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作り手の狙いが完璧に達成されていれば、しかもそれが面白ければ、星の数を減らす理由がない。個人の好き嫌いとか、観る人を選ぶかもという心配とか、要らぬお世話に思えてくる。荒井晴彦作品に望む男女のドラマが濃密に描かれていて、綾野剛のいままでにない芝居が観られて、柄本佑が相変わらず荒井演出のもとで生き生きしていて、ピンク映画業界へのオマージュが重くも軽くも込められた、しかも近年最もモノクロ画面が冴えた作品であれば、やっぱり観ない理由は探せなかった。
人は誰でも嘘をつくという作中世界のルールでもあるのか、「単刀直入に訊けばよかろう」と思わせる場面が続き、とにかく回りくどい。どんでん返しのお膳立てとして小説なら成立していたかもしれないが、2時間の映画では難しい。法廷ドラマとしても、現行の司法制度への批判と、裁判制度自体への揶揄がゴッチャになっていて、そもそも「裁判は犯人当ての場ではない」という大前提の理解すら怪しい。いちばん恐ろしいのは、このタイミングで「贖罪から逃れる物語」を映画化したことだ。
「いつの世も“天下人”などと呼ばれるヤツらは、ろくでなしばかり」という北野武監督らしい歴史観を、北野作品らしからぬ超大作ルックで見せるという大がかりな転倒に、まず面食らう。かつて「血と骨」で共闘した撮影の浜田毅が堂々たる仕事をしている。合戦シーンになると普通の映画に見えるきらいもあるが、「乱」を撮ったころの黒澤明とほぼ同年齢だと思えば、この大作志向と「昔ほど遊ばない感じ」にも納得がいく。欲を言えば、衆道の描写にはもっと繊細さと実感が欲しかった。
亀梨和也の怜悧な人でなしぶり、睫毛の先まで神経が行き届いているかのような一挙手一投足にただ見惚れるばかり。美しく後手に回るプロファイラー役・菜々緒もキャリア最高の輝きを放っている。三池崇史監督の堂々たる職人的演出も快調だ。とはいえPG-12なのでR指定級の過激さは抑えられ、ストーリーも全国区向きだが、それでも日本のメジャー映画としては最上級の画作りが拝める快作。背広のくたびれ刑事たちが居並ぶ三池ノワール・ショットには久々にワクワクした。
寒々しい波打ち際に横たわる濡れそぼった男女の死体。男は新作を準備中のピンク映画の監督で、女はその作品で主役を演じるはずだった。という場面からスタートするが、話の軸は、死んだ女と時間差で深く関わった2人の男の、不甲斐ない傷の舐め合いで、現在をモノクロ、過去はカラーという演出もくすぐったい。さしずめ希望は過去にしかない? 新宿ゴールデン街でクダを巻く場面や、アダルト映画顔負けの場面も。後ろ向きでクセのある、死んだ女とピンク映画へのレクイエムか。
司法制度の改革とか、冤罪とはとか、頻出する法律関係の用語が話を惑わせるが、描かれるのはロースクールで学んだ3人の手の込んだ因縁話で、観終わっての後味はかなり消化不良! 少しずつ明らかになる彼らの重い過去が、無責任な大人や法律の不備にあるというのは分からないでもないが、回想というより後出しジャンケンふうな真相の出しかたもズルい。ミステリーではよくある手だが。後半の裁判場面が学生たちの模擬裁判と大差ないのは「法廷遊戯」というタイトルへの忠節?
北野監督が戦国時代と戦国武将たちを好き勝手に切り刻んだ血まみれスプラッターホラーである。ビートたけしが演じている秀吉はただの生首フェチで、加瀨亮の信長も気まぐれで残忍な変質者、人気俳優たちが勢揃いした武将役はどいつもこいつも裏ありの二枚舌野郎、まさに生首ゴロゴロ、血の量も半端ない。北野監督がどういう意図で脚本、編集まで手掛けたのかは不明だが、悪趣味な笑いを含めもう最悪! とはいえ、血まみれ狂気は世界の現実でもある。監督はそれを予感した!?
劇中に登場する絵本『怪物の木こり』を、ティム・バートンが映画化! なんてヤラセの噂がサラッと流れる。そうか。気色悪い導入部はあくまでも恐怖の火種。演出のどこかに空気穴風な隙間を盛り込んで進行するのか、と思っていたら、三池監督、隙間どころか、妙にクールな演出で人物たちを煽り、話自体もとんでもないのだが、こちらもクールに成り行きを観ているだけ。それにしても本作の亀梨和也も「法廷遊戯」の永瀬廉も弁護士役で、いまや弁護士役はアイドルの専売特許?
前作は食と性を介して男女を描いた荒井監督が今回は著書『争議あり』を基に細部を形成したかのような固有名詞と自己言及をちりばめる。実名を連ねて時代を形成し、雨と歌と性を重ねていく。「新宿乱れ街」の30数年後を描いた後期高齢者の繰り言かと思いきや、劇中の同時代にシナリオ講座へ通い、国映の成人映画を観ながらピンク映画のシナリオを応募していた筆者などは自分を重ねてしまい、心が揺れる。「身も心も」の奥田瑛二&柄本明を凌駕していく綾野剛&柄本佑に見惚れる。
ひたすら設定だけを説明され続けているかのようで、映画を観ている感覚にならず。ロースクールで暇つぶしに行われる〈無辜ゲーム〉や、生徒たちが揃って示す反抗のポーズなども、無国籍的な世界観が作られていれば良いが、日本とは思えず。「ソロモンの偽証」が前後篇使って学校内裁判を成立させていたことを思えば、この状況にすんなり入りきれず。過去の因縁話も説明に説明を重ねられて明かされるだけに、驚きが薄い。登場人物たちはゲームのコマのように動かされるのみ。
北野映画としては最長の空白期間を経たものの時代劇版「アウトレイジ」を期待するなら十分満足させる。方言を多用する残虐で狂的な信長(加瀬亮が絶品!)、狡猾かつ武士の格式ばった振る舞いを嘲笑う秀吉、とぼけた家康のキャラ付けも良く、史実との年齢差も気にならない。ウエットになりかけると瞬時に冷徹な裏切りや死が訪れるドライな視点が徹底されるのも良い。ただし、初期作に見られた色気のある同性愛描写に較べれば、今回の衆道描写は即物的すぎて取って付けたよう。
この題材ならば三池崇史の名前に当然惹かれてしまうが、往年の過激さは影を潜め、サイコパスが王道を歩く本作では殺人描写も含めて常識的な範囲に収まっている。誘拐された子どもを使った行為はぞっとさせるだけに、せめて触覚的な感覚を見せてほしかった。プロファイラーの菜々緒が醸し出す雰囲気が良く、上手い演技というわけでは決してないところが逆に異物感を出して突出。「首」に続いて快演を見せる中村獅童が粗暴さの裏にフランケンシュタインの哀しみを抱えた姿で魅せる。