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劇の舞台裏を描く映画の世界線は面白い。舞台装置を覗くことができるのが見どころの一つだ。本作品の出発点、事故車がステージ中央に置かれている。運転席に倒れている有望なダンサーの女性は、半身不随になる。破壊からはじまるミュージカル。そして、演出家と情熱的な若者たちによって、エモーションを蓄積していく。人物描写には多少テンプレート感があるけれど、そこに表現は求めない。自国を代表する個々の責務が情熱をもった身体を激しく揺らし、全体で一つのアクセルを踏む。
前作「ボーンズ アンド オール」に続き、主演俳優がプロデューサーも兼任する製作スタイル。なにかと注目・期待されているルカ・グァダニーノ、主演はゼンデイヤ。いろんな意味で絶対的に面白くないわけではないんだけど、問題は捻くれた視点で作品を見てしまうこと。汗が滴るスローモーション。両脇に男を抱え、もみくちゃになるタシ。会場が吹っ飛ぶほど激しすぎる台風。決闘を睨むタシ。そう、少しスクリーンから距離をとりたくなるほど圧が強い。ゼンデイヤが歩くと、嵐すらも避けそうだ。
B級映画のオマージュをベテランの映画監督が全力で作ったらどうなるか? それはもう、楽しいが炸裂。謎の男が狙われる最初のシークエンスで、カメラアングルとポジション、カット割り、編集の諸々で、イーサン最高だね! 突然現れるサイケな世界観もイケイケGOGO! そんな無茶苦茶なロード・ムービーはきちんと二人が結ばれる道のりであった。愛を育んだキスシーンは色っぽくドキドキした。ラブシーンは小ネタで笑わせられる。クィアのパートナーを偏向しない描き方が気持ちいい。
数多くの傑作が生まれている台湾。独特の風習と生活が撮影に大きな影響をもたらすはずが……本作にはその魅力が感じられない。生と死、男と女、経済格差などの要素を扱っているが、表面から掘り下げられていない。その上、俳優の芝居もポーズになってしまっていて伝わらない。長い時間をかけてゆっくりと抉っていく人間の性を見たかった。少年の将来像がチープな演出になっていたのもがっかり。チェン・クンホウ「少年」を想う。侯孝賢は脚本に言及しなかったのかしら?
ストラーロのデジタル画面にどうもなじめないのだがそれはさておき、どこまでが舞台内の(虚構の)出来事なのかを曖昧にし、虚実の境を問う趣向のバックステージ物映画。動きを積み上げていくミュージカル的カタルシスを、まるで志向していない群舞の撮り方はさながらドキュメンタリー。サウラにはバルセロナ五輪公式記録映画「マラソン」という作品があって、坂本龍一も登場する開会式のパートが特にいいのだが、そこに見られるドキュメンタリー感覚と音楽センスが、この作品にも通じるように思う。
同じ女を二人の男が同時に愛する映画といえば、男たちこそが愛し合っているように見えることが多いのだが、その最もあからさまな例かも。対戦する二人はやがて完璧な相互理解へと至る。では女の立場はと言いたくなるけれど、この映画のゼンデイヤはこれぞ本領発揮で最高で、コートの中のゲームも外のゲームも彼女が支配しているのだった。テニスボールの主観ショットまで登場する、技巧満載のクライマックスの愉快さ。映画が進むにつれどんどんなじむ、レズナー&ロスのテクノ風電子音楽もよき。
追いかけてくるギャングたちの描き方や、彼らと主人公ふたりが出くわしてからの展開にもうひと工夫ほしいけど、どこまでもくだらないたわいなさが最高なロードムービー。でも芯にあるのはロマンティック・コメディのエバーグリーンなフォーマット。「メリーに首ったけ」をみんなでニコニコしながら観ていた記憶が思い出される。マーガレット・クアリーとジェラルディン・ヴィスワナサンがふたりともすごく魅力的で、今後の活躍にますます期待大。クアリーがお母さんそっくりなのにもしみじみ。
ファーストショットのあまりの見事さにいきなり度肝を抜かれ、美しい画面のテキパキした連鎖にドキドキし、帰宅したリウ・グァンティンがサックスで〈恋に落ちた時〉をしっとりと演奏しはじめるに至ってはもう身もだえしそうにたまらない。この導入部分で興奮しすぎたせいか、いまいち加速していかないかのように感じてしまったけれど、その後も充実した画面が頻出、ノスタルジックなスコアも素晴らしい。ある種のふてぶてしさをたたえた子役俳優の演技を含め、全方面において立派な仕事の映画。
スペインのカルロス・サウラ監督作でメキシコを舞台にミュージカルを作る過程を描いたミュージカルを映画に。現在のメキシコの治安の悪さと歴史の複雑さを背景にした劇中劇ならぬミュージカル中ミュージカルという入れ子構造をさらに映画にし、映画のカメラも中に映り込むという三重入れ子構成。撮影の名手ヴィットリオ・ストラーロによる頭脳的なカメラも相まって、芝居と舞台裏の線引きが曖昧で迷宮に迷うような映画体験。試みは実験的で面白いが、軸となる男女の物語は極めて紋切り型で落胆。
ルカ・グァダニーノ監督作で今や時代のファッション・アイコンであるゼンデイヤ主演。3人の男女のテニス選手の十数年にわたる複雑な三角関係を描く。物語はノンリニアな時間の流れをモザイク状に組み合わせ、最後の男二人のテニス対決という山場を迎える。ハイスピードカメラを含むカメラワークが秀逸で凝った編集も加わり映像力としては傑出した出来。グァダニーノ映画としては面白すぎる仕上がりだが、グァダニーノ映画にエンタメ以上のものを求める者には物足りない。
コーエン兄弟のイーサンの初単独監督作。レズビアンの女性二人がアメリカ縦断ドライブする中で犯罪に巻き込まれるコメディ。ちょい役のマット・デイモン以外はスターキャストはなく、徹底的にB級路線でコーエン兄弟映画から芸術性を引いてくだらなさを倍増した仕上がり。「それを意図してるんだよ!」という監督の声が聞こえそうだが、どこかしらインテリのB級ごっこ感がプンプン漂ってくるので、本気のB級映画のほうがずっと楽しめる。兄弟監督は単独では成功しないというジンクスがここにも。
バブル期の台北の少年の成長を描くドラマ。レストランで働きながらお金を貯めて理髪店を開こうとする父を尊敬する純朴な少年が、バブル崩壊の中で「腹黒いキツネ(オールド・フォックス)」と呼ばれる地主のタフな人生哲学に惹かれていく。清貧潔白な父を支えるか、強烈な拝金主義に身を委ねるか。少年の成長譚として普遍のテーマを台湾ならではのウォームな質感で包み、丁寧なリアリズムで描く。共感する物語だが映像的面白みに欠けるのが惜しい。