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ふたつの「死」に挟まれている物語は、「欠落」というより人間関係の「反射」を映し出す。まるでスタンドアップコメディのステージを見ているように、我々は全シーンに映り込むジムの一人劇場に付き合わされる。現代のSNS文化を彷彿させるこの精神構造とは、神か超越的存在に見守られたいとする欲望である。個人が個人を描けば描くほど、鏡像関係の世界が描かれる。滑稽で悲惨な孤独な男の空回り人生から、その男を演じ作り出しているジム・カミングスの世界の見え方が露出する。
監督はポーランドのアンジェイ・ワイダ映画学校出身の22歳。少女コミックから出てきたような強烈ヘッドコーチに罵声を浴びせられるリタ。政治とプロパガンダの関係が濃密で、ロシアの選手たちは謎に包まれている。アスリートの強さは国家の強さ。昔ヴェネチア・ビエンナーレで米アーティストの作品が、国家の威信をかけてミッドウェー空母で搬入された。優れたアーティストの創出は国家の軍事力だと知らされた衝撃。燦爛ではなく人間の影や深みに惹かれる若い監督の着眼点に期待。
香港が揺れている。中国の国家安全法の導入に向けて、いま世界中が中国と対立。ジャッキー・チェンなどは中国支持を表明。香港の映画界でも真っ二つに。本作は欲望と正義、善と悪、謀叛と忠誠といった単純なアクションエンターテインメントである。九龍城砦の上空を旅客機がかすめ、これを懐古趣味を含んだ娯楽作品に昇華してしまう生命力。「豪華二大俳優スターの共演」という謳い文句は、この現代の社会背景への想いを隠蔽してしまうのか、もしくは決別か諦念なのだろうか。
世界の覇権国はアフリカを植民地支配し搾取してきた。いわゆる南北問題だ。デンマーク人の映像作家と相棒ヨーランは、アマチュア探偵か調査ごっこ宜しく約60年前の国連事務総長の不審な飛行機事故を追跡していく。手腕や作業はどれもこれも素人臭く笑いを禁じ得ない。しかし後半になると世界の闇の深淵へと一気に引きずり込んでいく。「この物語は世界的な殺人事件か、呆れた陰謀論か」。ドラマもドキュメンタリーも、あらゆる映像とは真実であると同時に妄想でもある。
善良に生きつつ破綻してゆく警官の日常を微苦笑を交え無慈悲に描く。ポリスストーリーでありながらヒーロー映画とは対極を物語り現代の男性性の変容が浮き彫りになる。離婚調停場面は「マリッジ・ストーリー」に似ていて、妻と別居後に恋人を作らない貞潔(オタク?)な男性像は昨今のアメリカ映画のトレンドかと気になった。私は加齢のせいか不定愁訴めいた気分になる時があり、監督兼主演俳優の感情失禁演技は身につまされた。とはいえ男性が無条件に惹かれる映画とは言いにくい。
最終盤に彼氏との濃厚ラブラブカットが用いられ、そうした場面は日本製スポーツドキュメンタリー、こと五輪選手の場合には使用例があまりないので新鮮。だが、それ以外のほとんどのシーンは練習中にコーチにどやされ不機嫌な表情のマムーンを延々映しているだけで物足りない。ロシア側の撮影非公開が多かったのかもしれないものの、監督が構想した作品に完成しているのだろうか?スポーツ記録映画は人気の安定したジャンルでも、新しい切り口やスタイルの提示は案外難しい。
監督のひとりがバリー・ウォンなので実録作品の現代的更新は期待せず、90年代の香港映画に対するような寛大さで見るべき。香港では有名な60年代の悪徳警察幹部と麻薬王の癒着から失墜までを描くが、A・ラウは過去に何度も同じ役を演じた十八番で、この人本当に悪人? と戸惑うほど悪びれず影のない芝居。彼の美貌にウットリしたい向きには不満はなかろうが。麻薬王のドニーは口髭をたくわえ片足の不自由な役、新境地の演技だがアクションは抑え目でカタルシスに不足する。
戦慄のドキュメンタリー問題作。NETFLIX作品『ジャドヴィル包囲戦』にコンゴ動乱の転換点として登場する1961年の国連事務総長搭乗機墜落事故は当初から暗殺説が根強く、2015年に始まる国連の再調査は今も続いて米英の非協力が問題視されている。しかし映画の核心はそこでなく、中盤以降のネタバレ厳禁な驚愕展開はセンセーショナルすぎてフェイクに受けとめられかねない。ここで私が真贋を判断するのは難しいが、時局とシンクロしており確実に物議をかもすだろう。
惹句に「切なくも心温まる」と書いてあるのに気づいて、自身が抱いた印象との違いから不安になった。確かに優しさもあるが、全体的には「歯止めがきく/きかない」「正気/狂気」の境界線に存在する男の、現実における生きづらさが生々しく描かれている映画だ。まともな人間のやりとりを擬態しつつ、実際の本性が現れた瞬間に周囲の人が引いていく、危さを抱えて生きる男の些末が積み上げられた不安定なストーリー。主人公の周囲で起こる斜め上からの出来事も主軸に寄り添う。
思いがけずキリキリと神経がやられる良質ドキュメンタリー。新体操の選手マムーンの軌跡というより、コーチと選手の間でモラハラ、パワハラの負の連鎖が続く実態を捉えてしまった作品だ。人間性を破壊する指導を許してまでも、オリンピックに価値はあるのかという問いかけに、マムーンが出した後味の悪い答えに愕然とさせられる。監督は最初からこのテーマを狙い、ロシア新体操の撮影をしようとしたのだろうか? 練習風景に写り込んだ加虐性に着眼してつないだのか、気になる。
香港二大スター共演の、悪行に手を染めた人物をモデルにした犯罪映画らしい、良い話にするか悪い話にするかの選択で、どちらにも振った揺らぎのある作品だ。でもそこが香港スター映画らしい。ドニー・イェンは当然アクションも素晴らしいが、芝居が上手いので様々な場面を「スカーフェイス」のアル・パチーノのごとく切り回す。建物の撮影の仕方がシューティングゲームの画面のようなのも目新しい。ラストのショットガンと香港の上下が入り組んだ街並みでの立ち回りには興奮した。
観客を煙に巻こうとする技巧が効きすぎて、本筋さえも疑わしく思えてくる作品。ただでさえにわかには信じがたい証言と指摘だけに、ぼんやりとした輪郭で語られると茫洋とした印象を受けてしまう。世紀の発見というより、ヒストリーチャンネルの眉唾物なドキュメンタリーのようで戸惑う。その分、巧みに話をそらしたような、あえて信憑性を追求しない演出は上手く出来ているのだろう。愛嬌のようなものは時々のぞくが、淡々とした進め方でとりつく島がないような。