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女性であることが理由で殺される、「フェミサイド」について取り扱った作品。刑事ものではあるが、事件の解決が主旋律というよりは、性別を理由に犯罪にあってしまうことや、女性が晒されている偏見や視線を中心にして事件を描いている。女性だけでなく、男社会である警察内部も描くことで、男性の考え方も相対化している。捜査する刑事たちの個人的な悩みを丁寧に描く姿勢もよかった。男性たちが成し遂げたことは、自転車で山に行けたことくらいなのが、現実という感じがした。
ビニールハウスに住むというのが、「半地下」のことを思い出したり、韓国の賃貸事情について思い巡らせられた。途中までは、主人公の女性のメンタルヘルスの問題や、盲目の認知症の老人との関わりなど、スリリングな心理描写に惹きこまれたが、人が死んでから、グロテスクで既視感のある映画的展開になっていき、もうこういうのはいいかなと思ってしまった。それまでの時間も、すべてこの展開のためのものに感じてしまう。人の不幸を見て喜ぶ感覚が、自分にはわからないからかもしれない。
実在するラッパーの自伝を基にした映画。ヨーロッパの移民のコミュニティ意識についての描写は興味深かったが、ともかく主人公の人生が嘘みたいな展開をしていくので、現実にこういうことが起きていたとはなかなか思えない。強盗をして入れられた刑務所で、ふいに子どもの頃を思い出し、机にピアノを描いて弾くシーンでは、彼の本当の姿がようやく見えたような気がした。このシーンがよかったからか、最後いろいろな描写をすっとばし、成功者になっている展開には、やや違和感も感じた。
ふしぎな夢を見ているような感覚だった。寒い土地の話だけれども、画面の隅々までいつも光があたっているような、独特の色彩がうつくしい。厳密に計算して撮影されたフレーミング、芝居だと思うが、にもかかわらず人々の生活はまるで目の前で本当に繰り広げられているような説得力がある。傍観するようなカメラも、けっして突き放すわけでもなく寄り添うわけでもなく、この土地の匂いや湿度、そして時間そのものを捉えようとしているように感じ圧倒された。犬がとにかくかわいかった!
往年のシャブロルがスモールタウンを舞台に撮った「肉屋」などのミステリの名作によく似た感触がある。若い女性の焼死体が発見され、被害者の奔放な男関係が露わになるも事件は迷宮入りに。捜査官ヨハンは容疑者も愚昧かつ謎だらけでと途方にくれるが、殺人という行為を人間存在の不可解さの証しと捉える視点が光る。時折、ヨハンが夜間、無人の競輪場を黙々と自転車で走行するショットが挿入されるが、彼自身が抱える不分明な闇を払拭しようとする捨て身のアクションのようでもある。
かつてイ・チャンドンの秀作「バーニング 劇場版」では荒涼たる田園地帯に点在するビニールハウスの光景が何とも形容しがたい寂寥を感じさせた。だが、本作ではさらに韓国の格差社会の暗喩としてのその存在が徹底化、象徴化されて描かれる。疲弊したヒロインに巣くう絶えざる自己懲罰の衝動と少年院にいる息子への溺愛、そして著しく根拠を欠いた彼女の夢想が無惨に打ち砕かれるさまを、映画は時には仮借なきまでにリアルに、時には詩的で幻想的なビジョンをもってあぶり出している。
これが実話の映画化とは驚く。ファティ・アキンは「女は二度決断する」の冷徹な復讐鬼と化したヒロインが記憶に残るが、この映画ではクルド系のエリート音楽家の家に生まれたカターが街の不良に半殺しの目に遭い、ボクシングを学んで一矢を報いるエピソードにデジャ・ヴ感あり。ドラッグの売人に身を落とすも刑務所内で作った曲が大ヒットという古典的なジェットコースター風の貴種流離譚でもある。ラップのリズムがいつしか映画の鼓動そのものへと同調する辺りが実にスリリングだ。
デンマーク人の若い牧師ルーカスがかつての植民地アイスランドの辺境の村へ教会を建てる命を受け、旅立つ前半は過酷な自然に脅かされる受難篇。後半は村の教会が完成するまでの牧歌的かつ不穏な日々が描かれる。ダゲレオタイプに想を得た村人たちの肖像写真が印象深いが、腐蝕する事物たちの定点観測は実験映画的だ。とりわけ二人の姉妹が室内で佇むシーンはその陰影の深さにおいてカール・ドライヤーに影響を与えた画家ヴィルヘルム・ハマスホイの人物画を想起させるすばらしさである。
「事件にとりつかれることがあります。理由はわからないが、事件が頭から離れなくなり……」「のみ込まれる?」「あるいは“壊される”。中から蝕まれる」。男と女の溝に迫る未解決事件ミステリ。16年の実話に着想を得て、よく書かれ、演出され、丁寧に演じられている。ドミニク・モル監督は「悪なき殺人」も優秀だったが、今度はさらに上質だ。女性殺しを捜査するフランスの刑事たちが男性ばかりであったことに着目しており、沈着な主人公の葛藤を伝えた主演のバスティアン・ブイヨンの無表情がいい。
冒頭のビニールハウスでイ・チャンドン「バーニング 劇場版」を、続く母と息子の対話場面で黒沢清「CURE」を連想。いきなり今でも有名な別の何かに似ていたため、この新鋭の志に軽く失望したが、これから始まるドラマの悪夢的なトーンを予告する役割を担わせたのだろう。事実、訪問介護士と貧困を背景とする社会的孤立の物語は雪だるま式に悪化する。キム・ソヒョンの芝居に緊張感があり、イ・ソルヒは脚本と編集も兼ねることで重く憂鬱なリズムとテンポを維持している。少し硬いが意欲作だとは思う。
イラン系クルド人の両親をもつクルド系ドイツ人ラッパー“Xatar”の半生に基づく青春・犯罪・音楽ドラマ。1979年に始まり第一次湾岸戦争を通過してドイツを経由し、アムステルダムに辿り着く多言語の物語。主人公の背景も複雑だが、トルコ系ドイツ人監督のアキンは「グッドフェローズ」風の年代記スタイルで手際よく捌く。マイノリティとギャングはアメリカ映画の十八番だったが、ここでは欧州でのクルド系に応用されており、それもハッピーエンド。中身は新鮮。だが容れ物はそうでもないのだ。
19世紀末、デンマーク統治下のアイスランドに派遣された若い牧師。教会を建て、布教するためだが、彼の理想と支配者側の傲慢さは厳しい自然に囲まれた現実の生活に押し潰されていく。旅を描いた前半部の目の眩むロケーション撮影と流れるような映像の絵画は、ヘルツォークを彷彿とさせるほど壮大で、同時にライカートやフォードの西部開拓劇、「ミッション」「沈黙」を思い出したが、神々を知覚させる自然環境の描写は、アイスランドの山々が人の営みを見下ろす「LAMB/ラム」をむしろ連想してもいた。