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ドキュメンタリータッチで描かれる少女の不安で悲痛な旅を、まるで本人になり代わったように体験できる一作。長距離バスから垣間見えるニューヨークの雑踏や、深夜のバスターミナルなどの観光的ではない風景が、まさに17歳の感覚で切り取られ、ひりひりとした痛みまでも伝わってくるような撮影が見事だ。さらに驚かされるのは、劇中で示される田舎と都会の人権感覚の違い。一人の人生の行方が生まれる場所によって決まりかねない米国内の異常な現状を訴えかけるテーマも真摯である。
兄弟のように男たちが深い繋がりを見せるブラザーフッド要素とSF要素、行き場のない者たちの逃亡劇を上手く組み合わせ、求心力を高めた成功作。大企業と政府が互いを軽蔑し合いながら協力している描写は漫画的だが、現在の社会にリンクするリアリティを感じる。一方で、命の倫理観に迫るテーマの上では、人道に外れた人体実験と、生命の領域にかかわる科学技術を認めるかどうかという、別の問題をまとめてしまったことで説得力を欠いている部分もあり、いささか消化不良ではある。
コメディーでありサスペンスでもある不思議な味わいの映画だが、それゆえ先が読めない展開はフレッシュで鮮烈だ。最近になって抑圧される女性の象徴となっているブリトニー・スピアーズのイメージをも背負った大胆不敵な主人公像と、演じるキャリー・マリガンの肝の据わり方が素晴らしい。女性の人権問題を過激に描いた新感覚の娯楽作として、後に確立されるだろうジャンルの先達となることも予想される傑作。それにしても長編監督デビュー作で、ものすごい金鉱を掘り出したものだ。
ここで再現される、日本軍がアジア各地で行っていた蛮行を映し出した光景は、とくに日本人が見ておくべきものだろう。そして、そのような深刻な歴史的事件とは対象的な日本のイメージとして、阿部寛の役が体現する日本庭園の理念なども配置されるところが本作の特徴。だが、あれだけの地獄を表現した後で、文化の神秘性や特殊性を持ち出すのはさすがに悠長過ぎるのではないだろうか。暴力的なシーンに重さがあるゆえに、劇中のスパイ騒動やミステリーが軽いものに感じてならなかった。
親にはもちろん、誰にも知られずに解決したいが、お金がない。17歳の女の子が抱え込んだ容易ならざる現実を核に、セリフの量、カメラの動きも抑え、画面で行われる事実に見る者の感情を最後まで集中させる脚本と演出が秀逸。ニューヨークでのヒロインとカウンセラーの、明け透けな遣りとりは劇中いちばんの見どころ。世界中の若い世代が抱える困難を映すだけでなく、カウンセラーの言う「それがあなたの選択ならどんな理由でもいい」に、やり直しを後押しする健全さをみた。
ある種の人間の究極の欲望は不老不死、永遠の命かもしれない。望まずしてそれを与えられたクローン、そして対照的に余命宣告を受けた二人の、死という宿命への向き合い方を、分かりやすい脚本と淡々とした演出で描いた点を評価したい。分けても実験体にされてしまった結果の、ソボクの永遠に対する恐怖が胸を刺す。先端科学と生命の関係云々などはさておく。ただ、ソボクには生命の摂理にしたがい自分の人生を生きることが叶わない哀しみがあり、作品の深淵な意味ここにある。
登場人物に聖人君子も極悪人もいない。未来を約束された普通の若い女性が、不条理極まりない状況に立ち向かう日々を、練られた脚本によって執念に集約して描き切ったE・フェネルの技量を評価したい。ガーリー映画風のカラフルさで見せるビジュアル・センス、またロマコメ風の軽妙な演出も併せて。ヒロインの名前をギリシャ神話の予言能力を授かった王女と同じカサンドラとし、現代のカサンドラに〈Angel of the morning〉をBGMに、スマホで目的の遂行を予告させるとは。うまい。
戦中戦後の日本軍とマレーシア、続いてかの国と英国軍、さらに80年代の、三つの時間軸。その軸を貫くヒロインに日本庭園造園の背景や山下財宝などのエピソードが濃密に絡まり、パッチワークを彷彿。主要人物4人が台湾、マレーシア、日本、英国人俳優なら、監督、脚本、それからスタッフ陣もまさに多国籍。その効果は画面にくっきり。日本軍の収容所、緑滴る茶畑や霧の日本庭園、千羽鶴などの屋内の設え、タトゥー。耽美的でさえあるも、一方、消化不良ぎみの感がする。惜しい大作。
望まぬ妊娠をした少女が堕胎手術のために従妹と共に3日間の旅をするだけの飾り気のない物語であるが、最小限のセリフと音楽、人物のクローズアップを多用した演出は彼女たちの不安定な心情を的確に捉えており、バイト先の度が過ぎたセクハラ店長、バスのナンパ青年、電車内の露出狂など、出てくる男性の多くが少女たちを性的に見ているという描写や、彼女に投げかけられるカウンセラーの言葉により、女性が抱える苦悩を静かに、しかし強く訴えている、あまりに映画的な映画である。
iPS細胞がうんぬんかんぬんでとにかく不死の体を持つクローン青年と、うんたらかんたらな不治の病で余命いくばくもない男のバディもので、設定は諸々ガバガバなのだが、人間にとって死とは何か、という主題についてはそれなりの哲学が語られており、その部分を深掘りしていけばいいものを、クローン青年が脳波で物体を自在に動かせる超能力を持っているという欲張り要素を付加したばかりに、結局クライマックスは既視感まみれの念力バトルになってしまっているのがもったいない。
世のクソ男たちへ鉄槌を! という復讐モノ、あるいはサイコスリラーとしては満点をあげたくなる出来なのだが、話はそう単純ではなく、中盤以降はかなり痛烈なフェミニズム的主張が物語を覆ってゆく構成で、この社会性を帯びたテーマは、自ら仕掛けた巧妙な罠で捕獲した獲物に罰を与えてゆく過剰な行動を粒立った音楽で装飾している序盤の娯楽性とはいささか齟齬が生じているものの、かようなバランスの悪さもまたこの映画の不気味な魅力であるし、とにもかくにも物語が滅法面白い。
マレーシアでの日本兵の蛮行が生々しく描かれており、日本人としていたたまれない気持ちになりつつも、菊池寛『恩讐の彼方に』男女版を思わせる悲恋物語のどうしようもない切なさは胸に迫るものがあったのだが、隠し財宝や収容所の位置と刺青、庭石の関係性などが明かされるミステリ風の終盤は捻りがきいているとはいえ、それまで散々に日本庭園や刺青の芸術性について語ってきたことを考えると、そんなことに利用するのは文化芸術に対する冒凟とも思え、少々モヤついた気分になる。