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昨今流行のLGBT映画ではない。日本でも元アイドルがニューハーフ役に挑戦したり、テレビ媒体でこの程度の世界観を描写することは多々ある。冒頭バス内で聾啞の少女とアイコンタクトをしたり、移民やゲイの娼婦など社会のマイノリティたちとの交流は多様性への承認となっている。ゴルチエのモデルもしていたという主人公演じる美しきアンドロギュヌス的な魅力のアレクサンドル。社会的な主張もある作品だが、この程度なら『ル・ポールのドラァグ・レース』で十分かも知れない。
「DAU」シリーズ第一弾で、これから連作として発表される。オーディション40万人、キャスト400人、エキストラ1万人、2年間そこに住まわされて撮影するという余りにも壮大かつ狂気なプロジェクト。しかし「DAU.ナターシャ」は、主要出演者はたったの4名。今作だけからその規模は想像し難い。視覚と台詞情報で全体の設定把握は困難だ。「カクテルパーティ現象」と呼ばれるその空間に満たされている会話や音の何を取捨選択するのか。膨大な断片たちは巨大な全体像を予感はさせる。
33年前のベトナム戦争で殉死した兵士の調査をしていく実話。勝者の歴史と言われるものがあるのと同時に、敗者のそれや、忘却された、埋没した、消去された、声を持たない、様々な「歴史」が存在するはずだ。アメリカ映画界の重鎮の役者が勢揃い。彼らの証言や記憶を収集するプロセスは映画界へのオマージュとも重なる。国家の利益や戦争の勝敗を超えて、偉業を成し遂げ埋もれた英雄たちへの感謝と敬意、そしてその継承が底流にある今作は、どの世界にも共通する誠実さに満ちている。
トランプ政権時代に見かけたカエルのペペ。裏にはこんな物語があったとは。ドーキンスが唱えたミームとして説明されているが、SNS時代のイメージの誤用は、強度を持った像が合わせ鏡の中で歪められ、無限に増殖していくシミュラクル理論そのものだ。そして原形は終いには消失していってしまう。ぺぺが誤用されてしまった理由には、明確で迷いのない線描にもかかわらず、その表情や心情が読み取り難いことが挙げられるかも知れない。それはデジタル変換社会と無関係ではあるまい。
フォーマットは古典的な「スター誕生」映画。最終盤にテレビ中継の副調整室シーンになる点まで見事に様式美に貫かれ、そんな物語のナイーヴさが好きな私は思わず拍手してしまうが、ワンパターンを感じる観客も多そう。美貌の主演俳優について属性を厳密に規定しない設定にジェンダームービーの現在進行形を感じるものの、ミスコン関係者が誰も主人公の性別を疑わないのはいくら長身女性の多い西欧が舞台でも強引。あるいはとネット検索したら、すでに現実に似た出来事が起きていた。
背景にある壮大な映像芸術実験プロジェクトの全容はホームページやパンフレットの文字情報で知るしかなく、この一作だけでその意義や成果の理解は難しい。「1970年代のカサヴェテスが50年代のソ連を撮ったら?」みたいな映像感覚を楽しめる観客なら料金相応と納得するかも。飲酒や全裸の場面が随分多いが、どういった実験目的の反映か知りたい。ロシアや欧州では同プロジェクトの続篇が次々と公開・配信されており、全貌を把握した後、評価が大きく変わる可能性はある。
錚々たる名優が揃った映画だが、あろうことか、ピーター・フォンダのみならず、クリストファー・プラマーも本作が最後の実写作品となってしまった。ウィリアム・ハート、エド・ハリス、ジョン・サヴェージ、そしてサミュエル・L・ジャクソン。男性映画の星たちによる、いわば「戦争映画」への鎮魂歌だ。男性社会美化や戦争肯定など分かりやすい批判にさらされるテーマなのは充分に承知の上で、老優たちの顔に刻まれた深い苦悩と皴を見て、素直に涙ぐむことを許されていい作品と思う。
無邪気な漫画キャラがネット上でアレンジされ拡散し政治化する過程を追う着眼点は斬新で刺激的だ。何も考えてなかったキャラ作者はある日突然、社会問題化した責任を負わされる。その深刻さはすべてのSNS使用者にとって他人事ではない。ただ、情報提示は細密だが、本質の「なぜ幼稚なアイコンが政治化するか」の分析はない。小気味良さを感じさせる結末も根本は悪い利用と表裏一体で、ポピュリズムがはまりやすい落とし穴だ。監督がそこに無自覚っぽい点に批評性の脆弱を感じた。
スルッと観られるし、こういった逆境をはね返す感動物語には、複雑な展開はなくていいのだろう。主人公に降りかかる難題が、倍の幸福感として返ってくる単純さもたまにはいい。その展開をつなぐ細部も語りこぼしは特に見られず、個性的なキャラたちもメンツが揃えてある。でもどことなく雑というか、ステレオタイプに依存していて、本作で新しい内面が掘り下げられたといった個性や長所を感じない。どこかで見た話、どこかで見たキャラの集合体が単純化され、記号的に並んでいる。
事前情報で本作の途方もない規模に驚かされつつ、それをグイグイ押し付けてこない堅実な雰囲気に好印象。ストーリーが意外にコンパクトな分、ウェイトレスたちの均衡が危うい関係性など、日常の細部に神が宿る系の作品だ。いつまでも観ていられる良質な子葉であり飽きないダラダラ加減。ただ性描写や拷問描写を巡って、ここ数年で否定的な捉え方へとかなり決定的な流れができたので、本作の監督たちも見解が求められるだろう。むしろ女性が拷問を受け流す描写に嫌なものを感じる。
本筋はある兵士がベトナム戦争で勲章を貰えなかった理由を、ミステリー風に辿っていく人道的な政治劇。物語の曖昧な輪郭は後半になって引き締まってくる。描写はあまり客観的ではなく、時間の経過もセリフで伝えられるのみなので、視野狭窄に陥って主人公の行動が把握できなくなりそうだったが、徐々にそれが癖になってきた。愛国の挺身ヒーロー映画にピーター・フォンダが出ている衝撃も、役柄の背負った闇で中和されている。安さもキャスティングのセンスの良さで救われている。
自身の漫画がネットミームとしてオルタナ右翼に乱用される不本意さ。本作はネットで無断使用されるキャラを通し、最近の無慈悲なネット民の存在を再認識させる。ネットという集合体のうねりが炎上となって政治家の進退を決めたり、問題を起こした有名人の運命を握ったりする時代に、我々みんなが困惑している。その渦中を捉えた本作では、まだ的確な対処法も決まっていない社会の後手ぶりが浮き彫りとなる。極端な状況が続く現時点の記録として良いし、類似作品の呼び水になれば。