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スマホ撮影、ネットゲーム、ウェブトゥーン、ZOOMといった最新メディアの要素をこれでもかというほど散りばめつつ、あたかもゲームを再起動するような仕掛けをも用いることで、新たな映像文化からの影響を物語のレベルでも昇華しようとする野心作であることは確か。ただ、結果としてそのひねりが効果を上げているとは思えず。「怪物」にも通じる律儀で説明的な脚本は近年の流行に沿っているとは言えるのかもしれないが、後半は説教臭い教訓を伝えるパズルとしてしか観られず。
ラップとオペラを架橋するという意外性に満ちた発想は目を惹くものだし、MB14演じる主人公の声は、映画の中核を成すその設定に十分な説得力をもたらしている。師とラップバトルのようにユゴーを読みあうことで呼吸の重要性を学ぶ場面など、音楽がらみの演出も細部まで気が利いている。ただ、ストリートとオペラ座を隔てる階級的な断絶をどう乗り越えるのかを考え抜いた形跡のない、兄や友人をめぐるご都合主義に頼った展開は、終盤のカタルシスを大いに削ぐもので勿体無い。
VR技術を用いた刑務所内の撮影など目新しい要素も興味深いが、いつも通り孤独な男による贖罪の物語を脇目もふらず描き切ろうとするシュレイダーの徹底ぶりに心がゆさぶられる。無機質で単調なカジノでの仕事ぶりやモーテルの家具を白い布で覆う行為で主人公の態度を簡潔かつ的確に示す演出は、その後周囲との交流で徐々に人間味を取り戻す彼との対照性を見事に際立たせているし、主人公がそれでもどこかに抱え続ける危うさを恐るべきリアリティで体現したアイザックの演技も必見。
殺し屋としては若干迫力に欠けるとしても、老探偵が時折必要に駆られて披露するアクションとしてならば説得力十分。そこまで動けない彼の格闘をどう演出するかという、ニーソン近作が直面してきた問題に意外な角度から解決を与えた本作は、例によって老いのテーマを扱いつつも、それを真正面から深刻に取り上げるというよりは、大人の余裕や色気として表現する。記念すべき一本でニーソンは、気心の知れたスタッフと共に歳を重ねても軽妙さを失わない新たなマーロウ像を作り上げた。
なぜ青年は無差別殺人事件を起こしたのか。いわゆる現代の若者の捉えきれない心の奥が、本作最大の肝である(といっても真新しい観点でもないが)「もしあのとき違う選択をしていたら」というifの世界を描くことで考察されるのだが、そのifの結末は、作り手の匙加減でどのようにもなり得るだろうと思えて、私は乗れなかった。ifの世界を描くことで、人の心のわからなさを描くはずが、逆に人の心がとてもわかりやすいものとして描かれてしまっているように思う。
それまでいた世界とはまったく別の世界との出会い方と魅了され方。今までの世界からのしがらみや無理解と、新しい世界へ足を踏み入れる不安や葛藤。それらが最終的に昇華され大団円を迎えるための舞台の設え方。そのどれもが過不足なく描かれてはいるのだが、どれも予定調和的で既視感があるのもまた事実。パリ・オペラ座の美しさや、そこに響き渡る歌声は気持ちよく伸びやかに広がっていくが、映画自体は既存の枠組みに律儀に収まってしまっているように見えた。
ギャンブル映画にしては緊張感がなさすぎるし、復讐劇としてもその結末はあっけない。ギャンブルと復讐という二つの要素が見事に混ざり合ってるとも言い難い。描かれる一つ一つのシーンや登場人物などには奇を衒ったところがあるわけでもなく、物語の進行もどこかで見たことのあるような流れに沿っているようにも見える。しかし見終えたときには、一体何を見せられていたのかと戸惑わせる不思議な味わいがある。真剣なのか冗談なのか、摑みどころのないポーカーフェイスな映画。
人から人へと数珠繋ぎにつながって真相に迫っていく探偵もの映画にあって、要所要所の役者の存在感はとても重要なものだろう。その点、本作はフィリップ・マーロウを演じるリーアム・ニーソンを筆頭に、ダイアン・クルーガー演じる女性やその母親のジェシカ・ラングなどが衒いも気負いもなく、極めて自然に、それぞれの美しさと存在感を見るものに印象付ける品の良さがある。またリーアム・ニーソンの老いと長身という特徴をユーモラスに使った演出も余裕を感じさせて心地よい。
無差別殺傷事件に幕を開け、年齢や性別がバラバラの複数の男女が交錯し、ネット漫画やオンラインゲーム、援助交際といった現代的な要素を散りばめて描かれる、「青春弑恋」にも通じる台湾群像劇。とはいえ同じ人物たちの別の道筋の物語を懐かしのドラマ『if もしも』方式で提示する本作は、いつ誰が被害者になっても加害者になってもおかしくない都会が孕む危うさや混沌を確かな人物造形の内に描いていて、より深く響いた。むしろ、こちらこそ現代の「恐怖分子」と呼びたい佳作。
華やかな舞台で繰り広げられる、予想を超えた異種格闘技戦。オペラ×ラップに始まり、持てる者持たざる者、年齢を重ねた者と若き者、山の手と下町、高尚と下世話……対極に位置するものをがっと一つに集結させてぐるぐる掻き回し、最後はきっちり美しく着地してみせる力技よ。劇中実際にオペラを披露しているビートボクサーのMB14とオペラ教師役ミシェル・ラロックのミスマッチの妙が光る。『あしたのジョー』的な下町人情溢れる幕引きも、ベタっちゃベタだが、それもまたよし。
ポール・シュレイダー×マーティン・スコセッシ。45年の歳月を経て、なお「タクシードライバー」を思わせる暗い過去を背負った孤高の男の罪と贖罪の物語を生み出す両者の姿勢に何より感服。オスカー・アイザック主演の今回は、ギャンブルに生きる刑務所帰りの男と青年との繋がりや大人の恋が描かれる。穢れた社会で結び付く、世代を超えた関係の清廉さや根っこに疼く純情など、大人になったトラヴィスをなぞるような感慨も。願わくはもう一歩観る者をひりひりさせる何かが欲しい。
ニール・ジョーダンの下、念願のフィリップ・マーロウに挑んだリーアム・ニーソン節目の作品だけに、期待が先走ってしまった感も。個人的には異端とされるアルトマン版のグールドがベストマーロウだが、こちらはミッチャム寄りの正統派。いや、正統派マーロウというより正統派ニーソン、というべきか。全体にキャラが薄く、小洒落た台詞もそこだけ空回りして、逆に物語の理解の妨げに。100本の快挙を祝しつつ、今後は脚本重視でじっくり作品選んでほしいと僭越ながら希望。