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コロナ禍におけるブロックバスター作品劇場公開の先陣を切ったことで映画界の救世主となったノーランだが、そもそもの企画からして、実現したこと自体が奇跡のような作品。批評よりも解説が求められ、ネットで様々な設定の検証がおこなわれるこの時代において、1回観ただけではほとんどわからない(2回観たら結構わかるが)、劇伴と効果音で重要な台詞さえ聞き取れない作品を、この規模で作る蛮勇。登場車種に見られる趣味性の欠如は、スパイアクションの作り手としては弱点だが。
英国の黒人映画作家が、かつての植民地であり連邦加盟国である南アフリカを舞台に、70年代の反アパルトヘイト白人活動家の脱獄劇を描くという、複雑な構造を持った作品。もっとも、監督自身がブレッソン「抵抗」と紐づけていることからもわかるように、良くも悪くもストイックな作りで、本篇の大半は獄中の日常描写に費やされている。『プリズン・ブレイク』を露骨に意識した邦題は、商業上の理由ということは理解できるものの、作品の持つ真摯さを毀損している。
2010年代の終わりにリメイクされる「アダムス・ファミリー」に期待するものといえば、近年のゴスカルチャー再評価や、メンタルヘルス問題を抱える若者にどう寄り添っているかになるわけだが、驚くことに本作にはそうした目配せがほとんどない。同時代性を感じさせるのは、ミーゴスによる最高に楽しいテーマソングくらい(プレスシートで1行も触れられてないことに啞然としたが)。原作コミックに忠実であったとしても、これではあまりにも間口が狭いのではないか。
昼でも夜でも不自然に役者の顔を照らし続ける陰影の欠けた照明、個性もメリハリもない大仰な劇伴、説明的なモノローグに導かれて転換していくシークエンス。日本を含むアジアの大作映画の一部に共通するそうした作風は、必要以上にエアコンがキンキンに効いていて、時代遅れのヒットソングが大音量で流れている、蛍光灯の白々しい光に包まれた地方のショッピングモールを自分に想起させる。そういう作品に限って、内向きの国威発揚映画だったりするから目も当てられない。
ノーラン監督に誘われた“非日常的な旅”。シーン(場)やモーメント(瞬)がまさしく旅するように軽やかに描かれる。時空を超えるノーラン・マジック(洗練を極めた!)を堪能するうち、世界はとても大きいと気づかされる。主人公/名もなき男の胸の内は語られないが、彼の行動(例えばキャットとの成り行き)は腑に落ちる。名前も知らぬ他者の記憶や経験を生きる新たな視座を享受し、人間って面白いという感慨も。現実を忘れ、映画の世界を“体験”できるよろこびに満たされる。
木片を集めて作った鍵で、鉄製の扉を次々と突破し、仲間とともに見事刑務所を脱出した、実在の政治犯ティム・ジェンキンの脱獄劇。ティムに扮するダニエル・ラドクリフの激変ぶりに驚かされた。“良心の囚人”役イアン・ハートがチャーミングだ。「怒りは抑えろ。外の世界を思い出してしまう」と重い科白をさりげなく吐く。刑務所を脱出する者、留まる者、それぞれが迎える朝が清々しい。刑務所が舞台とあって、鉄格子を想起させるライティングの中で、脱獄犯たちの光る目も印象的。
クリスティーナ・アギレラの〈Haunted Heart〉を筆頭に音楽が素敵だ。ラーチのピアノも、フォスター伯父さんやフランプおばあちゃん(ベット・ミドラー!)の歌もパンチが効いている。でもクールなのはアダムス・ファミリー限定、マルゴー率いる新興住宅地で暮らす人間の音楽はあからさまにダサイ……とメリハリの効いた構成で、どちらの「普通」が不気味なのかを軽妙に描く。アダムス家の子供たちが、異なる価値観や300年に亘る一族の歴史の、新たな希望となる役どころを担う。
序盤の60年登頂の回想シーンからクライマックスに昇りつめたまま、ラストまでハイテンションの125分。セカンドステップで、仲間の背をハシゴ代わりに裸足で登り、凍傷で足を切断したソンリンのヒリリとするエピソードは、チャイニーズラダー誕生秘話へと結実。15年のブランクを物ともせず、鮮やかなハシゴさばきで雪崩から若い隊員を守るファン隊長の活躍にはツイ・ハーク&ダニエル・リーのアクションへの変わらぬ情熱に感じ入った。おさげ姿のチャン・ツーイーにもびっくりだ。
大筋はМ:Iシリーズ×「ラ・ジュテ」(!?)だが、時間の逆行という「メメント」の手法を物語自体で構築した、ゴダールが観たら嫉妬しそうな壮大な実験作。エンドロール前に〈TENET〉というタイトルが出て、ようやく散らばったピースが繋がった(気がした)が、散々革新的な映像体験をさせられた後、というのが憎い。辻褄合わせでもう一回観たいと思わせるのではなく、二回以上観ることを“前提”で作ってしまったノーラン、個人的には「ダークナイト」以来の会心作。
70年代の南アフリカ、反アパルトヘイト活動に参加した白人たちを収容している刑務所が舞台の実話。恵まれた暮らしを捨て、闘い、捕まった彼らの脱獄計画、その行動自体が彼らの抵抗運動であり意思表示だ。それは、今のBLM運動、そして香港で闘う若者たちの姿と重なる。D・ラドクリフが良い。自らのイメージを逆手に取った近年の役選びが抜群だが、今作では淡々と計画を進める実在の人物を演じ、その内に秘めた熱い思い、滲み出る生き様を体現している。
独自の文化を持つ異形の家族たちを排除しようする「普通」を愛する人々は、テレビの女性司会者に先導されている。その彼女のルックスや発言、裏で行っていることは明らかにドナルド・トランプを意識していて、アダムス夫妻の声を担当するのは、グアテマラ出身のオスカー・アイザックと南アフリカ出身のシャーリーズ・セロンだ。多様性が叫ばれる今、「他者との違いを楽しめ」という原作のメッセージを痛烈に、しかしポップなアレンジを施して描いた現代版アダムス・ファミリー。
60年と75年にチョモランマ登頂に成功した中国登山チームの実話がベースの「山脈アクション」。当時の情勢に翻弄されるチームメンバーたちの葛藤、男女のお互いの想いが伝えられないメロドラマ、親友同士の過去の因縁など、実直なキャラクターたちによる展開は型通りに進みすぎて、感情がなかなか揺さぶられない。吹雪の中の登山シーンは、ロケとセット、CGをバランス良く合成したクオリティの高い映像で、生々しさはないが、自然と対峙する恐怖が堪能できる。