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フィクションではないため近年の知見を活かしてダイアナの人物像や王室観をアップデートするという方向をとることは出来ず、結果的にマスコミの過剰報道に殺されたと言ってよいであろうダイアナの悲劇を、再び当時のマスコミが垂れ流したゴシップ映像から再構成するという何がしたいのかわからない内容に。実際に今作に関心を持つ層とも重なるはずの、皇后雅子や小室圭のゴシップに触れて妄言を撒き散らしてきたヤフコメ民諸氏は、是非本作を観て皇室報道について考えてほしい。
ボリウッドのハリウッド化傾向には複雑な思いを抱く部分もあるが、カースト制やジェンダー問題にまで切り込んだ後半の展開はグローバル基準の導入ゆえに可能となった要素だろう。ジャンルのツボを押さえた構成に加え、なにより圧倒的に素晴らしいのは、映画の説得力の大半がそこにかかっているといってもいい伝統楽器ムリダンガムの音色だ。ドミンゴ・クーラやトリ・アンサンブルの人力テクノを思わせる、倍音が生み出す中毒性抜群のグルーヴは、ぜひ劇場の大音響で体感されたし。
元軍人が生活のために危険な仕事へと身を投じざるをえない状況をリアルに描写したいという意図はわかるが、ミッション突入までの前置きはもう少し短くできたはずだ。また主人公が警察などに追われる展開は、一定の緊張感こそ持続していたもののさほど新鮮味はなく、やや下水道に頼りすぎという印象も。詳細や内容を吟味する余裕などないという事情があるにしても、命がかかっているはずの仕事における元軍人たちのリスク管理の甘さや決断には首を傾げざるを得ない場面が多かった。
香港の歴史をいま記録することに価値があるのは間違いないが、各作品の短さに加え、舞台となる年代をランダムに決めた経緯もあってか、出来にややばらつきが出てしまった感はあるか。当時の株に関するニュースを扱っているはずが、なぜか食卓を囲んでの会話の面白さの方が気になってくる点がいかにも彼らしいジョニー・トー「ぼろ儲け」、私の推しラム・シュや企画参加者でもあるアン・ホイもいい味を出している狂騒的な会話劇、ツイ・ハーク「深い会話」のユーモアに特に惹かれた。
映画がはじまって十数分が経ったところ、チャールズとダイアナの結婚式の模様が映し出される場面で「おとぎ話は普通ここで終わります。“末永く幸せに暮らしました”という言葉と共に」とナレーションが言う。本作が描くのはそんな、おとぎ話が決して描かない、結婚後のダイアナ妃についてだ。加熱するマスコミ報道についての事柄が中心だが、王室という存在の意義や批判も語られていく。しかしなにより、ダイアナ妃の存在そのものが類い稀な被写体であることを実感させられる。
インドの伝統楽器ムリダンガム作りの職人の息子が、一人前のムリガンダム奏者を目指すストーリー。そこにインドのカースト制度や旧世代のジェンダー観、伝統と革新といったテーマがうまく乗っかっている。しかし気になるのは、自然にはリズムが満ちており、この世界の脈動こそが師匠だと気づく重要なくだりで、映画は自然が鳴らすリズムではなく、大袈裟なBGMをかけて場面を盛り上げようとする点。とても楽しいのだけど、世界の脈動を聞き取り写しとることの難しさも痛感。
クリス・パインの治療能力の高さに目を見張る。自らを治療する数々のシーンもだが、特に両者ボロボロのなか、仲間のベン・フォスターに輸血までして蘇生させるシーンには驚いた。一方で、ストーリーの隠された真実的な面白みや驚きは弱く、黒幕の動機についても、その器の小ささは気になった。また、主人公は最初の殺しをとても躊躇しているように見えたのに、街中での銃撃戦で、一般市民が思い切り撃たれて死んでいくシーンは、その素っ気なさにかなり動揺してしまった。
香港の映画監督たち七人がそれぞれ、ある時代の香港の郷愁を綴る。興味深いのは、時代を描くにあたって、その多くが人間関係のあり方に着目している点だ。師弟や先生と生徒、恋人という関係性は、今と昔でそのあり様は変化したかもと投げかけているようだし、新しい価値観や社会に頑固に距離を取る祖父や父親と孫や息子を対比させたりもする。そのなかで、2000年代に起きた大きな事件と移り変わりを、株価という数字でコミカルに見せていくジョニー・トーの短篇が際立つ。
ナレーションもテロップも使用せず、何千時間から選りすぐった記録映像を時系列に沿って繋いだだけの構成がむしろ響く。夢のような結婚式の前後から加速する若き妃に注がれる過剰な視線、さらに夫婦を巡る極めて下世話な醜聞合戦にパパラッチの暴走……。マスコミを時に利用し、時に憎んだダイアナ自身と王室、またマスコミを糾弾しながら大衆紙や暴露本を買い漁る国民の功と罪、いずれの側面をもさりげなく突いてゆく。君主制とは何か、解けない謎を見つめるタイムリーな一本。
時代の波に押される古典音楽を、厳しい師弟関係やカースト制の抱える問題とともに正面から捉えた真っ当な、タミル語による南インド映画だ。それだけに、例えばラージクマール・ヒラニ作品などと比べると、テンポや人物造形、歌とダンスの弾け加減など見劣りする面も否めない。とはいえ“世界中が脈打つ”という台詞に象徴される原初的な音楽の歓びや生命の躍動、その裏に潜む芸能、ひいては人生という道の苦行を確かに描き切らんとする真摯な姿勢が最後まで気持ちよく、好もしい。
極めてストイック。過度の説明も、過剰に盛り上げる音楽も徹底して排し、潜行するかの如く静かにただ、特殊部隊を追われた男が流れ着く“請負人”としての過酷な任務を描き出す。淡々としつつ、先が読めぬ展開は終始スリリングかつミステリアス。大事な局面で登場するエディ・マーサンの盤石さ含め、重厚な手触りが印象的。退役軍人を待ち受ける不遇が背後にあるとはいえ、アクション映画らしい胸のすく痛快さももうちょっと欲しかった。クリス・パインの抑えまくった演技はいい。
旧き良き時代の残り香が立ち上る、黄金期を支えた名匠たちによる七篇。SARSから香港を救うべく製作された「1:99 電影行動」(03)より約二十年が過ぎ、状況も一変した。いかなる苦境にもどっこい負けぬ図太い笑いは影を潜め、アン・ホイの「校長」、ユエン・ウーピン(主演はユン・ワー!)の「回帰」、これが遺作となってしまったリンゴ・ラムの「迷路」など、じんわり沁み入る叙情が残った。フランシス・ンやサイモン・ヤムが老境を演ずることにも、一入の感慨が。