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世界中の12秒間の停電により、ビートルズが存在しない世界に迷い込んでしまったジャック。この世とは別の宇宙が多数存在しており、そこにもうひとりの自分がいるというマルチバース的宇宙論。「いまや一曲を16人が制作する」という台詞と、ビートルズという集団の創作をひとりでこなしている振舞いは一見対極に映る。しかしそれは同義だ。創作物を集団知によって認識できたものだけが「結果」となるから。そしてビートルズを再聴することで、我々の集団的感覚が炙り出された。
スパイク・リーが脚本を絶賛し、トラン・アン・ユンが美術監修を務めた新人優等生は、驚愕な作品を提示。先祖の記憶をポテンシャルに自身の創作の正統性を貫く。しかし、真の感動はその外部の物語にあるのではなく、作品の内部に存した。秀逸な脚本さえ色褪せてしまうほどの、その景色や光陰、湿度、そして集落や人々の慣習や仕草などが、映像内部に自由に生きている。失われた家族や民族の歴史そのものが発酵し、芳香を放つ。監督個人の底に流れる集団的無意識を見た。
そもそもヒップホップとはアメリカのエスノマイノリティのコミュニティのブロックパーティから派生した文化だが、この作品はその源流に遡行することはない。あくまでも個人や家族との軋轢が原動力。しかし世界中のヒップホップを武器に戦っている若者たちは、その歴史性や批評的態度ではなく、日常の声にはならない叫びをビートに乗せているのだ。その意味ではここでの描写ははリアルだ。しかし作品世界は悪い意味でアメリカ化されたもので、インド映画のリアルな現状が伝わる。
私は好きな作品ではないが、このような痛快エンターテインメント時代活劇はあっても良いと思うし、完成度も高い作品。タロン・エガートンの演技や監督の手腕も素晴らしい。批評でその作品が生まれる背景や現象として作品を捉えることは可能ではないのか。同時代性や集団的な無意識をそこから読み取る姿勢だ。この作品からは製作者側の同時代性や製作の必然性がまったく伝わってこなかった。特殊なレンズを駆使しハイリゾ撮影をこの作品で実現する意義とは?
近年ヤキが回ったダニー・ボイルだが本作もくだらない。劇中に描かれる最悪の「マーケティング会議」で決まったような売れ筋要素をつないだだけの企画。主人公の視界と性欲がすべてを支配する恋愛系アニメみたいなペラい世界観と機知も驚きもない安直な結末。サウンドの作り込み抜きで曲が大ヒットするのもリスペクトになってない。そもそも基本設定がどこかで見たアイデアってこと自体が批評の刃として作品の内側に向かう。その皮肉がヘソ曲がりには愉快……なのが二重に皮肉。
いつか見たデイヴィッド・ハミルトン映画の耽美な感触。蝿も蚊も百足も蛇も蝙蝠もいない、カビも苔も生えない乾いて清潔な19世紀東南アジア。白い歯、サラサラヘア、今風ナチュラルメイクの痩身美女たちが紗のかかった世界で愛と性に惑う。驚くべし多妻制の妻どうしの修羅場や家長の横暴もない。イリュージョンの近世ヴェトナム女性史は長大なペットボトル緑茶のCMのよう。淡いエロスに萌える前戯映画として不倫デートに使える? ウーン、大人の観賞にはも少し刺激がないと。
中年男がひとり観るにはつらい映画だ。主人公がスラム出身でインドでは少数派のムスリムなのには同情するが、親の金で大学通い、高そうなスマホ使って複数の女とイチャイチャ、一度の出会いで才能が認められ、突然パトロンが現れ作ったPVがいきなりバズる超恵まれ人生。メジャー進出に致命的障害のはずのワル友まで自ら犠牲になり応援とはあまりに幸運で、主人公が格差社会を恨みライムする理由がさっぱり分からん。俺が若い頃の貧乏四畳半生活を小一時間聞かせてやりたい。
中世英国が舞台でファスナーついてそうなデザインスーツや「マッドマックス」めいた改造兵器が登場。荒唐無稽だが活劇として優れた見せ場もあり中高年男性も楽しめる。悪の根本をカソリックに置く設定や、香港やパリの街頭デモを思わせる民衆蜂起の描写にも驚き。権力が十字軍出兵の背後で仰天の陰謀をめぐらすのはトランプ政権への当てこすりか。まぁ主要男性キャラの動因が女の取りあいって部分は情けなくもあり、ふられて暗黒面まで落ちるヤツに至っては、お前小せえよ、と。
タイムスリップもの等にありがちなアイデアだが、絞りを徹底したのは効果的。ただストーリーは脚本家R・カーティスによる青春恋愛劇で軽く、一夜で世界が一変しようと、長きにわたりすれ違う男女の物語であろうと、深刻である必要はないと割り切っているようだ。オリジナリティを巡る苦悩も描かれつつ、その芸術性を取り扱う着地点が最良であるのかは疑問で、全体にズシッとこないライトさ。ビートルズの汎用性の高さへの再認識や、楽曲を新たなアレンジで聞く楽しさはある。
一夫多妻制を扱った映画としてチャン・イーモウの「紅夢」を連想する。女同士が足を引っ張り合う「紅夢」に対し、本作は女同士の間では時に妬む瞬間はあっても、基本的に連帯がある。でもどちらが真実かというのは無駄な考えで、現れ方は異なっても横たわる不条理への違和感や身を焦がす苦悩は同じだ。女同士のクィアへの機微を見分けた目線や、男性優位の歴史の中で女が状況を受け入れるたゆたい方。作り手の性別に囚われたくないが、やはり女性監督らしい率直さと怒りの表現を感じた。
インドの階級差や貧困の負の連鎖を端々で捉えながら、基本的には王道的な才人の出世物語。主人公はスラム街では珍しい大学通いによってラップに出会い、才能を認められて録音場所が確保できるのは裕福な友人のおかげであるなど、批判性と現実的な世知辛さが同時にあるのが本作の正直さだ。妻と同宅する妾の悪意なく事を荒立てない態度や、女性が強制結婚で学業の機会を奪われそうになる演出のほか、若い娘の粗暴な嫉妬深さがチャームポイント的な扱いなのも女性監督らしい演出。
最近下火になってきたヤングアダルト系作品。時代考証をあえて無視して現代風かつ華美に見せる演出は、そういうものなのだと思えば受容できる。ロビンが弓の稽古によって上達していくモンタージュや、街中でのアクションはキレがあって楽しいが、B・メンデルソーンのいけ好かない中間管理職への配役は既視感がありすぎる。主役が義賊の場合、倫理面での解釈は追究しなければいけないテーマだが、本作は善悪を一元的に描くことでその問題から目を背けており、些か子供騙しの印象。