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漢民族の監督がチベットの映画を作る。それは政治性と切っても切れない行為である。独立問題の顕在化を恐れる中国政府は、チベットの独自性を謳う映画など存在してほしいとは考えていまい。しかし北京出身の二世監督・張楊は、チベット仏教の長大な巡礼の旅を、大いなる共感と共に撮り上げてしまった。この映画の旅程が冒険であると同時に、その撮影行為自体も、大いなる冒険である。この映画で見るもの聴くものすべてが美しいが、それは政治的危険と隣合わせのものである。
今春公開の日本映画「ふたりの桃源郷」と対をなすような、田舎の老夫婦の仲睦まじい晩年を綴った韓国製ドキュメンタリーで、夫が先立つという展開も酷似する。実在の老夫婦が被写体であり、九〇歳過ぎまで男女の愛情が持続するということが衝撃的だ。現代社会は愛の不毛、家庭の崩壊、生の孤立に充ち満ちている。だから本作で、実在の老夫婦が楽しそうに雪合戦する姿などは、メルヘンに見えてしまう。本作の幸福描写は、私たち現代人の不幸と孤独を逆照射しているのである。
米映画「エベレスト 3D」、日本映画「エヴェレスト 神々の山嶺」と山岳映画の公開が続く中、次は韓国から。山男の友情に重心を置く熱血漢的な内容は、実話だけに文句のつけようがない。落命した仲間への鎮魂の念を、受け手は主人公たちと共有するだろう。しかし、映画という困難きわまりない剣が峰を本作が登り得ているかというと、疑問符が付く。ダイナミックかつスペクタクルだが喚起力に欠ける画面、類型に留まる人物像。悪い作品ではない。でも優等生の模範解答のようだ。
二大名優が人生の黄昏を意識しつつ、アパラチア山脈三五〇〇㎞のトレッキングに挑む。彼らの珍道中が人生径路と重なりつつ、ある感慨に達すべきところだが、コメディータッチがもうひとつうまくいっていない。本作は映画の作り全体と対峙するものではなくて、両スターの滑稽芝居を微苦笑と共に享受すればよい作品なのかもしれない。二枚目レッドフォードは完全に受けに回り、もっぱら元悪童ノルティの不出来に対して苛立ったり赦したりする。この諦念こそ人生の粋ということか。
いやはや、からだを地面に投げ伏しながら、芋虫みたいに移動していく、その有様を延々見せられるのかと覚悟。が、風景の摑み方やカット構成のセンスのよさで、心地いい映画の運びとなっている。事故、出産、死、出会いなど道中物のあれこれもたっぷり。しだいにこちらも一緒に旅してる気分になって。この監督のチベットの人たちに対する眼差しには、深い愛と敬意を感じる。同時にそれは、この不屈の民を支配下に置こうとする中国への無言の批判にもなっていると思うのだが、さて?
田舎生活をする老夫婦のドキュメントなんて、この前「ふたりの桃源郷」を観たばかりで。韓国版のこちらは出だしの部分、監督が劇映画的カット割りにこだわったのか、夫婦を演出した気配があってぎこちない。が、しだいにありのままを撮っていこうという姿勢が見え、それとともに二人の自然な振る舞いが魅力になってくる。子どもたち(といっても中高年)が親の世話をめぐって本気の喧嘩をするところが韓国らしい。終盤、悲しみをこれでもかと情感に訴えるのが、どうも肌に合わなくて。
悲壮感丸出しの日本の「エヴェレスト」と違い、笑いの味付けがあるのが助かる。登頂のカタルシスがちゃんと描かれているのも救い。役者陣も緩急のツボを心得て好演。ただ、これも韓国らしい情の絡め方があって、そこに違和感が。遭難するのが分かりきっているのに救助に駆けつけたり、遺体捜索のために集団で決死の登攀をしたり。こういう事実があったのだろうが、もう少し冷静なというか客観の視点(記録映画の感覚)がほしくて。これじゃ体育会系根性さえあれば岩をも砕くだよな。
今号の課題作品は辺地を舞台にした作品ばかりだが、これがいちばん気楽に見られた。なにせレッドフォード八〇歳、ノルティ七五歳だからあまり無理はできぬ。アパラチア・トレイルの道中行も高尾山ハイキングの如し。元アル中のノルティがいつ酒に手を出すかのサスペンス、熊に襲われてのスリル、人妻に手を出しての騒動と、挿話は数々あれど、超おしゃべりの女性ハイカーがクスクス笑える程度のゆるい展開。体力の限界なのでここらで失礼の幕切れまで、こちらもノンビリした気分に。
一見ドキュメンタリーのようで、実はフィクション。チベットに暮らす村人たちが出演し、撮影は監督がプロットを書いて進めている。そうはいっても、長い巡礼の間に実際起こった細部は映画に生かされているはず。大地に伏すような祈りをして続ける巡礼は遅々としながらも、そのリズムには謙虚で尊い美しさが宿る。宗教的には違いないが、でもそれは万物や命を素朴に感謝するような種類のもので、観る側も純粋にシンプルな気持ちになるだろう。祈りの疲労感も心地よい。
98歳の夫と89歳の妻の愛。フィクションのように滑らかに日常の物語が進むが、これはドキュメンタリーなのだという。もちろん、おじいさんとおばあさんのささやかなやりとりは自然で、丁寧に日々が切り取られていく。お互いを思いやるその姿は微笑ましく、夫婦愛のかたちとしてなんて素敵だろうと思う。おばあさんの笑顔が本当にいいなぁ。やがて、おじいさんが病に伏し、亡くなるまでが淡々と綴られる。てらいなく、四季を通して人の営みや幸せが映し出されていて心に沁みる。
伝説の登山家オム・ホンギルとその仲間たちの絆を壮大なスケールで描いた感動の実話。一番弟子といえる後輩ムテクとの友情がメインテーマかと思っていると、中盤意外な展開を迎える。後半は、無謀とさえ思える目的のエベレスト遠征が繰り広げられるのだが、その熱量が凄まじい。過酷な自然の中で友愛を育む西部劇のようでもあり、神(ホンギル)とすべての使徒たちとの絶対的な愛を謳う神話のようでもある。題材の大きさに劣らず山岳のロケが圧巻。エモーショナルな迫力に呑まれる。
こんなに普通っぽい老人をチャーミングに、楽しんで演じているレッドフォードは珍しいのではないか。ふと思い立って大自然の長距離徒歩の旅に出る男。老いに触れる自虐ネタもなんのその、知的な品性は健在でなかなか艶やか。同伴する悪友を演じるニック・ノルティは、登場時、大丈夫かと思うほどの老体だけど、さすが味のある演技を貫徹。ふたりのコンビネーションがとてもいい。セリフも粋で奥深い。地味な作品だが、ゆったりした気持ちで人生を考えさせてくれる大人のコメディーだ。