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エンパイアってつまり帝国劇場だね。海辺のリゾート地に建つ名門映画館が舞台で「炎のランナー」のガラ・プレミア誘致という話題が楽しく、最後に「チャンス」の名シーンが引用されるのも嬉しい。同時代感覚が触発される映画愛映画は珍しい。死後、美化されることが多くなった英国サッチャー首相、およびその政権への異議申し立てという隠し味も効果的だ。性奴隷として扱われている女性の復讐譚は必ずしも小気味いいわけじゃないのだがその辺りの苦さがいかにも英国映画の作風だ。
昭和20年3月の東京大空襲の記録映画、という側面は希薄で、むしろその記憶を語り継ぐ運動家たちの地道な活動に取材した企画。取材自体は数年前のため、当時の総理大臣の戦争体制推進法案が大きな話題となっている。それにしても祖国防衛などと口では言っていたこの人が準反日組織の支持者であったとは。まったく笑いごとではない。この映画を見ると戦争犯罪の記憶を失わないことの大切さを痛感すると同時に、記憶喪失を強いる巨魁とそのお先棒担ぎの存在を感じないではいられない。
戦争「航空機」映画は好きなのでワクワクしながら見た。機体のメタリック感覚はCGかと思うくらいピカピカで嬉しいが何と実物とか。こういうこだわりが映画をグレードアップさせる。スタントマンのワイアー&ファイアーワークも念入りだし、物語もルーティンぽいけど悪くない。だが今さらナチスをここまで無能な悪者連中に仕立てる意味が分からない。国策映画みたいで嫌な感じ。ヒーローも全能の度が過ぎる。それと不思議なことにドイツ人の英語の使い方の統一が取れていない。
監禁ゲーム映画のファンなら見ておくべき。残虐描写はないので安心を(というのもヘンか)。だが映画慣れした方ならば展開が読めるだろう。原題「ディインフルエンサー」とはインフルエンサーの在り方を否定しているわけだ。SNS社会への異議申し立てという発想は理解できないでもない。しかしちょっとぐらい目的が高邁でも、やってることは洗脳ではないか。娯楽として楽しめるレベルを逸脱している。これを見た人は有名なパトリシア・ハースト誘拐事件の顛末を思い起こすだろう。
ハリウッドで映画についての映画が続くなか、前号で取り上げたチャゼルの「バビロン」とはある意味で対極にあるような作品。眠っていた映画館の灯りがともってゆく過程を息の長いショットで見せるオープニングシーン、そしてそれに続くオリヴィア・コールマンがひとり自宅で過ごすシーンの導入部から一気に引き込まれる。暗闇と光が最も重要な主題にあって、映画館はむろんそれ以外の照明演出も凝っている。これはメンデスの傑作「アメリカン・ビューティー」にも匹敵する美しさだ。
本作のオーストラリア出身の監督は第二次世界大戦当時、日本の敵国であったがゆえに東京大空襲については映画を通して初めて知ったという。そうした個人の映画の記憶からこの記録の映画は生まれた。序盤の紙にインクが滲んでゆく映像は爆撃に見舞われた都市部のイメージを連想させるだろう。タイトル「ペーパーシティ」の通り、何度も差し込まれる紙のイメージを写すカメラは、燃やせば焼失してしまう脆弱な記憶と記憶をデジタル技術によって後世へと強靭に残そうとする意志となる。
この映画の最も魅力的な見せ場になるはずの肝要な序盤と終盤の銃撃戦が冗長で迫力に欠けるのが惜しい。多用されるスローモーションなども演出のチープさに加担してしまっている。ステレオタイプ化された登場人物とほとんど予想通り進むストーリーが書かれた脚本も、よく見た戦争映画をなぞるばかりで、これで2時間超えの上映時間は厳しいのではないか。これでは「トップガン マーヴェリック」の高揚感をふたたび味わいたい映画ファンや戦闘機ファンを決して満足させられないだろう。
人気インフルエンサーが突如監禁され、制限時間内に規定のいいね数を稼ぐゲームを強いられる……どこかで聞いたような展開ではあるが、荒唐無稽さに乗っかりながら途中までは楽しめる。痛い描写がことごとく省略されているのも、グロ描写を避けて心理戦に重きを置くためなのだと納得できれば期待が高まるものの、あまりに教育的というか説教臭すぎるオチには鼻白む。SNSやインフルエンサーを「悪」のみで断罪しない、予想を裏切ってくるような要素が僅かでも介在してほしい。
いまだに映画的な演出を用いているところをほとんど見たことがないサム・メンデスにこんな隠れた映画愛があったとは知らなかった。前回取り上げたデイミアン・チャゼルのナルシシスティックな映画愛と比べるとメンデスのそれは随分とつつましく、悪い印象はない。主演のオリヴィア・コールマンはじめ俳優たちも頑張っている。ただ映画の中で映画の圧倒的な力を見せることが出来ていないのに映画自体を映画のもっている力になんとなく委ねてしまっている点は同類と言わざるを得ない。
丁寧に撮られた素朴なドキュメンタリーである。あの悲惨な大戦から早くも80年近くが経った。いや、まだたった80年しか経っていない。だが、この作品が撮影された当時からの6~7年で時代は急激に「戦前」へと回帰しつつある。あのすべてを奪った震災ですら10年やちょっとで忘れ去ってしまうのが国家でありわれわれである。劇中映し出される空襲生存者たちの「われわれに戦後はない」というスローガンを2023年に生きる日本人たちはどのツラ下げて眺めればいいのだろう。
前半の空中戦はなかなか良い出来である。実戦だと信じられるレベルのクオリティーは維持できているし、大きな機械が空を飛んでいるという事象に対するわれわれの原始的な興奮をかき立ててくれる。しかし戦いが地上に移ってからはどうにもB級感を隠せなくなってくる。サスペンスのためではなく経済上の理由からであろうタイトなショットの連続は作品のスケール感を大きく削いでいて、説教くさく説明的なドラマは何とも興醒めだ。そこは割り切って全篇空中戦でも良かったと思うのだが。
手を抜いた暴力に何の工夫もないカット割り、そして心底どうでもいいオチ。こんなものをこのご時世に90分以上眺めさせられている私は一体何なのだろうかという存在論的な問いに陥った。こうしたお戯れを職務上の必要に駆られて年に数回見るたびに思うのだが、我が国の専売特許だと思っていた「物事をまともに考えていない大人が制作した何それ」は当然ながら広い世界にも溢れかえっていて、それをわざわざ人の時間を奪ってまで見せつけようとする営みには悪意すら感じる。