を通して戦争の不条理を浮かび上がらせる。負傷した敵兵2人を自宅で介抱する、みかんの木箱作りの老人。自分の家の中では戦わせないと2人に言い放つ、老人の知、丁寧な生活の営みに小さな救いを感じる。同時期公開の「とうもろこしの島」も、中州という戦場の中間地帯から人間の在り方を問う。老人と少女の「裸の島」のような作品。どちらも良質なジョージア映画だ。