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映画は「馬と黒人」から始まったという主人公一家の宣言が実にいい。マイブリッジを起源としているわけだ。時空を超える雑多な挿話の積み重ねからじわじわと滲みだしてくるのは、かつて名子役だったアジア系青年の心に潜む「絶対的な他者に食べられたい」という不条理な欲望であり、それを主人公は理解していない。観客は理解する。手回しのアイマックス・カメラというガジェットも心憎く、映画小僧の琴線に触れるものがある。高額予算のおかげでM・ナイト・シャマラン映画みたい。
日本が世界に誇る夢の超特急で不良外国人集団がろくでもないことをやらかす、というナイスな設定。タランティーノ派を苦手な私には疑問だったが、好きな人なら★4つかも。この監督は傑作「アトミック・ブロンド」での仙元誠三級にシャープな長回しアクションが忘れ難いものの、本作では人工的なセッティングが目立つ。せっかくの真田広之の殺陣なのにもったいない。音楽にカルメン・マキとか坂本九を使うセンスは楽しい。何より私はプリンスという女性の肉食的な悪らつさがダメでした。
知らない国の映画を理解するのは難しい。これはれっきとしたスウェーデン映画なのに、ぼんやり見ているとフィンランドによる反スウェーデン・プロパガンダ映画みたいなのである。ネタバレになるので語れないが、そういう屈折を楽しめるかどうか。それがポイント。国民的なクラシック〈夏至の徹夜祭〉も鍵。趣味的な泥棒という優雅なコンセプトに似合っている。犯罪の動機も方法も奇想天外で大いに楽しめるものの、コメディにしてはギャグが少ない。この監督には向いてない印象。
タイトルはお店の名前。そうじゃない音楽、という感じかな。マイナーというのとも違うトンがった音楽を提供する場がかつてNYにあった。コロナ禍以前に収録された映像だというのは冒頭から分かる。こんな具合に「口角泡を飛ばして」店員とお客さんが議論できる世界はもう来ないのかもしれない。そう思うと懐かしさとも違った複雑な感情を抱く。多くの音楽ファンに見ていただきたい逸品。コメントもたっぷり。しかしそういう音楽に何の興味もない私には辛かったか。故に星も伸びず。
「her/世界でひとつの彼女」や「インターステラー」などで撮影監督を務めたホイテ・ヴァン・ホイテマのスペクタクルな映像美が、本作の壮大さを支えている。外に出ていくことによる恐怖、あるいはなにか巨大な力に吸い込まれてしまいそうになる漠然とした恐怖は、パンデミックに見舞われた「いま」を生きるわたしたちの心象に合致するものだろう。人種差別問題などもやはり引き継がれているが、ジョーダン・ピールの過去作である「ゲット・アウト」などと比較すると完成度は劣る。
外からの眼差しで撮られた異空間の日本を含め、荒唐無稽さがかえって癖になってくる。新幹線のダイナミックなアクションのかたわら、「水」に執拗に拘り続ける細部も効いている。「王子」という女性キャラクターは男児を望んだ親のための名をあえて引き受け、自分は「誰かの妻」や「いつか母になる」存在ではないと威勢よく言ってみせるが、結局は「女性は狡賢くて計算高い」とするようなステレオタイプに嵌っていくしかなく、フェミニズム的な視点では期待しないほうがよいだろう。
映画で携帯やパソコンが映るのを好まない。映画において人と人の結びつきを描こうとするときに、お気軽な便利道具を介在させてほしくないからだ。本作にもその思想におおむね則っている。トーマス・アルフレッドソンの「ぼくのエリ 200歳の少女」は疑いようのない傑作であり、「裏切りのサーカス」では端正な作風が奏功していたが、この監督は映画にとって何が退屈なのかをよく知っている。はずなのに、原案はスウェーデンで有名らしいが物語そのものに魅力をいまいち感じられず。
音楽業界と領域は違えども、愛されたレコードショップの終わりを通して、視聴形態の多様化の時代における映画館という場所が持つ価値や機能について思いを馳せた。劇中で最も印象深かったのは、床の塗装の剝げ具合によってどの棚が人気なのかが可視化されると語っている場面。破壊されていく店を見つめる男の表情にカメラが揺れながら寄った瞬間にドキュメントがあり、音楽業界やこのレコードショップに馴染みのない観客も様々な問題へと敷衍して考えさせられる普遍性を携えている。
一度それを見てしまったら最後、その後の人生の毎分毎秒がその瞬間をとらえるためだけに存在しているかのごとく日々が過ぎていく。さっきよりも光の具合が良いから次はもっと上手くとらえられるかもしれない。でもリテイクして予定調和になるとあいつさっと雲の中に隠れちゃうんだよな。犯している暴力にも気づかず、さまざまな人生と感情を飲み込みながらも刻一刻とそれは肥大していく。われわれはそんな存在を毎度理不尽に思いながらも今日もそれをとらえようと目をこらしている。
筆者は映画自体が面白ければリアリズムなど二の次だと信じている人間だ。だが、スマホひとつでこれだけの情報が手に入る時代に、さすがに現実を馬鹿にしすぎではないだろうか。筆者がこれまで好んできたこの監督のアイロニーは今作において空転するばかりで、白人以外の人種は名もなき血肉の山となり、日本産の幼く未熟なストーリーも相まって、地球環境に優しそうな冷気だけが客席をつつみこんでいた。好き放題演技しているときのブラピはいつも素晴らしいんだけど。
スウェーデン産は何であれ最低限の趣味の良さを保証してくれるはずだという筆者の固定概念を見事に打ち砕いてくれた一品。ウェス・アンダーソン作品から美的センスやユーモアをすべて剥ぎとった代物とでも言えばいいだろうか。どうしたらこんなにも落差のない=「つまらない」ネタや演出を次から次へと「どうですかみなさん、好きなだけ笑ってください、われわれってみなさんと比べると少し変でしょう? 特異でしょう?」という地点から他者に差し出せるのかまったく理解できない。
2016年にその20年にわたる歴史に幕をおろしたNYの伝説的レコード・ショップ「アザー・ミュージック」。このマイナーたちの聖地の常連であった俳優のジェイソン・シュワルツマンが語るように、何かに本気である人間たちの話ほど興味深いものはない。たとえ、忘れえぬテロに遭遇しても、時代の荒波に飲み込まれても、ただただ音楽を愛している、そしてそれを誰かと分かち合いたい、表現したい。そんな狂おしい情念だけで全カット全コマが満たされていて、胸がいっぱいになった。